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平成14年神審第31号
件名

プレジャーボートウエスト−ヒルのり養殖施設衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、黒田 均、村松雅史)

理事官
清重隆彦

受審人
A 職名:ウエスト−ヒル船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
ヒル号・・・船首部を圧壊、 船長が肋骨骨折等、同乗者2人が左手関節骨折及び左鎖骨骨折

原因
水路調査不十分

主文

 本件のり養殖施設衝突は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月23日18時00分
 姫路港広畑区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートウエスト−ヒル
登録長 6.15メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 102キロワット

3 事実の経過
 ウエスト−ヒル(以下「ヒル号」という。)は、船体中央部に操縦席のあるFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、平成13年11月23日15時40分兵庫県姫路港網干区網干浜の県営マリーナを発し、鞍掛島南方の釣り場に向かった。
 ところで、姫路港広畑区北西部の岸壁沖には、のり養殖施設用に多数の鋼管さくが海底に打ち込まれ、広畑東防波堤灯台(以下「東灯台」という。)付近から県営マリーナ東側水路の南入口東端付近までを結ぶ直線の北東側は、航行危険海域となっており、海図第W1113号中に「鋼管さくあり」と明記され、ヨット・モーターボート用参考図H−139号(以下「ボート用参考図」という。)中には、定置網等を意味する赤色枠を設け、「のり養殖用鋼管さくが多数ある」と記されていた。
 しかし、A受審人は、GPSプロッターの画面を見ていれば夜間でも航行できるものと思い、帰途の航行ルートにおいて、航行危険海域存在の有無が分かるよう、あらかじめボート用参考図を調べるなどして、水路調査を十分に行わなかったので、前示の航行危険海域の存在を知らずに、姫路港南方沖での釣りの航海に臨んだ。
 その後、A受審人は、釣り場に至って釣りを行い、17時25分ごろ鞍掛島灯台の南方650メートルの地点を発進して帰途に就き、1人で操船に当たり、機関を17.0ノット(対地速力、以下同じ。)の前進にかけ、手動操舵により北上し、姫路港の港域内に入ってから西進した後、飾磨航路南方沖から東灯台の南方近くまで、8.5ノットの速力に減速して進行し、広畑航路北部の東側境界線に差し掛かった。
 A受審人は、17ノット強の全速力前進として広畑航路を横断し、17時58分同航路を抜けたとき、広畑区北西部の岸壁寄りを進むことにし、東灯台から272度(真方位、以下同じ。)420メートルの地点において、針路を315度に定め、再び8.5ノットの速力に減じ、前示の航行危険海域へ向首していることに気付かずに続航した。
 こうして、ヒル号は、前示の県営マリーナ東側水路南口に向かう目的で18時00分少し前左舵がとられて、261度に向首したとき原速力のまま、18時00分東灯台から295度910メートルの地点で、その船首部がのり養殖施設の鋼管くいに衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮期であった。
 衝突の結果、船首部を圧壊し、A受審人が肋骨骨折等の、同乗者2人が左手関節骨折及び左鎖骨骨折の、いずれも全治2箇月の負傷をした。

(原因の考察等)
1 原因
 本件は、夜間、姫路港内において、のり養殖施設の鋼管くいに衝突した、いわゆる単独衝突であり、乗揚等に準じた原因究明にあたり、まず排除要因については、水路調査不十分、船位確認不十分又は針路選定不適切の3要素について検討するのであるが、すでに事実認定したとおり、時系列的に船位確認及び針路選定の段階に至らないので、水路調査不十分をもって律するのが相当である。
2 その他の海難発生要因存在の可能性
 A受審人には、次のような個別事情があった。
 (1) 同人に対する質問調書中、「四級小型船舶操縦士免状の取得は平成13年3月22日で、同年4月ごろより組立式ボートを操縦していて、ヒル号は同年11月17日に購入した。」旨の供述記載
 (2) 同人の当廷における、「組立式ボートは、自家用車で運搬できるもので、小型のエンジンを付けて和歌山方面で操縦した。本船を購入して網干浜近辺で4回操縦したが、遠出をしたのは本件時が初めてであった。船体などの塗装で出港 時刻が遅くなり、結果的に夜間航行となった。昼間であれば、広畑区北西部の 岸壁寄りの北上針路はとらず、マリーナ東側水路の南口に直行していたと思う。」旨の供述
 すなわち、A受審人は、四級小型船舶操縦士免状を取得してからの期間が浅いうえ、姫路港を拠点にして遠出の初航海に臨む状況下、夜間の同港内を進行中に本件が発生した。
 したがって、夜間でなければ本件は発生しなかった可能性が高く、排除要因として、夜間航海を避けなかったこと又は夜間航海を避けることができるよう、適切な航海計画のもとに航海を実施しなかった点を複合原因に挙げることができる。
 しかしながら、A受審人の個別事情を考慮して、原因の数を増やすと、それだけ「水路調査不十分」の排除要因が曇るのであって、同種海難発生防止上の観点からも、同焦点を明瞭にしておくのが肝要である。
 よって、本件は、このような疑似要因的なものを排斥し、原因を明らかにして摘示したものである。
3 その他
 当廷において、A受審人にボート用参考図を確認させたところ、同図のことは知らず初めて見た旨の供述をした。ヒル号は姫路港の県営マリーナを発着地点として本件は発生したのであるから、「各マリーナ」においては、ヨット・モーターボート用参考図入手方法などについて、マリーナ利用者に分かりやすいよう、広報等を充実させることが望ましい。

(原因)
 本件のり養殖施設衝突は、姫路港南方沖での釣りの航海に臨むにあたり、航行予定海域について、水路調査が不十分で、夜間、同港内において、のり養殖施設の鋼管くいの存在する航行危険海域に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、姫路港南方沖での釣りの航海に臨む場合、帰途の航行ルートにおいて、航行危険海域存在の有無が分かるよう、あらかじめボート用参考図を調べるなどして、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、GPSプロッターの画面を見ていれば夜間でも航行できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、定針したとき、同危険海域へ向首していることに気付かず進行して、のり養殖施設の鋼管くいとの衝突を招き、船首部に圧壊を生じさせ、自らと同乗者2人にいずれも全治2箇月の負傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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