(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月5日21時40分
熊本県御所浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第十一住久号 |
漁船三代丸 |
総トン数 |
10トン |
7.9トン |
全長 |
12.50メートル |
14.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
360キロワット |
205キロワット |
3 事実の経過
第十一住久号(以下「住久号」という。)は、港湾工事にアンカーボートや交通船として従事する鋼製作業船で、A受審人が1人で乗り組み、同僚3人を乗せ、業務打合せの目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年4月5日19時30分熊本県大道港を発し、同県御所浦漁港に向かった。
ところで、御所浦漁港は熊本県の嵐口漁港(以下「嵐口地区」という。)と同県本郷漁港が平成13年3月21日付けで合併した漁港で、嵐口地区の前島には、同島北西岸沿いに東西約430メートル南北約370メートルの広さのたい養殖施設(以下「養殖筏」という。)が設置されていた。
20時ごろA受審人は、嵐口地区西端部に設置された浮桟橋に着いて出船右舷着けに係留し、近くの工事発注業者の事務所に赴き、飲食をしながら業務の打合せを行い、帰りの航海を考慮して平素の晩酌程度の量のビール大瓶2本と焼酎一杯を飲んだものの、酔いを感じないまま21時30分ごろ打合せを終わって大道港に帰ることとし、自船に戻り、浮桟橋に渡る橋の陸上側に設置された街灯の明かりを頼りに離桟準備にかかり、酔っている同僚との会話に気をとられ、法定灯火の点灯を失念して同灯火を表示しなかった。
21時37分A受審人は、嵐口港4号防波堤灯台(以下「嵐口灯台」という。)から288度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点に設置された前示浮桟橋を離桟したが、操舵室内で航海灯等の点灯の確認を行わなかったことから、法定灯火を表示していないことに気付かず、操舵室内に明かりがない状態で無灯火のまま、養殖筏が見えなかったことから、対岸の街明かりを見て、見当で前島西側の養殖筏を替わす針路のつもりで針路を016度に定め、機関の回転を徐々に上げながら、操舵室内で立って手動操舵により進行した。
A受審人は、21時39分嵐口灯台から307度780メートルの地点で、左舷船首63度260メートルに嵐口地区に帰航中の三代丸の灯火を認め得る状況であったものの、これに気付かないまま機関を全速力前進にして9.0ノットの対地速力で続航した。
21時39分わずか過ぎA受審人は、嵐口灯台から308度800メートルの地点に達し、三代丸の前路250メートルばかりのところを航過したとき、前方60メートルばかりのところに養殖筏を認め、あわてて機関を全速力後進にかけ、同時39分半船首を右に振りながら同筏の10数メートル手前で前進行きあしが止まったものの、同筏から少し離すため、わずかな間後進して機関を停止回転にし、前示養殖筏を認めた地点に戻って後進行きあしが止まったとき、21時40分嵐口灯台から308度800メートルの地点において、036度に向首した住久号の左舷後部に三代丸の船首がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、三代丸は、FRP製の漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日15時00分御所浦漁港を発し、熊本県宮田漁港に至り、同県本渡市での遊興を終えた後、21時15分法定灯火のほか青色回転灯2個を表示し、同港を発して帰途に着いた。
B受審人は、操舵室右舷側の椅子に腰掛けて操船を行い、八代海横浦瀬戸に至り、21時36分少し前嵐口灯台から307度1,880メートルの地点に達したとき、針路を126度に定め、機関を全速力前進より少し下げた毎分回転数2,100にかけ、8.1ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、21時39分嵐口灯台から308度1,030メートルの地点に達したとき、右舷船首7度260メートルのところに住久号が存在したものの、同船が無灯火であったことから認めることができないまま続航中、三代丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住久号は左舷後部ブルワークに修理を要さない程度の凹損を生じ、三代丸は船首下部を圧壊したほか、衝突の衝撃で前方に飛んだバッテリーが当たって主機を損傷したが、のち修理され、B受審人が頚椎を捻挫した。
(原因)
本件衝突は、夜間、熊本県御所浦漁港において、住久号が、同県大道漁港に帰航する際、灯火の点灯確認が不十分で、無灯火のまま航行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、熊本県御所浦漁港において、同県大道漁港に帰航しようとした場合、灯火の点灯を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、離桟準備を行う際、酔っている同僚との会話に気をとられ、灯火の点灯を確認しなかった職務上の過失により、法定灯火を表示していないことに気付かず、操舵室内に明かりがない状態で無灯火のまま航行し、三代丸に自船の存在を気付かせることができずに同船との衝突を招き、住久号の左舷後部ブルワークに修理を要さない程度の凹損を、三代丸の船首下部の圧壊及び衝突の衝撃で前方に飛んだバッテリーが当たったことによる主機の損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。