(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月2日07時50分
山口県吉母漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第2司丸 |
総トン数 |
4.8トン |
全長 |
12.53メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
213キロワット |
船種船名 |
プレジャーボート第2灘丸 |
登録長 |
2.12メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
2キロワット |
3 事実の経過
第2司丸(以下「司丸」という。)は、船体中央部に操縦室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成12年12月2日07時45分山口県吉母漁港を発し、同県蓋井島北方1.5海里付近の釣り場へ向かった。
A受審人は、吉母漁港の防波堤を替わって港外に出たのち、07時49分少し過ぎ来留見瀬灯標から337度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点で、針路を308度に定め、機関を全速力前進に掛け、18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵によって進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首方400メートルのところに、第2灘丸(以下「灘丸」という。)を視認できる状況であったが、港外の広い海域であったことから、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで、他船がいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので、これに気付かなかった。
こうして、A受審人は、07時49分半わずか過ぎ正船首方200メートルまで迫った灘丸と衝突のおそれがある状況となったが、依然として見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま続航中、07時50分来留見瀬灯標から335度2.9海里の地点において、司丸は、原針路、原速力で、その船首が、灘丸の右舷船尾に後方から7度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、灘丸は、電気点火機関(以下「船外機」という。)を装備したゴム製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時20分吉母漁港を発し、同時30分前示衝突地点付近の釣り場に到着したのち、何等の形象物も掲げないまま、機関を停止して漂泊を開始した。
ところで、灘丸は、平素、空気を抜いて折り畳んだ状態で保管される、持ち運び式の濃い緑色をしたゴムボートで、海上に在っては、その海の色に良く似た色合いや、海面すれすれに浮かんだ状態などから、400乃至500メートル以上離れると、一瞥しただけでは、視認が困難な存在であった。
07時49分少し過ぎB受審人は、船体中央部で船尾方を向いて座り、船首を315度に向けた態勢で釣りをしていたとき、右舷船尾7度400メートルのところに、自船に向首して接近する司丸を視認できたが、釣りをすることに気を奪われ、見張りを十分に行わなかったので、これに気付かなかった。
こうして、B受審人は、07時49分半わずか過ぎ司丸が200メートルまで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を始動して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、灘丸は、船首を315度に向けた態勢で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、司丸は損傷を生じなかったが、灘丸は右舷船尾に擦過傷を生じ、船外機を海中に没失するに至った。
(原因)
本件衝突は、山口県吉母漁港西方沖合において、航行中の司丸が、見張り不十分で、漂泊中の灘丸を避けなかったことによって発生したが、灘丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県吉母漁港西方沖合において、釣り場へ向けて航行する場合、前路で漂泊中の灘丸を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、周囲を一瞥しただけで、前路に他船がいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の灘丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船には損傷を生じさせなかったものの、灘丸の右舷船尾に擦過傷を生じさせて、その船外機を海中に没失させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、山口県吉母漁港西方沖合において、釣りをしながら漂泊する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、釣りに熱中して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する司丸に気付かず、機関を始動して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。