(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月17日17時30分
横須賀港第7区
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートヒデユキ |
全長 |
6.49メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
51キロワット |
3 事実の経過
ヒデユキは、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年12月17日10時00分海獺島灯台から324度(真方位、以下同じ。)1.1海里付近の横須賀港久里浜湾内の桟橋を発し、千葉県保田漁港沖合の海域に向かった。
A受審人は、前示海域に至って釣りを行ったのち、17時10分海獺島灯台から136度6.6海里の地点を発進し、針路を久里浜湾に向く315度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの速力で手動操舵によって帰途に就いた。
ところで、A受審人は、久里浜湾への出入航に当たっては、明るい時間帯に海獺島灯台やその西方の東京電力横須賀火力発電所南側の東方に延びた防波堤(以下「防波堤」という。)など周囲の地形を目安に航行しており、久里浜湾周辺の水路状況についてはよく知っていたが、夜間に航行した経験がなく、同灯台の灯質など灯火模様については知らなかった。一方、同受審人は、GPSプロッターに船位、航跡及び船首輝線などを表示するようにしていた。
17時23分A受審人は、すでに日没後で周辺が暗くなり、周囲の地形を目安に航行することができない状況の下、海獺島灯台から145度2.1海里の地点に達したとき、正船首わずか右方に白色の灯火1個を初めて視認した。
A受審人は、視認した灯火が防波堤東端に設置された照明灯であったが、海獺島灯台の灯質を知らなかったことから、同照明灯を同灯台の灯光と誤認し、同照明灯を注視して進行した。
17時25分A受審人は、海獺島灯台から150度1.5海里の地点に至り、GPSプロッターによって防波堤に向首進行しているのを認め得る状況にあったが、視認した灯火を目標に進行すれば久里浜湾に入航できるものと思い、減速したうえで、GPSプロッターを活用して船位の確認を十分に行うことなく、防波堤に向首していることに気付かないまま続航した。
17時30分少し前A受審人は、海獺島灯台から256度800メートルの地点に至り、視認した灯火を右舷正横に見る状況となったとき、海獺島灯台の灯光を右舷側に見ているつもりで、久里浜湾に入航しようと右舵をとって回頭を始め、17時30分ヒデユキは、海獺島灯台から262度830メートルの地点において、船首が358度を向いたとき、原速力のまま、防波堤に直角の状態で衝突し、惰性で船体が防波堤上に乗り揚げた。
当時、天候は小雨で風はほとんどなく、視程は約3海里で、潮候は上げ潮の中央期に当たり、日没は16時31分であった。
衝突の結果、ヒデユキは、船首船底部に亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理され、A受審人が下顎部に打撲傷を、同乗者1人が頭部に打撲傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、横須賀港久里浜湾に入航する際、船位の確認が不十分で、防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、横須賀港久里浜湾に入航する場合、夜間に航行した経験がなく、周囲の地形を目安に航行することができない状況となっていたのであるから、減速したうえで、GPSプロッターを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、正船首わずか右方に視認した灯火を海獺島灯台の灯光と誤認し、視認した灯火を目標に進行すれば久里浜湾に入航できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤に向首進行して衝突を招き、船首船底部に亀裂を伴う凹損を生じさせ、自身が下顎部に打撲傷を負い、同乗者1人の頭部に打撲傷などを負わせるに至った。