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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第44号
件名

漁船春日丸漁船漁豊丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、上野延之、島 友二郎)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:春日丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:漁豊丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
春日丸・・・右舷側後部外板に破口
漁豊丸・・・船首部外板に破口

原因
漁豊丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
春日丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、漁豊丸が、見張り不十分で、錨泊中の春日丸を避けなかったことによって発生したが、春日丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月18日02時45分
 福岡県白島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船春日丸 漁船漁豊丸
総トン数 19トン 7.9トン
全長   16.60メートル
登録長 18.40メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 433キロワット

3 事実の経過
 春日丸は、主にふぐ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、漁業調査員1人を乗せ、ふぐ資源調査の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年4月16日13時00分山口県萩港を発し、同港沖合から対馬東方、同県蓋井島及び福岡県大島沖合にかけての調査海域へ向かった。
 ところで、当時、春日丸は、平成12年11月から翌13年5月までの予定で、認可法人海洋水産資源開発センターに傭船されていたものであり、前示調査海域において、萩港を基地として1航海1週間の予定で出漁し、帰港したならば平均2日間の休みを取るという調査操業(以下「操業」という。)を繰り返していたのであるが、調査海域に在っては、連日、早朝03時から14時ごろまで操業を行い、夕刻から翌日の操業開始までの間は、次の調査予定海域付近で錨泊を行っていたものであった。
 翌17日14時00分A受審人は、操業を終え、15時00分響灘の福岡県白島北西方沖合約5海里の地点で、太さ32ミリメートルのナイロン製錨索を繋いだ重さ約120キログラムの鉄製錨を投下したのち、船首のビットに系止した同錨索を約200メートル延出して錨泊を開始し、18時00分日没が間近となったとき、船内電源を主機駆動からバッテリーに切り替えて、錨泊中の船舶が掲げる法定灯火の表示に加え、黄色及び赤色の点滅灯を各1灯並びに白色灯を1灯点灯して錨泊を続けた。
 そして、A受審人は、法定灯火の表示に加えて前示した多数の灯火を点灯していたことから、航行中の他船がそれらの灯火に容易に気付き、錨泊中の自船を避航してくれるものと思い、翌日の早朝からの操業に備えて乗組員全員に休息を命じ、船橋左舷後方に設けられたベッドで就寝していたところ、明くる18日02時42分右舷正横1,000メートルのところに、漁豊丸が表示する白、緑、紅の3灯を視認することができ、その後、同船が、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、船橋に備えられたベッドで就寝していて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、注意喚起信号を行うことができなかった。
 こうして、A受審人は、漁豊丸の接近に気付かないままベッドで就寝中、4月18日02時45分蓋井島灯台から254度(真方位、以下同じ。)8.3海里の地点において、春日丸は、船首が056度を向いていたとき、その右舷後部に、漁豊丸の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、漁豊丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月18日02時00分福岡県脇田漁港を発し、同県沖ノ島北北東沖合18海里付近の漁場へ向かった。
 02時26分半B受審人は、妙見埼灯台から352度4.0海里の地点に至ったとき、針路を326度に定めて自動操舵とし、燃料を節約するため機関を経済速力である半速力前進の回転数毎分1,350に掛け、13.5ノットの対地速力で、法定灯火を表示して進行した。
 ところで、B受審人は、自船が12.0ノット以上の対水速力で航行すると船首部が浮上し、操舵室右舷側に設けられたいすに腰を掛けて見張りに当たると、船首の構造物によって水平線が隠れて、船首両舷に渡り約25度の範囲に死角が生じるので、ときどき、いすの前に立ち上がって操舵室の天蓋から顔を出すなどして前方の死角を補う見張りを行っていたものであるが、定針後、しばらくして、漁り火を煌々と点灯して操業していた周囲のいか釣り漁船などが、全て後方に替わってしまったことから、最早、前路に他船はいないものと思い、その後、前方の死角を補う見張りを十分に行わないまま続航した。
 そして、B受審人は、02時42分半白島石油備蓄シーバース灯から289度5.7海里の地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、春日丸が表示する法定灯火に加え、同船が点灯する黄色及び赤色の点滅灯各1灯並びに白色灯1灯を視認でき、その後、その方位に変化がないことや接近模様などからも、錨泊中であることを判別できる状況となったが、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、錨泊中の春日丸を避けないまま進行中、漁豊丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、春日丸は、右舷側後部外板に破口を、漁豊丸は、船首部外板に破口を、それぞれ生ずるに至ったが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡県白島北西方沖合において、漁場へ向けて航行中の漁豊丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の春日丸を避けなかったことによって発生したが、春日丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、福岡県白島北西方沖合において、単独で船橋当直に当たり、漁場へ向けて航行する場合、船首が浮上して船首方に死角が生じていたのであるから、死角内の他船を見落とすことのないよう、操舵室の天蓋から顔を出すなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、周囲のいか釣り漁船が、全て後方に替わってしまったことから、前路に他船はいないものと思い、その後、死角を補う見張りを十分行わなかった職務上の過失により、錨泊中の春日丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部外板及び春日丸の右舷側後部外板に、それぞれ破口を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、福岡県白島北西方沖合において、錨泊する場合、周囲の見張りを十分に行う必要があったが、自船が法定灯火の表示に加えて多数の灯火を点灯していたことから、航行中の他船が、それらの灯火に容易に気付き、錨泊中の自船を避航してくれるものと思い、乗組員全員に休息を命じたのち、船橋に設けられたベッドで就寝していて周囲の見張りを十分に行わず、衝突のおそれがある態勢で接近する漁豊丸に対して注意喚起信号を行うことなく錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為は、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、同人が、法定灯火を表示して錨泊していたこと、及び他船が容易に自船を見付けることができるよう、法定灯火の他に多数の灯火を点灯していたことに徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:21KB)





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