日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第49号
件名

押船第八十六天海丸被押バージ第八十六天海貨物船ペルセウス衝突事件
二審請求者〔理事官畑中美秀〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、米原健一、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第八十六天海丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:ペルセウス船長 

損害
天 海・・・左舷船首部を圧壊
ペ 号・・・左舷外板に破口を伴う凹損

原因
天 海・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守
ペ 号・・・動静監視不十分、狭い水道の航法(右側通行)不遵守

主文

 本件衝突は、関門海峡東口において、西行する第八十六天海丸被押バージ第八十六天海が、中央水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、東行するペルセウスが、同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月19日20時08分
 関門海峡東口

2 船舶の要目
船種船名 押船第八十六天海丸 バージ第八十六天海
総トン数 166トン 約4,936トン
全長 29.21メートル 110.00メートル
  21.00メートル
深さ   8.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 3,676キロワット  

船種船名 貨物船ペルセウス
総トン数 6,715.00トン
全長 99.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,883キロワット

3 事実の経過
 第八十六天海丸(以下「天海丸」という。)は、2基2軸の鋼製押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、海水バラスト2,500トンを積み、船首2.50メートル船尾4.50メートルの喫水となった、船首後方甲板上にグラブバケット付き旋回クレーンを備える非自航の鋼製バージ第八十六天海(以下「天海」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)して自船の船首中央及び両舷の各ノッチ、並びに両舷4カ所からの支え綱により両船を連絡係止して一体とし、全長を118.03メートルの押船列(以下「天海丸押船列」という。)をなし、船首4.30メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成13年1月19日14時00分山口県屋代島久賀港を発し、佐世保港に向かった。
 A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を自ら、航海士及び甲板員による4時間3直制とし、機関室当直を機関長、一等機関士及び二等機関士による4時間3直制に定め、機関制御を船橋で行っていたことから、機関室での作業がないときには、当直機関士を船橋で機関制御と見張りに当てていた。
 17時00分A受審人は、大分県姫島北東方3.0海里沖合で昇橋し、前直者と交替して当直に就き、当直機関士を機関制御と見張りに当て、日没時に天海の前部及び後部にマスト灯各1個及び後部両舷に舷灯各1個、天海丸の船尾に船尾灯1個を表示して西行した。
 ところで、関門海峡東口には、水深4ないし10メートルの中ノ州があり、同州の周囲に中ノ州西灯浮標(以下、中ノ州を冠する灯浮標については「中ノ州」を省略する。)、南西、南東、東、北東及び北各灯浮標がそれぞれ設置され、同州南側の中央水道と北側の北水道とに分岐し、各水道には関門海峡東口から下関南東水道第1号灯浮標に至るまで基準となる航路線が海図上に記載されていたが、中ノ州が浚渫されて南側の水路が拡幅されたことから北水道航路線が削除され、また、部埼灯台から北東方900メートル付近で東南東方から南東方に湾曲している中央水道航路線(以下「航路線」という。)が北東方へ約300メートル移動され、それらを改訂した海図が平成12年11月30日に刊行されていた。
 また、中央水道は、西及び南西両灯浮標と門司側の太刀浦埠頭との間にあり、最狭部の幅が同埠頭の北東側岸壁と西及び南西両灯浮標間で約1,300ないし1,400メートルであるものの、同岸壁から500ないし600メートルまでの水域が関門港の港域に指定されていた。また、同港界と西及び南西両灯浮標間の幅が約750メートルとなっており、その中央に114度(真方位、以下同じ。)(294度)の基準となる航路線が海図に記載されていた。
 20時00分A受審人は、下関南東水道第1号灯浮標を左舷側800メートルに見る、部埼灯台から107度1.7海里の地点で、左舷船首方3.0海里のところにペルセウス(以下「ぺ号」という。)の白、白及び緑3灯を初めて視認し、同船が中ノ州寄りに航行しているので、山口県宇部岬沖合に向けてショートカットする船と判断し、ペ号と右舷を対して航過しようと思い、速やかに右転して中央水道の右側端に寄って航行することなく、針路を306度に定め、機関を全速力前進に掛け、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により、操舵室前面中央の操舵スタンド後方に立ち、見張りに当たって進行した。
 20時03分A受審人は、ぺ号が左舷船首7度1.9海里に接近したとき、自船の存在を知らせるためサーチライトを天海の船体に照射し、同時04分部埼灯台から093度1.0海里の地点に差し掛かったとき、ぺ号が左舷船首6度1.5海里に接近し、その後同船が部埼灯台北東方で転針すると衝突のおそれのある態勢で接近する状況になるが、ぺ号が接近してきたことから操舵を手動に切り換えて機関を半速力前進に掛け、速力を落としたものの、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 20時06分A受審人は、右舷を対して航過しようと5度左転し、同時07分右舷船首15度700メートルのところで右転を始めたぺ号の白、白、紅、緑4灯を認め、衝突の危険を感じ、機関を全速力後進とし、右舵一杯に取ったが及ばず、20時08分部埼灯台から052度1,030メートルの地点において、天海丸押船列は、原針路のまま、10.2ノットの速力になったとき、天海の左舷船首がぺ号の左舷前部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近にはほとんど潮流がなかった。
 また、ぺ号は、専ら東南アジアと本邦諸港間を不定期に就航する船尾船橋型貨物船で、B指定海難関係人ほか日本国籍の1人及びフィリピン共和国籍の14人が乗り組み、海水バラスト1,850トンを積み、空倉のまま、船首2.75メートル船尾4.76メートルの喫水をもって、同月19日10時05分大韓民国釜山港を発し、大分県津久見港に向かった。
 B指定海難関係人は、二等航海士が0時から4時までを、一等航海士が4時から8時までを、三等航海士が8時から12時までをそれぞれ立直する4時間3直制として各直にそれぞれ甲板員1人を配し、入出港時、狭水道通過時、視界制限状態時、船舶の輻輳(ふくそう)時及び危険のおそれのあるときには、自ら指揮を執ることとしていた。
 18時00分B指定海難関係人は、山口県六連島北方沖合で昇橋し、当直航海士を補佐に、甲板員を操舵にそれぞれ当てて、自ら操船指揮を執り、航行中の動力船の灯火を表示して関門海峡を東行し、20時00分部埼灯台から312度1.4海里の地点で、針路を107度に定め、機関を全速力前進に掛け、12.0ノットの速力で、中央水道の右側端に寄って航行することなく、航路線の少し右側に沿って進行した。
 20時04分B指定海難関係人は、部埼灯台から339度1,370メートルの地点に達したとき、右舷船首13度1.5海里のところに天海丸押船列の白、白、紅3灯を認めたものの、間もなく同押船列が中央水道の右側端に寄って航行するため右転するので、左舷を対して航過するものと思い、動静監視を十分に行うことなく、その後同押船列が右転せず、白、白、紅、緑4灯を見せたのち、白、白、緑3灯を見せるようになり、自船が部埼灯台付近で転針すると衝突のおそれのある態勢で接近する状況になったが、依然動静監視を行っていなかったので、このとに気付かず、行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 20時07分B指定海難関係人は、部埼灯台から032度1,100メートルの地点に差し掛かり、針路を航路線に沿う144度に転じたとき、左舷船首8度700メートルのところに天海丸押船列の白、白、緑3灯を認め、衝突の危険を感じ、汽笛により長音1回を吹鳴し、右舵一杯を取り、機関を全速力後進に掛けたが及ばず、ぺ号は、原速力のまま166度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天海は、左舷船首部を圧壊し、ぺ号は、左舷外板に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、海上衝突予防法が適用される関門海峡東口の関門港外で発生したものであり、中央水道は、前示のとおり最狭部の幅が約750メートルで、同法第9条に規定する狭い水道にあたり、同条の航法規定が適用される。

