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平成14年広審第48号
件名

漁船海平丸漁船妙光丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:海平丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
海平丸・・・船底外板に破口及び亀裂
妙光丸・・・右舷船尾外板及び後部構造物を損壊、船長が頸椎損傷により即死

原因
妙光丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
海平丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、妙光丸が、前路を左方に横切る海平丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海平丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月15日11時00分
 愛媛県中島歌埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船海平丸 漁船妙光丸
総トン数 3.0トン 1.4トン
全長 10.50メートル  
登録長   7.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 253キロワット  
漁船法馬力数   45

3 事実の経過
 海平丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1名が乗り組み、たちうお引き縄釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年2月13日05時00分広島県生口港を発し、同日及び翌14日の昼間、安居島東方沖合の漁場で操業を行った。
 翌々15日06時30分A受審人は、漁獲物の水揚げのため寄港していた下蒲刈島大地蔵漁港の防波堤を離岸し、07時ごろ安居島南方沖合の漁場に至って、操業を行ったが、やがて漁獲が減ってきたので、野忽那島(のぐつなしま)北方沖合に漁場を変えることにした。
 10時54分A受審人は、安居島南方沖合の漁場から芋子瀬戸に向け移動を開始したとき、前方をいちべつして、針路方向の右方及び左方に10数隻の漁船群を視認したものの、針路方向には他船を認めず、10時55分歌埼灯台から070度(真方位、以下同じ)3.2海里の地点に達したとき、針路を睦月島の東岸越しに見えた釣島の島頂に向首する200度に定め、機関を回転数毎分2,000の半速力前進として20.0ノットの対地速力(以下「速力」という)で手動操舵により進行した。
 ところで、海平丸は、操舵室が船体中央部やや船尾寄りに設けられており、半速力前進の20.0ノットで航行すると船首が浮上し、操舵室で立って操舵に当たると、正船首方向の各舷約15度の範囲に死角を生じるので、A受審人は、平素、操舵室に置いていた高さ約30センチメートルの踏み台の上に立ったり船首を左右に振るなどして、船首死角を補う見張りを行っていた。
 10時58分A受審人は、歌埼灯台から086度2.7海里の地点に達したとき、左舷船首6度1,320メートルに妙光丸を認めることができ、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、移動開始時点で前路に他船はいないものと思い、踏み台の上に立ったり船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、その後同船が避航動作をとらないまま間近に接近しても、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を中立にするなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 こうして、海平丸は、11時00分歌埼灯台から101度2.5海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が妙光丸の右舷後部に、前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、付近海域には北東方に流れる弱い潮流があった。
 また、妙光丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、船長M及び同人の妻で甲板員のSが乗り組み、たちうお引き縄釣り漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって同月15日06時30分愛媛県温泉郡中島町長師漁港を発し、07時30分安居島南方沖合の漁場に至り、操業を行ったが、やがて漁獲が減ってきたので、野忽那島北方沖合に漁場を変えることにした。
 ところで、たちうお引き縄釣り漁は、先端に約6キログラムの重りを付けた直径約1.5ミリメートルで長さ約150メートルのワイヤロープの先に、60本ないし70本の釣り針を取り付けた長さ約200メートルの合成繊維製縄を連結し、釣り針を海底から一定の高さに保ち、横から潮を受けて約2.5ノットの速力で引いたのち、漂泊して揚縄機で巻き上げ漁獲し、潮上りして漁を繰り返すもので、引き縄中は増速、停止、後進及び右転などの操船が比較的自由で、安芸灘でたちうお引き縄釣り漁に従事する漁船の多くは、漁労に従事していることを示す形象物を掲げず、海平丸と妙光丸はその形象物を所持していなかった。
 10時45分M船長は、歌埼灯台から108度3.0海里の地点で操業を再開し、針路を320度に定め、2.5ノットの速力で手動操舵により進行した。
 10時58分M船長は、歌埼灯台から102度2.6海里の地点に達したとき、右舷船首54度1,320メートルに海平丸を認め得るようになり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、同船の進路を避けることなく、右舷側に設備された揚縄機の傍で前を向いて立ち、左手で舵輪を持ち、たちうおの当たりを確かめるために揚縄機から出たワイヤロープを右手で持った姿勢で続航した。
 11時00分わずか前S甲板員は、船首から弁当を持ち帰るとき、M船長の叫び声を聞いて周囲を見回すと、右舷前方至近に自船に向首して接近する海平丸を認め、衝突の危険を感じて操舵室左舷側の手摺を握り締めた直後、妙光丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海平丸は、船底外板に破口及び亀裂を生じたが、のち修理され、妙光丸は、右舷船尾外板及び後部構造物を損壊し、のち未修理のまま造船所に無償譲渡された。またM船長(昭和3年2月10日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が、頚椎損傷により即死した。

(原因)
 本件衝突は、愛媛県中島歌埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、妙光丸が、前路を左方に横切る海平丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海平丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、中島歌埼東方沖合において、漁場を変えるためたちうお漁などの漁船が操業する海域を航行する場合、船首浮上により船首方向に死角を生じた状態であったから、左舷船首方向から接近する妙光丸を見落とすことのないよう、操舵室に置いていた踏み台の上に立ったり船首を左右に振るなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、移動開始時いちべつしただけで前路に他船はいないものと思い、踏み台の上に立ったり船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、妙光丸に気付かず、その後同船が避航動作をとらないまま間近に接近しても、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を中立にするなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船底外板に破口及び亀裂を、妙光丸の右舷船尾外板及び後部構造物に損壊をそれぞれ生じさせ、M船長が頚椎損傷により即死するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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