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平成14年広審第59号
件名

瀬渡船第五共同丸漁船中松丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、伊東由人)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第五共同丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:中松丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
共同丸・・・右舷船尾のハンドレールが曲損等、船長が頸椎捻挫
中松丸・・・左舷船首部に亀裂、船長が胸部打撲傷

原因
共同丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分

主文

本件衝突は、第五共同丸が、錨泊灯を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、接近する中松丸に対し、灯火を表示して自船の存在を示す措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月12日18時30分
 香川県女木港沖合

2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第五共同丸 漁船中松丸
総トン数 16.75トン 2.4トン
全長 15.30メートル  
登録長   10.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 297キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 第五共同丸(以下「共同丸」という。)は、白色のFRP製瀬渡船で、船体中央部船首寄りに設けられたキャビン後方に操舵室があり、A受審人が、本業である長距離トラック運転の合間に宇野港周辺で釣客の瀬渡し業務に運航していたところ、同人が1人で乗り組み、釣客8人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年1月12日16時00分岡山県宇野港を発し、香川県高松港沖の男木島に向かい、16時40分ごろ同島南岸に寄せて4人の釣客を下ろしたあと、同県女木島東岸の女木港に向かった。
 ところで、女木港南西方の海岸には、はまちなどの養殖施設が設置され、その外側に波除けのため、女木港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)南西方100ないし300メートルの海底に捨て石を積んで築造された長さ40ないし60メートル幅約2メートルの離岸堤が、南西方向に3堤並んで存在し、高潮時には水面下に没する状況であった。
 A受審人は、女木港東側の防波堤に3人の釣客を、残る釣客1人を前示離岸堤のうち水面上約1.5メートルとなった中央堤にそれぞれ下ろし、17時40分同離岸堤から約20メートル離れた、東防波堤灯台から220度(真方位、以下同じ。)220メートル、水深10メートルの地点に投錨して船尾から錨索を15メートルほど伸ばし、北方に向首した状態で錨泊したが、日没直後でまだ周囲が明るく、キャビン内の天井に取り付けた12ワットの照明灯2個を点灯しているので暗くなっても入出航船から自船が見えると思い、所定の錨泊灯を表示しなかった。
 そして、A受審人は、しばらくデッキの水洗いなど船内を掃除し、錨泊地点が女木港の防波堤入口に近く、ときどき入出航船が通航する水域であったが、その後操舵室後部ドアを閉め、船尾方向からキャビン照明灯を視認することができない状態で操縦席に腰掛け、前面の窓から離岸堤に下ろした釣客の様子を眺めているうちに、次第に周囲が暗くなって入出航船から自船を視認することが困難となった。
 18時29分A受審人は、船首がほぼ防波堤入口に向く028度に向首していたとき、左舷船尾6度520メートルに、女木島南東岸沖合を北上する中松丸の白、紅2灯を視認することができ、その後同船が自船の右舷側至近を航過する態勢で接近したが、前方の釣客の方を見ていて、入航船に対する見張りを十分に行わず、直ちに同船に対して灯火を表示し、自船の存在を示す措置をとらなかった。
 18時30分少し前A受審人は、028度に向首していたとき、正船尾方100メートルに接近した中松丸が、防波堤入口に向け転針して自船に向首する状況となったものの、依然見張り不十分で何らの措置をとらず、18時30分共同丸は、東防波堤灯台から220度220メートルの地点において、その右舷船尾に中松丸の左舷船首が平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、日没時刻は17時24分であった。
 また、中松丸は、たこつぼなわ漁業に従事するFRP製の漁船で、B受審人が一人で乗り組み、船首0.15メートル、船尾0.85メートルの喫水をもって、同日18時20分高松港内の瀬戸内町の岸壁を発し、女木港に向かった。
 この日B受審人は、午前中に所用のため中松丸を運航して女木港から高松港に出かけ、高松市内で買い物などの用事を済ませたあと女木港に帰るところで、40年以上にわたり女木島周辺で操業に従事し、同港南方に設置されたはまちの養殖施設やその外側の離岸堤など航行上の障害物について熟知していた。
 出航後B受審人は、高松港8号防波堤沖合で北方を見たとき、もやのため女木島の島影や東防波堤灯台がはっきり確認できず、レーダーを装備していないことから、平素漁場から帰航する際に通る海岸沿いの針路で女木港港口に向かうこととし、そのころ見えていた女木島灯台の少し東に向けて北上し、18時28分少し過ぎ同灯台から083度580メートルの地点で、針路を東防波堤灯台に向首する036度に定め、機関を回転数毎分2,500の前進にかけ、17.0ノットの対地速力で進行した。
 定針後B受審人は、操舵室の舵輪後方に立って前路の見張りと操舵にあたり、女木港南西のはまち養殖施設に近づかないよう左舷側の島影を見て陸岸との距離を保ちながら船首目標の東防波堤灯台に向けて北上し、18時30分少し前同灯台から216度300メートルの地点に達したとき、防波堤入口に向け転針することとし、そのとき左舷船首8度100メートルのところに、キャビン内の照明灯を点灯した共同丸が船尾を自船に向けて錨泊していたが、同船が灯火を表示しておらず、また同照明灯が操舵室後部ドアに遮られて視認できなかったので同船に気づかず、針路を同方向に向く028度に転じ、東防波堤灯台とその西方80メートルの西防波堤先端に設置された黄色標識灯に留意しながら続航中、中松丸は、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、共同丸は右舷船尾のハンドレールが曲損したほか外板に擦過傷を生じ、中松丸は左舷船首部に亀裂が生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人が全治4日間の頚椎捻挫を、B受審人が7日間の通院加療を要する胸部打撲傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、香川県女木港沖合において、防波堤入口付近に錨泊中の共同丸が、錨泊灯を表示しなかったばかりか、入航船に対する見張りが不十分で、接近する中松丸に対し、灯火を表示して自船の存在を示す措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日没後、香川県女木港防波堤入口沖合に錨泊する場合、入出航船の通航水域でもあったから、自船の存在が接近する他船に確実に分かるよう、錨泊灯を表示すべき注意義務があった。しかし、同人は、キャビン内の照明灯を点灯しているので暗くなっても入出航船から自船が見えると思い、錨泊灯を表示しなかった職務上の過失により、操舵室後部ドアに遮られて船尾方向から同照明灯を視認することができないまま接近した中松丸との衝突を招き、共同丸の右舷船尾部ハンドレールに曲損及び同部外板に擦過傷を、中松丸の左舷船首に亀裂をそれぞれ生じさせ、B受審人に胸部打撲傷を負わせるとともに、自身も頚椎捻挫を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し、同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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