(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月29日09時12分
鹿児島県志布志湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船萬吉丸 |
漁船晴海丸 |
総トン数 |
4.99トン |
1.2トン |
全長 |
14.95メートル |
7.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
35 |
18 |
3 事実の経過
萬吉丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成13年6月29日08時50分鹿児島県志布志港を発し、同県火埼南東方沖合の漁場に向かった。
09時05分A受審人は、志布志港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から086度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を145度に定め、機関を全速力前進に掛け、8.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
09時10分A受審人は、南防波堤灯台から105度1.8海里の地点に達したとき、正船首方500メートルのところに晴海丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後西南西方に向首したまま移動しないことや、その前方に張った錨索などから錨泊中であり、晴海丸に衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、操舵室で椅子に腰掛けてリクライニングの背もたれを倒し、前方が良く見えない姿勢で見張りを行っていたので、左舷船首方に操業中の漁船群を認めたのみで、その他の船を見なかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、操舵室から後部甲板に移り、漁網補修作業に従事し、晴海丸を避けないまま進行中、09時12分南防波堤灯台から110度2.0海里の地点において、萬吉丸は、原針路、原速力のまま、その船首が晴海丸の右舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、晴海丸は、船内外機及び予備船外機を装備した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.33メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、同日08時40分鹿児島県夏井漁港を発し、枇榔(びろう)島東方1海里沖合の漁場に向かった。
09時00分B受審人は、前示衝突地点に至り、18キログラムの錨を投入して直径12ミリメートルの合成繊維製錨索を50メートル延出して船首部のたつに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を揚げないまま、船首を西南西方に向け、船体中央部操舵輪後ろの右舷甲板上高さ30センチメートルの椅子に腰を掛けて右舷側を向き、手釣りを始めた。
09時10分B受審人は、船首が245度に向いたとき、右舷船首80度500メートルのところに自船に向首した萬吉丸を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近する萬吉丸を認め得る状況であったが、航行する船が錨泊中の船を避けてくれるものと思い、釣りに熱中して周囲の見張りを行っていなかったので、これに気付かず、船内に備えていた呼子笛を吹き鳴らすなど有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を掛けて前進するなど衝突を避ける措置もとらないで錨泊中、晴海丸は、245度に向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、萬吉丸は球状船首部に擦過傷を生じ、晴海丸は右舷中央部外板に破口を生じて、転覆し、B受審人が、海中に投げ出され、萬吉丸に救助されて病院に搬送されたが、26日間の通院治療を要する胸腹部打撲、肋間筋損傷及び胸部擦過創を負い、船体は、夏井漁港に引きつけられたのち廃船された。
(原因)
本件衝突は、志布志湾枇榔島東方沖合において、漁場に向かって南下中の萬吉丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の晴海丸を避けなかったことによって発生したが、晴海丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人が、志布志湾枇榔島東方沖合において、漁場に向かって南下する場合、晴海丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方に操業中の漁船群を認めたのみで、その他の船を見なかったことから、前路に他船はいないものと思い、後部甲板上で漁網補修作業に従事し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の晴海丸を見落とし、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、萬吉丸の球状船首に擦過傷及び晴海丸の右舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせたうえ、B受審人に胸腹部打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、志布志湾枇榔島東方沖合において、錨泊して一本釣りをする場合、自船に向首接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行する船が錨泊中の船を避けてくれるものと思い、釣りに熱中して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する萬吉丸に気付かないで、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を掛けて前進するなど衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
B受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。