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平成14年門審第34号
件名

貨物船吉?善丸プレジャーボートジュンジュライ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、河本和夫、島 友二郎)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:吉?善丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:ジュンジュライ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
吉?善丸・・・船首部に擦過傷
ジュンジュライ・・・浸水し、沈没

原因
吉?善丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ジュンジュライ・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、吉?善丸が、見張り不十分で、漂泊中のジュンジュライを避けなかったことによって発生したが、ジュンジュライが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月31日15時46分
 大分県姫島水道西口

2 船舶の要目
船種船名 貨物船吉?善丸 プレジャーボート
ジュンジュライ
総トン数 374トン  
全長   7.42メートル
登録長 55.33メートル 6.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 117キロワット

3 事実の経過
 吉?善丸は、船首部にジブクレーンを備えた船尾船橋型の鋼製貨物船兼砂利石材運搬船で、船長I及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.4メールの喫水をもって、平成13年1月31日11時00分関門港を発し、大分県津久見港に向かった。
 I船長は、船橋当直を、長時間に及ぶ航海では、自らとA受審人及び甲板長の3人による単独4時間交替制としていたが、関門港から津久見港までは比較的短時間であるので、自らが発航時から16時00分まで、A受審人が16時00分から津久見港口までの2交替とし、同受審人が、長年内航貨物船で船橋当直に従事しており、姫島水道の通航経験を有していて、水路事情をよく知っていたので、同受審人に同水道での操船を委ねていた。
 I船長は、発航操船に続いて船橋当直に就き、関門港東口を出て下関南東水道第4号灯浮標を通過した後、姫島水道西口に向けて東行した。
 15時25分A受審人は、姫島水道まで約5海里となったところで船橋当直交替のため昇橋し、目視及び6海里レンジとしたレーダーにより、右舷正横わずか前約800メートルのところを同航中のセメントタンカー(以下「同航船」という。)のほかは、しばらくは接近するおそれのある他船がいないことを確認したうえで、同時30分琵琶埼灯台から327度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点において、I船長と船橋当直を交替し、引き続き針路を115度に定め、機関回転数毎分350の全速力前進として、13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室中央にある操舵装置の後方でいすに腰を掛け、自動操舵によって進行した。
 ところで、A受審人は、操舵室中央にある操舵装置の後方でいすに腰を掛けた姿勢では、ジブクレーンのガントリフレームに通したワイヤロープなどにより、正船首方に両舷2度ずつの合計4度の範囲で死角(以下「船首死角」という。)を生じることから、時折左右に移動するなどして、船首死角を補う見張りを行っていた。
 15時43分半A受審人は、琵琶埼灯台から025度1.9海里の地点において、正船首1,000メートルのところに漂泊中のジュンジュライを視認し得る状況となり、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、自船がわずかな速力差で追い越す態勢にあった同航船との船間距離が次第に縮まっていたことが気に掛かり、いすに腰を掛けたまま右舷正横付近の同船の動静を監視していて、いすから離れて左右に移動するなど、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、前路で漂泊中のジュンジュライを避けずに続航し、15時45分琵琶埼灯台から034.5度1.87海里の地点に達したとき、船首を自船の方に向けて漂泊中のジュンジュライに400メートルまで接近したが、依然として、いすに腰を掛けたまま、右舷正横約300メートルに船間距離が縮まった同航船を注視していて、ジュンジュライに気付かないまま進行中、15時46分琵琶埼灯台から041度1.9海里の地点において、吉?善丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、ジュンジュライの船首に平行に衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃を感じなかったことから衝突したことに気付かず、直後に事故を目撃した同航船が発した汽笛信号を聞き、その後、同船がUターンして自船の船尾方で行きあしを止めたことを認めたものの、そのまま目的地に向けて航海を続け、同日16時20分伊予灘西航路第3号灯浮標付近を航行中に海上保安庁からの通報によって事故の発生を知った。
 また、ジュンジュライは、船首部に船室及び中央部に操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日11時00分大分県香々地漁港を発し、同県姫島西方の釣場に向かった。
 B受審人は、姫島ス鼻北西方約1,000メートルの釣場に到着し、漂泊して竿釣りを始めたが、釣果が上がらなかったので、ス鼻西方の釣場を転々と移動しながら釣りを続け、13時00分ごろス鼻西南西約2海里の前示衝突地点付近の釣場に至り、漂泊して釣りを再開したところ、これまでとは打って変わって瀬物のかさごが釣れ始めた。
 B受審人は、衝突地点付近で潮のぼりを繰り返しながら釣っていたところ、15時30分を過ぎたころからあまり圧流されなくなったので、その後は潮のぼりをすることもなく、ほぼ同地点で機関を掛けたままクラッチを中立にして漂泊し、船尾甲板で甲板上の高さ約40センチメートルの機関囲壁に腰を掛け、左舷後方に釣竿を出して釣りを続けた。
 15時43分半B受審人は、船首が295度に向いて漂泊していたとき、正船首1,000メートルのところに吉?善丸を視認し得る状況となり、その後、同船が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、よく釣れていたことから、釣りに熱中するあまり、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、左舷後方を向いて釣りを続け、15時45分吉?善丸が自船に向首したまま正船首400メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもせずに漂泊中、同時46分少し前正船首至近に迫った吉?善丸を認めたが、どうすることもできず、ジュンジュライは、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、吉?善丸は、船首部に擦過傷を生じたが、のち修理され、ジュンジュライは、衝突後間もなく浸水・沈没し、B受審人は、海中に投げ出されたが、同航船に救助された。

(原因)
 本件衝突は、大分県姫島水道西口において、同水道に向かう吉?善丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のジュンジュライを避けなかったことによって発生したが、ジュンジュライが、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分県姫島水道西口において、同水道に向けて東行する場合、船首方に死角を生じていたのであるから、前路に存在する他船を見落とすことのないよう、左右に移動するなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船橋当直を交替したとき、前路に他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、操舵室中央でいすに腰を掛けたまま、右舷側の同航船の動静を監視していて、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のジュンジュライに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、吉?善丸の船首部に擦過傷を生じさせ、ジュンジュライを浸水・沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、大分県姫島水道西口において、漂泊して釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、釣りに熱中するあまり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する吉?善丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもせずに、漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:30KB)





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