(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月16日07時13分
香川県観音寺港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八かちどき |
漁船有明丸 |
総トン数 |
19.63トン |
4.7トン |
全長 |
17.2メートル |
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登録長 |
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10.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
250キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
第八かちどき(以下「かちどき」という)は、漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、漁獲物運搬の目的で、平成14年1月16日03時30分香川県伊吹漁港(真浦地区)(以下「伊吹漁港」という)を発し、04時00分観音寺港に到着して漁獲物の荷卸しを終え、便乗者1人を乗せ、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、07時00分同港の岸壁を離岸し伊吹漁港への帰途についた。
A受審人は、操舵室の左舷側に立って見張りを行うとともに操船指揮をとり、右舷側の舵輪後方に甲板員を配し椅子に座って手動で操舵にあたらせていたところ、飲み口を開けた缶ジュースが倒れてこぼれ、長椅子とその上に置いたジャンパーが濡れたことに気付き、そのころ伊吹漁港と観音寺港の間に定期運航されている旅客船のニューいぶきと帰路の途中で航過することが予想されていたので、同船が替わったあと片付けることとした。
A受審人は、観音寺港一文字防波堤南灯台(以下「一文字灯台」という)の南約20メートルの地点を経て、07時06分一文字灯台から263度(真方位、以下同じ)60メートルの地点に達したとき、レーダーにより捕捉した伊吹島を針路目標とし、ニューいぶきと左舷を対して航過するべく、針路を伊吹漁港への直航針路より少し北寄りの275度に定め、機関を回転数毎分2,500の全速力前進として15.0ノットの対地速力(以下「速力」という)で進行した。
07時10分A受審人は、レーダーにより左舷船首方向にニューいぶきを探知するとともに同船を視認し、07時11分少し前一文字灯台から274度1.2海里の地点に達し、同船と左舷を対して航過したとき、左舷船首11度1,000メートルに、漁ろうに従事している船舶が表示する緑、白の灯火及び鼓型の形象物を掲げて北上中の有明丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、前方をいちべつしただけで、前路に他船はいないものと思い、後ろを向いてこぼれたジュースの片付けを始め、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
こうして、かちどきは、手動操舵にあたっていた甲板員も、船首浮上による死角のため同船を認めることができないまま、07時13分一文字灯台から275度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま進行中、その船首が有明丸の右舷船首部に、後方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は小雨で風はほとんどなく、視程は約1,000メートルで、日出時刻は07時12分だった。
また、有明丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、貝けた網漁の目的で、船首0.05メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日05時30分観音寺港を発し、同港南西方沖合の漁場に向かい、05時40分漁ろうに従事している船舶が表示する灯火及び形象物を掲げて操業を開始し、06時30分揚網して第1回目の操業を終えた。
06時40分B受審人は、第2回目の操業を再開し、06時56分一文字灯台から247度1.8海里の地点に達したとき、針路を352度に定め、機関を回転数毎分2,700にかけ3.0ノットの速力で手動操舵によりえい網中、左舷船尾甲板で前方を向いて座り漁獲物の選別作業を開始した。
ところで、有明丸は、揚網機が船体中央部やや船尾寄りに設備されているので、左舷船尾甲板で前方を向いて座り漁獲物の選別作業を行うとき、右舷方は正横付近より前方がその陰になって見通すことができなかった。
07時11分少し前B受審人は、一文字灯台から271度1.8海里の地点に達したとき、右舷船尾88度1,000メートルに、西行するかちどきを視認することができる状況であったが、航行中の他船が所定の灯火及び形象物を掲げて操業中の自船を避けるものと思い、漁獲物の選別作業を続け、適宜立ち上がって周囲を見回すなどして見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、その後同船が避航動作をとらないまま間近に接近しても、警告信号を行わず、機関を中立にして行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
07時13分少し前B受審人は、針路を東に転じるため、選別作業を中断し揚網機の傍らに来たところ、右舷正横方200メートルに、自船に向首して接近するかちどきを認め、衝突の危険を感じて機関を中立とし、次いで機関を後進としたが効なく、有明丸は、原針路、原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、かちどきは、船首船底部に塗装剥離を生じ、有明丸は、船首構造物及び右舷外板を大破し廃船となり、またB受審人が全治4週間の頚椎捻挫及び前胸部打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、香川県観音寺港西方沖合において、かちどきが、見張り不十分で、漁ろうに従事している有明丸の進路を避けなかったことによって発生したが、有明丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、観音寺港西方沖合において、操舵に甲板員を配し操船指揮をとって同港から伊吹島に向け西行する場合、付近は観音寺港の漁船が操業する海域であることを知っていたのであるから、前路で漁ろうに従事している有明丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、観音寺港に入航する定期旅客船と航過したあと、前方をいちべつしただけで前路に他船はいないものと思い、後ろを向いてこぼれた缶ジュースの片付けを行い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁ろうに従事している有明丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船首船底部に塗装剥離を生じさせ、有明丸の船首構造物及び右舷外板を大破し廃船させ、またB受審人に全治4週間の頚椎捻挫及び前胸部打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、観音寺港西方沖合において、えい網しながら左舷船尾甲板で座って漁獲物の選別作業を行う場合、右舷方が揚網機の陰になって見通すことができなかったのだから、適宜立ち上がるなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の他船が、漁ろうに従事する船舶が表示する灯火及び形象物を掲げて操業中の自船を避けるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近するかちどきに気付かず、警告信号を行わず、機関を中立にして行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。