(主張に対する判断)
 本件は、改版海図が平成12年11月30日刊行され、航路線の北東方への約300メートル移動を天海丸押船列側が知らなかったことにより、発生したとの主張があるので、以下この点について検討する。
 A受審人に対する質問調書中、「航路線が北東方へ移動していることは、知らなかった。」旨の供述記載により、同人が航路線の移動を知らなかったものの、同人の当廷における、「中央水道は狭い水道で、右側端に寄って航行しなければならなかったことは知っていた。平素下関南東水道第1号灯浮標と並航したとき、中ノ州北水道第3号灯浮標に向け、その後南東及び南西両灯浮標に寄って航行していた。本件発生当時、ぺ号が中ノ州寄りに航行しているので、宇部岬沖合に向けてショートカットする船と判断し、ペ号と右舷を対して航過しようとして同第3号灯浮標に向けないで航行した。」旨の供述により、同人は、平素、中央水道右側端の各灯浮標に寄って航行していたが、ぺ号を宇部岬沖合に向かう船と判断し、右舷を対して航過しようと中央水道右側端に寄って航行しなかった。
 以上により、A受審人が、平素中央水道右側端の各灯浮標に寄って航行しており、偶々、ぺ号と右舷を対して航過しようと同右側端に寄って航行しなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことから本件が発生したもので、天海丸押船列側が航路線の移動を知らなかったことは、本件発生の原因とするまでもない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門海峡東口において、西行する天海丸押船列が、中央水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ぺ号が、同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門海峡東口において、中央水道を西行する場合、同水道の右側端に寄って航行するべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方に認めたぺ号が中ノ州寄りに航行しているので、宇部岬沖合に向けてショートカットする船と判断し、ペ号と右舷を対して航過しようと思い、同水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、ぺ号との衝突を招き、天海の左舷船首部の圧壊及びぺ号の左舷外板に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、夜間、関門海峡東口の中央水道を東行する際、天海丸押船列に対する動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:32KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION