(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月6日11時13分
長崎県壱岐島湯野本浦
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船流星 |
漁船ふじ丸 |
総トン数 |
4.1トン |
1.59トン |
登録長 |
10.35メートル |
7.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
30 |
3 事実の経過
流星は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メールの喫水をもって、平成13年5月6日08時30分定係地である長崎県壱岐島母ケ浦漁港古仁田地区の船だまりを発し、同島湯野本浦沖合の漁場に向かい、同時45分同漁場に到着していか一本釣り漁の操業を開始した。
A受審人は、しばらくいか漁を行った後、よこわひき縄漁に切り換えたが、いずれも不漁であったので操業を打ち切り、11時08分鞍馬滝鼻亀瀬照射灯(以下「亀瀬照射灯」という。)から295度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点を発進し、定係地に向けて帰途に就いた。
ところで、湯野本浦は、壱岐島西部に位置する北西に開いた湾で、湾口付近には、北から順に牛島、蛇島、角崎島、阿瀬島などが湾口を塞ぐように連なっているため、牛島北方が同湾の出入口となっており、また、湾内が静穏であることから、湾中央部の黒ケ島周辺をはじめ各所に真珠養殖施設が設置されているほか、海岸線付近は、あわび・さざえ・うになど磯物の好漁場となっていて、大潮の時期には箱めがねと手かぎを使用して磯物を採捕する磯見漁が盛んに行われていた。
A受審人は、操舵室右舷側でいすに腰を掛けて手動操舵に当たり、機関を回転数毎分2,300として16.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で湯野本浦に向かい、牛島北方約100メートルのところを通過して湾内に入ったところ、同島南東方で操業中の底びき網漁船を認めたので、同漁船の東側を迂回し、11時11分少し前亀瀬照射灯から290度830メートルの地点において、同漁船を替わし終えたところで右転して南下を始めた。
A受審人は、16.0ノットの速力では船首が浮上し、操舵室右舷側のいすに腰を掛けた姿勢で見張りを行うと、船首方向に左右約20度の範囲で死角(以下「船首死角」という。)を生じることから、いつもは、踏み台に立って操舵室天井に設けられた見張り用の開口部から顔を出し、船首死角を補う見張りを行いながら操船していた。
ところが、A受審人は、操業漁船を替わした後もいすに腰を掛けたまま見張りを続け、11時11分半亀瀬照射灯から268度850メートルの地点において、針路を160度に定めたとき、左舷船首1度930メートルのところにふじ丸を視認し得る状況となり、その後、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近したが、定針前にいすに腰を掛けたまま左舷前方を一見して他船を認めなかったことから、しばらくは他船と接近することはないものと思い、天井開口部から船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、ふじ丸の左舷側を通過できるよう、針路を右に転じることなく続航した。
こうして、A受審人は、いすに腰を掛けて見張りを続け、11時12分半亀瀬照射灯から231度840メートルの地点に達したとき、ふじ丸が左舷船首1度310メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、針路を右に転じないまま進行中、同時13分極わずか前、正船首至近のところにふじ丸が掲げた旗を認めたが、どうすることもできず、11時13分亀瀬照射灯から217度950メートルの地点において、流星は、原針路、原速力のまま、その船首が、ふじ丸の船首に前方から5度の角度で衝突し、ふじ丸の船体に乗り揚げて停止した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、ふじ丸は、船外機を備えた和船型のFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、磯見漁の見回りを行う目的で、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日11時00分定係地である湯野本浦徳命船だまりを発し、湯野本浦及び母ケ浦に向かった。
ところで、B受審人は、所属漁業協同組合から磯場監視員に委嘱されて、湯野本浦及び母ケ浦の各海岸線付近における磯見漁の違反操業防止のための監視業務に従事しており、救命胴衣及び所属漁業協同組合所定の磯場監視員の腕章を着用して同業務に当たり、磯見漁を操業する漁船(以下「磯見漁船」という。)を認めた場合には、許可の有無を確認することにしていた。
B受審人は、ふじ丸が和船型であったので、他船から自船を容易に視認することができるよう、ふじ丸の船首部に高さ約5メートルの竿を立て、その先端に縦40センチメートル横60センチメートルの桃色の旗を掲げ、右舷船尾で腰を掛けて左手で船外機を操作しながら、株郎瀬鼻を左舷に見て北上し、同鼻の北東方約130メートルに達したところで、同鼻からタコ島にかけての湾南西部の海岸線付近(以下「磯場」という。)の監視業務を開始した。
間もなく、B受審人は、大カルトと称する浅礁付近に磯見漁船を認めたので、確認のためこれに向けて西行し、11時08分亀瀬照射灯から199度1,450メートルの地点において、同船が許可を受けていることが判明したので、右転して大カルト沖に向けて北上し、11時10分少し前同照射灯から200度1,230メートルの地点において、牛島に向く針路を335度に定め、4.0ノットの速力で続航した。
11時11分半B受審人は、亀瀬照射灯から208度1,050メートルの地点において、右舷船首4度930メートルのところに流星を視認し得る状況となり、その後、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近したが、磯見漁船の有無を確認するため、左舷側の磯場を注視していて、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、流星の左舷側を通過できるよう、針路を右に転じることなく進行した。
こうして、B受審人は、左舷側の磯場を向いたまま続航中、11時12分半亀瀬照射灯から214度980メートルの地点に達したとき、流星が右舷船首4度310メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、針路を右に転じないまま進行し、同時13分わずか前、船首方に機関音を聞いて至近に迫った流星を認めたが、どうすることもできず、ふじ丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、流星は、船底外板に亀裂を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じたが、のち修理され、ふじ丸は、船首部などを大破して廃船とされ、B受審人が1箇月の入院加療を要する頚椎骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、長崎県壱岐島湯野本浦において、両船が、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近する際、流星が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、ふじ丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県壱岐島湯野本浦において、操業を終えて定係地に向けて帰航する場合、船首が浮上して船首死角を生じていたのであるから、接近する他船を見落とすことのないよう、操舵室上部の開口部から顔を出して、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、定針する際に左舷前方を一見して他船を認めなかったことから、しばらくは他船と接近することはないものと思い、いすに腰を掛けたまま見張りを続け、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近するふじ丸に気付かず、同船の左舷側を通過できるよう、針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き、流星の船底外板に亀裂を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じさせ、ふじ丸の船首部などを大破させ、B受審人に1箇月の入院加療を要する頚椎骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
B受審人は、長崎県壱岐島湯野本浦において、磯見漁の違反操業を防止するため、磯場の監視業務に従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、磯見漁船の有無を確認するため、左舷側の磯場を注視していて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近する流星に気付かず、同船の左舷側を通過できるよう、針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。