(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月26日05時10分
瀬戸内海 音戸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二十二七福丸 |
バージ七福丸 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
13.62メートル |
56.00メートル |
幅 |
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14.00メートル |
深さ |
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3.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,206キロワット |
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3 事実の経過
第二十二七福丸(以下「七福丸」という。)は、2基2軸を装備した鋼製引船兼押船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、空倉で船首1.6メートル船尾1.5メートルの喫水となった鋼製バージ七福丸(以下「バージ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)して全長62メートルの七福丸押船列とし、船首1.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成14年1月26日広島県呉港広区から音戸瀬戸を経由して同県大黒神島採石場に向かうこととなった。
ところで、バージは、船尾甲板上に長さ約25メートルのクレーンブームを有した吊り上げ荷重15トンのクレーンを備え、これが船尾端から15メートルのところを中心とする全旋回式の運転台基部によって支えられ、上下に起倒できるようになっており、平素、航行中にはクレーンブーム頂部を船首部に設けられた門型サイドランプの上に収納していた。
音戸瀬戸南口付近の最狭部には、呉市側から倉橋島へほぼ271度(真方位、以下同じ。)の方向に音戸大橋が架橋されており、略最高高潮面から橋桁までの高さについて海図及び水路誌に23メートルと明記されていた。
A受審人は、クレーンの運用及び安全管理の責任者として指揮を執っていたが、クレーンブームを門型サイドランプの上に収納すると運転室上の櫓(やぐら)型クレーンポストにより船首方に死角を生じるので、夜間の音戸瀬戸航行に備え前方の視界を確保するため、右舷側に約45度振り出し、同ブームの頂部が海面上23メートル以下となるよう高さを調整して立てた状態で航行することとした。
B受審人は、A受審人の父親で、甲板員が都合により休暇をとったのでその替わりとして乗船したものであるが、七福丸押船列に船長として数回乗船したことがあり、また他の押船列で船長として音戸瀬戸を頻繁に航行していた経験から、音戸大橋の海面から橋桁までの高さを知っていた。
ところが、A受審人は、音戸瀬戸を通航するためクレーンブームの高さを調整する際、バージ甲板上にB受審人を配し、自らクレーンを操作してブームを右舷側に振り出したのち、音戸大橋下の通航経験の多い同受審人の目測した高さで同大橋下の通航に支障がないとの勧めで大丈夫と思い、自ら同ブーム頂部を船首部に設置されている鳥居マストの高さと比較し一般配置図と照合するなどして同ブームの高さを十分に調査することなく、同ブーム頂部が鳥居マストより高く海面から23メートル以上になっていて同大橋の橋桁に衝突するおそれがあることに気付かないまま、出航操船と船橋当直をB受審人に任せて休息した。
一方、B受審人は、平素、長さ22メートルのクレーンブームを装備した他のバージ押船列に乗船し、前方に死角ができないように同ブームを横に振り出し立てた状態にして航行したこれまでの通航経験から、自らの目測でこの程度の高さであれば音戸大橋下を支障なく通航できるものと思い、A受審人に同ブームの高さを調査するよう勧めることなく、同受審人を休息させるために出航操船に引き続き船橋当直に就くことにした。
こうして、同日04時15分七福丸押船列は、B受審人の操船のもと、呉港広区を発し、大黒神島採石場に向かった。
05時08分わずか前B受審人は、音戸灯台から179度780メートルの地点で、針路を012度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して6.0ノットの対地速力で進行中、05時10分音戸灯台から170度500メートルの地点において、七福丸押船列は、同一針路及び速力のまま、クレーンブーム頂部が橋桁に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、音戸瀬戸には2.0ノットの南流があった。
A受審人は、倉橋島宇和木の西方沖合で昇橋し、B受審人から音戸大橋の橋桁とクレーンブームの頂部が衝突してそのまま航行したことを知らされ、事後の措置に当たった。
衝突の結果、七福丸押船列のクレーンブーム頂部の滑車カバーが脱落し、音戸大橋の橋桁下部が凹損及び施設パイプが曲損したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件橋桁衝突は、夜間、七福丸が、旋回式クレーンを装備したバージを押航してクレーンブームを立てた状態で音戸大橋下を通航するにあたり、同ブームの高さについての調査が不十分で、同ブームが橋桁より高い状態のまま同大橋に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長がクレーンブームの高さを調査しなかったことと、甲板員が同ブームの高さを調査することを船長に勧めなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、旋回式クレーンを装備したバージを押航し、クレーンブームによる船首死角の解消のため同ブームを立てた状態にしたまま横に振り出して音戸大橋下を通航する場合、同大橋の橋桁の高さを知っていたのであるから、立った状態の同ブーム頂部が橋桁に接触することのないよう、自ら船首部に設置されている鳥居マストの高さと比較するなどして同ブームの高さを調査すべき注意義務があった。しかし、同人は、同大橋下の通航経験の多いB受審人の目測した高さで同大橋の通航に支障がないとの勧めで大丈夫と思い、自ら船首部に設置されている鳥居マストの高さと比較するなどして同大橋下の通航に必要な高さを調査しなかった職務上の過失により、同ブームが橋桁の高さを超えたまま進行して衝突を招き、同ブーム頂部滑車カバーの脱落並びに同大橋の橋桁下部に凹損及び施設パイプに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、船長を補佐してクレーンブームを立てた状態で音戸大橋下を通航する場合、同ブーム頂部が橋桁に接触しないよう、船長に一般配置図にあたるなどして同ブームの高さを調査することを勧めるべき注意義務があった。しかし、同人は、それまでの通航経験から自らの目測でこの程度の高さであれば同大橋下を支障なく通航できるものと思い、船長に同ブームの高さを調査することを勧めなかった職務上の過失により、同ブームを橋桁より高く立てた状態にして衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。