(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月21日13時30分
尾道水道東口付近
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第二ようど |
プレジャーボート丸誉寛丸II |
総トン数 |
2.1トン |
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全長 |
9.02メートル |
7.90メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
102キロワット |
58キロワット |
3 事実の経過
第二ようど丸(以下「ようど丸」という。)は、船体後部寄りに操縦室を設け、同室前方の甲板上に屋形を取り付けた船外機装備のFRP製遊漁船兼交通船で、A受審人が1人で乗り組み、友人5人を乗せ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成13年10月21日08時00分広島県千年港を発し、同港西方沖合の布刈瀬戸東口の浅所でいいだこ釣りを行い、その後因島大橋付近の釣り場に移動したものの釣果がなく、12時50分その場を発進して尾道糸崎港の第1航路東側にあたる三番洲と呼ばれる浅瀬に向かった。
A受審人は、発進と同時に機関を回転数毎分2,000にかけ、8.0ノットの対地速力とし、操縦室右舷側の操縦席に腰を掛けて操舵と見張りにあたり、友人のうち3人を前部甲板に、1人を自分の左隣に、1人を後部甲板にそれぞれ座らせ、向島と岩子島との間の御幸瀬戸を北上し続いて尾道水道に入って東行を始めた。
A受審人は、尾道大橋の下を航過して間もなく、尾道水道の水域が広がり、周囲に他船を見掛けなかったので、13時27分半少し前尾道大橋橋梁灯(C1灯)(以下「中央橋梁灯」という。)から119度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点で、針路を尾道糸崎港尾道水道東第6号灯浮標(以下、尾道糸崎港尾道水道東灯浮標の名称については「尾道糸崎港尾道水道東」を省略する。)と第4号灯浮標とのほぼ中間に向け087度に定め、機関をほぼ全速力前進の回転数毎分4,000に上げ、17.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、ようど丸は、回転数毎分2,500から3,000の間では船首の浮上が一番大きく、4,000では浮上がかなり少なくなるものの、操舵位置から正船首方の右舷2度から左舷3度の範囲に死角を生じる状況であった。
13時29分A受審人は、中央橋梁灯から097度1,230メートルの地点に達したとき、正船首520メートルのところに誉寛丸II(以下「誉寛丸」という。)を視認することができ、その後、同船が錨泊中の形象物を掲げていなかったものの、折からの東流に抗して船首を西北西方に向けたまま静止している様子から、錨泊していることが分かる誉寛丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、隣の友人との会話に気を取られ、体を左右に移動させるなり、操舵により船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かず、誉寛丸を避けることなく続航した。
そして、A受審人は、右手で舵輪を握ったまま左下の道具箱からいいだこ釣りの仕掛けを取り出し隣の友人に渡していたところ、突然、船首部に衝撃を受け、13時30分中央橋梁灯から094度1,750メートルの地点おいて、ようど丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、誉寛丸の左舷船尾部に前方から23度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期にあたり、付近海域には東方に流れる微弱な潮流があった。
A受審人は、急いで機関を中立にし、灯浮標にでも衝突したのかと後ろを振り返ったところ、誉寛丸を初めて視認し同船との衝突を知った。
また、誉寛丸は、船体中央部に操縦室を設けた船外機装備のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日09時00分尾道水道西口付近の係留地を発し、向島船渠前面海域で釣りを行ったものの釣果がなく、11時00分その場を発進して前示の三番洲に向かった。
B受審人は、11時30分前示衝突地点に到着して機関を止め、水深約4メートルの海底に船首から重さ15キログラムのステンレス製の錨を投じ、全長60メートル直径8ミリメートルのクレモナ製の錨索を20メートル延出し船首のクリートに係止して錨泊し、同地点が船舶交通の多い尾道水道内であり、第1航路のほぼ東側側線上であったのに、備えていた錨泊中の形象物を表示しないまま、船尾方に向かって5本の竿を出して釣りを始めた。
13時29分B受審人は、折からの東流を受けて船首が290度に向いていたとき、左舷船首23度520メートルのところに、ようど丸を初めて視認し、その後、自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたものの、屋形を備えた釣船が自船のいる釣り場に向かっているようなので、近づけば替わすものと考えて釣りを続けた。
13時29分半B受審人は、ようど丸が自船に向首したまま260メートルに接近したが、錨泊中の自船をいずれ避けてくれるものと思い、搭載した簡易信号装置を使用するなどして避航を促すための有効な音響による信号を行わず、更に間近に接近したとき、直ちに機関を始動して前進するなど衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け、同時30分少し前ようど丸が左舷船尾至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ、両手を振りながら大声を上げたものの、効なく、誉寛丸は、290度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ようど丸は、船首船底外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、誉寛丸は、左舷船尾部に凹損及び船外機に損傷を生じ、のち廃船処理された。
(原因)
本件衝突は、尾道水道東口付近において、ようど丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の誉寛丸を避けなかったことによって発生したが、誉寛丸が、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、尾道水道を釣り場に向けて航行する場合、船首浮上により操舵位置から正船首方に死角を生じていたから、前路で錨泊中の誉寛丸を見落とすことのないよう、体を左右に移動させるなり、操舵により船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、友人との会話に気を取られ、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、誉寛丸に気付かず、これを避けないまま進行して誉寛丸との衝突を招き、ようど丸の船首船底外板に擦過傷を、誉寛丸の左舷船尾部に凹損及び船外機に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、尾道水道東口付近において、釣りのため錨泊中、ようど丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、直ちに機関を始動して前進するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、錨泊中の自船をいずれ避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、ようど丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。