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平成14年横審第39号
件名

漁船美敏丸岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、長谷川峯清、花原敏朗)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:美敏丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士

損害
船首部を圧壊
同乗者7人が右肋骨骨折、胸部挫傷等

原因
操船(防波堤から遠ざかって航行しなかったこと)不適切

主文

 本件岸壁衝突は、防波堤を左舷に見て航行する際、できるだけ同防波堤から遠ざかって航行しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月14日16時31分
 愛知県篠島漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船美敏丸
総トン数 3.3トン
全長 11.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 209キロワット

3 事実の経過
 美敏丸は、平素、専ら素潜り漁に従事している、航海速力22.0ノットのFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を操舵室の後部甲板に乗せ、他の同乗者を愛知県篠島漁港神戸桟橋から同県師崎港へ送り届ける目的で、船首0.24メートル船尾1.48メートルの喫水をもって、平成13年8月14日16時14分篠島漁港照浜船だまりを発し、師崎港に向かった。
 ところで、篠島漁港は、港中央部の埋立地で南北に分断され、篠島港西防波堤灯台から080度(真方位、以下同じ。)290メートルの地点を基部として017度方向に延びる長さ約40メートルの南内防波堤と前示埋立地の南西端とで約50メートルの可航幅を構成し、南内防波堤の北端には灯標(以下、「基点」という。)が設置され、基点の南東方に照浜船だまりがあり、基点から100度370メートルのところを基部とし、343度方向に延びる長さ約30メートルの神戸桟橋が構築されていた。また、南内防波堤の基部から284度方向に長さ約70メートルの蛭子ヶ鼻岸壁があり、南内防波堤の水面上の高さは約3メートルで、同岸壁のそれは約2.5メートルであったことから、同防波堤を左舷に見て航行することとなる出港時には、眼高が約1.8メートルの美敏丸の操縦席から左舷前方が見通せない状況となっていた。
 16時17分A受審人は、神戸桟橋に至り、着桟して同乗者の到着を待ち、その後、到着した同乗者7人のうち、2人を操舵室前部甲板に、5人を同室後部甲板にそれぞれ乗せ、篠島を左回りで周遊したあと師崎港に向かう予定で、同桟橋を発進し、同時29分基点から094度370メートルの地点で、針路を埋立地南側水域のほぼ中央部に向く292度に定めて5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
 16時30分A受審人は、基点から081度220メートルの地点に至り、針路を264度に転じて8.5ノットに増速して続航し、同時30分半基点から074度60メートルの地点に達したとき、南内防波堤で左舷前方の見通しが妨げられる状況となっていたが、盆休み中であったうえ、出入港船の少ない時間帯でもあったことから、行き会う他船はいないものと思い、左舷前方の見張りを十分に行えるよう、できるだけ同防波堤から遠ざかって航行することなく進行した。
 16時31分少し前A受審人は、南内防波堤の北端を航過した際、速力が予定の10.0ノットまで上がったのを認めて続航中、同時31分わずか前基点から275度55メートルの地点に達したとき、左舷船首25度100メートルばかりのところに、高速力で自船に向首接近する水上オートバイを初めて視認し、互いに右舷を対して航過するつもりで左舵一杯をとり、続いて蛭子ヶ鼻岸壁の西端を替わすため右舵一杯とし、機関を後進にかけたが、及ばず、16時31分基点から258度85メートルの地点において、船首が右転を始めて224度を向いたとき、原速力のまま、60度の角度をもって同岸壁に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突の結果、美敏丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。また、同乗者のうち2人が上顎骨骨折や右肋骨骨折などの重傷を負い、5人が頭部外傷や胸部挫傷などの軽傷を負った。

(原因)
 本件岸壁衝突は、愛知県篠島漁港において、防波堤を左舷に見て航行する際、できるだけ同防波堤から遠ざかって航行しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛知県篠島漁港において、前路の見通しを妨げる防波堤を左舷に見て航行する場合、左舷前方の見張りを十分に行えるよう、できるだけ防波堤から遠ざかって航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、盆休み中であったうえ、出入港船が少ない時間帯でもあったことから、行き会う他船はいないものと思い、できるだけ防波堤から遠ざかって航行しなかった職務上の過失により、蛭子ヶ鼻岸壁の陰に隠れた、北上中の水上オートバイが存在することに気付かないまま進行中、衝突のわずか前至近に迫った同オートバイを初めて視認し、互いに右舷を対して航過するつもりで左舵一杯をとり、続いて同岸壁の西端を替わすため右舵一杯とし、機関を後進にかけたが、及ばず、同岸壁との衝突を招き、美敏丸の船首部を圧壊させ、同乗者7人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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