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平成14年門審第31号
件名

プレジャーボート木屋丸プレジャーボート第II−かもめ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、上野延之、橋本 學)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:木屋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第II−かもめ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
木屋丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
かもめ・・・左舷船尾端のブルワークを損傷

原因
木屋丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航操作)不遵守(主因)
かもめ・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、木屋丸が、見張り不十分で、漂泊中の第II−かもめを避けなかったことによって発生したが、第II−かもめが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月6日12時57分
 関門港若松区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート木屋丸 プレジャーボート第II−かもめ
登録長 11.63メートル 6.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 220キロワット 102キロワット

3 事実の経過
 木屋丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.25メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成13年5月6日05時30分関門港小倉区紫川尻船だまりを発し、06時30分福岡県芦屋港西方沖合1.5海里の釣り場に至り、魚釣りを行っていたところ、正午頃から南寄りの風が強まり、波も高くなってきたので魚釣りを中止し、12時20分同釣り場を発進して帰途に就いた。
 ところで、木屋丸は、速力が12ノットを超えると船首部が浮上し、操舵室ほぼ中央の舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて見張りに当たると、船首構造物により正船首から左右各舷15度の範囲に死角が生じるので、A受審人は、平素いすの左右両側の幅0.2メートル長さ0.4メートルの肘掛に立ち上がり、同室天井の開口部から顔を出すなど、死角を補う見張りを行っていた。
 発進後、A受審人は、専ら前示いすに腰を掛けて操船に当たり、時折船首方の死角を補う見張りを行いながら東行し、12時54分ごろ響灘1号防波堤東端を航過してその北方350メートル付近に達したとき、間もなく係留地に向け30度ばかり右転するので、いすに腰を掛けたまま、転針方向の洞海湾口防波堤方面を見たところ、同方面約2,000メートルの、北九州市若松区の護岸寄りにヨットを認め、同船の北方約400メートルのところで漂泊中の第II−かもめ(以下「かもめ」という。)も視認することができる状況であったが、安瀬航路第3号灯浮標や同第6号灯浮標に紛れていた同船を見落とし、その存在に気付かないまま、ゆっくり右転を始めた。
 12時54分半わずか過ぎA受審人は、若松洞海湾口防波堤灯台から309.5度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を同灯台の少し左方に向く129度に定め、機関を全速力前進にかけて17.5ノットとし、折からの潮流に乗じて17.9ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 定針したあとA受審人は、前方には前示ヨット以外に他船はいないものと思い、いすの左右両側の肘掛に立ち上がり、操舵室天井の開口部から顔を出すなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行うことなく、舵輪後方のいすに腰を掛けた姿勢で、関門港若松区を南下した。
 A受審人は、12時55分半若松洞海湾口防波堤灯台から309.5度1.1海里の地点に差し掛かったとき、かもめが正船首810メートルとなり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然船首方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないで続航中、12時57分若松洞海湾口防波堤灯台から310度1,230メートルの地点において、木屋丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、かもめの左舷船尾に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、付近には0.4ノットの南東流があった。
 また、かもめは、船体中央部に操舵室を有し、電子ホーンを備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.28メートルの喫水をもって、同日07時30分関門港小倉区紫川河口の係留地を発し、藍島東方及び馬島北西方の釣り場で魚釣りを行ったのち、11時30分ごろ関門港若松区の、洞海湾口防波堤北西方の釣り場に移動し、機関を停止して船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、直径8ミリメートルの合成繊維製錨索を10メートル延出して船首部のクリートに止め、南東風に船首を立てて漂泊し、魚釣りを再開した。
 B受審人は、折からの南東流に圧流されて徐々に洞海湾口防波堤に接近することから、同防波堤と安瀬航路南側線間で潮のぼりを繰り返し、12時47分3回目の潮のぼりを終え、友人2人が船体後部の左右両舷に分かれ、自らは操舵室の右舷後方で右舷方を向き、それぞれ腰を下ろして魚釣りを続けていたところ、同時54分ごろ若松洞海湾口防波堤灯台から310度1,350メートル付近に圧流されたとき、右舷船尾方約1,600メートルのところに響灘1号防波堤東端から現れた木屋丸を初認したが、同船が東行していたことから、山口県下関市彦島方面に向かうので大丈夫と思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった。
 B受審人は、12時55分半船首が139度を向いていたとき、木屋丸が右舷船尾10度810メートルとなり、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、電子ホーンにより警告信号を行うことも、更に接近したとき機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続け、同時57分少し前至近に迫った同船にようやく気付いて操舵室に駆け込み、電子ホーンで短音を吹鳴し、機関を始動したが、クラッチを入れる間もなく、右舷後部の友人が海中に飛び込んだ直後、かもめは、船首を139度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、木屋丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、かもめは、左舷船尾端のブルワークを損壊したが、同船はのち修理された。また、海中に飛び込んだ友人は、同船に救助された。

(主張に対する判断)
 A受審人は、かもめが関門港若松区第5区において錨泊して漁ろうに従事していたとし、このことから、同船が停泊の制限を定める港則法第11条に、及び漁ろうの制限について定める同法第35条にそれぞれ違反していること、また、自らはかもめの存在に気付いておらず、B受審人が木屋丸に気付いていたのであるから、同受審人が木屋丸を避けるべきであるとの2点を指摘し、本件衝突の原因はかもめ側にあり、自らには過失がない旨を主張するので、この点に検討する。
1 かもめと港則法第11条及び第35条との関係について
 (1) かもめが魚釣りを行っていた水域について
 港則法第11条において停泊や停留が禁止される水域は、ふとう、さん橋などの船舶が係留される場所や河川、運河など狭い水路のような一般船舶の出入りが妨げられるおそれがあったり船舶が輻輳する水域であり、同法第35条においてみだりに漁ろうを行うのが禁止されるのは、船舶が輻輳(ふくそう)する水域、あるいはその時間帯であり、いずれも港則法が適用される港における停泊や停留及び漁ろうをすべて禁止したものではない。
 衝突地点は、関門第2航路西側線から800メートル西側及び安瀬航路南側線から400メートル南側のいずれも航路外で、北九州市若松区の護岸から400メートル東側、同護岸南東端から東方に延びる洞海湾口防波堤から1,100メートル北側であり、一般船舶の係留や航路などへの出入りが妨げられるおそれがあったり、船舶が輻輳する水域とは認め難い。
 (2) かもめの状態について
 海上衝突予防法では、錨泊とは錨を海底に投下して係止している状態を指すもので、かもめがパラシュート型シーアンカーを海中に投入して潮流に圧流されている状態を錨泊とはいわない。
 また、釣りざおを用いて行う魚釣りは、船舶の操縦性能を制限するものではなく、海上衝突予防法上の漁ろうに該当しないものの、港則法第35条で定める漁ろうには該当する。
 以上から、かもめは、漂泊して漁ろうを行っていたが、その水域が一般船舶の通航を妨げる水域ではないことから、B受審人が港則法第11条及び同第35条に違反していたとは認められない。
2 A受審人の過失について
 海上衝突予防法第5条では、船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分判断することができるよう、そのときの状況に適したすべての手段により、常時適切な見張りを行わなければならないことが定められている。また、木屋丸が係留地に向けて南下中で、かもめが漂泊中であることから、海上衝突予防法に定める航法の適用はなく、同法第38条及び第39条船員の常務が適用され、南下中の木屋丸が針路を変えるなどし、機関を停止して漂泊中のかもめを避けることが求められる。
 木屋丸が定針したあと、同船とかもめ間には見張りを妨げる障害物は何もなく、視界も良好であったことから、A受審人が自船の死角を補う適切な見張りを行っていれば、かもめの存在も、同船がほとんど移動しない状態であることも判断できたものと認め得る。
 A受審人が南下中の木屋丸の操船に当たり、前路の見張りを行っていなかったこと及び木屋丸がかもめに衝突したことは、同受審人の質問調書の供述記載及び当廷における供述から明らかであり、同受審人が海上衝突予防法第5条、第38条及び第39条に違反していることに疑念の余地はなく、同受審人に過失があることは明白である。

(原因)
 本件衝突は、関門港若松区において、係留地に向けて南下中の木屋丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のかもめを避けなかったことによって発生したが、かもめが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港において、関門第2航路西側の若松区を小倉区の係留地に向けて南下する場合、操舵室ほぼ中央の舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて見張りに当たると、船首方に死角を生じる状態であったから、前路の他船を見落とすことがないよう、いすの左右両側の肘掛に立ち上がり、同室天井の開口部から顔を出すなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同係留地に向けて針路を転じる際、かもめを見落とし、前方には護岸寄りのヨット以外に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のかもめに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、木屋丸の右舷船首部外板に擦過傷を、かもめの左舷船尾端のブルワークに損壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B受審人は、関門港若松区第5区の関門第2航路西側の航路外において、魚釣りのため漂泊中、響灘1号防波堤東端付近に木屋丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、木屋丸が東行していたことから、彦島方面に向かうので大丈夫と思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、電子ホーンにより警告信号を行うことも、更に接近したとき機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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