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平成14年横審第53号
件名

遊漁船小沢丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:小沢丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
小沢丸・・・損傷ない
手漕ぎボート・・・船体中央部両舷にガンネルから船底に亀裂、釣り人が頸椎捻挫

原因
小沢丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、小沢丸が、見張り不十分で、錨泊して遊漁中のプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月3日11時45分
 千葉県内浦湾

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船小沢丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 4.9トン  
全長   3.75メートル
登録長 11.25メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 235キロワット  

3 事実の経過
 小沢丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、遊漁をさせる目的で、釣り客14人を乗せ、船首0.30メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成13年6月3日05時00分千葉県小湊漁港寄浦地区(以下「寄浦地区」という。)を発し、同県入道ケ埼沖合の釣り場に向かった。
 05時15分ごろA受審人は、小湊港灯標から152度(真方位、以下同じ。)1,720メートルばかりの、前示釣り場に至り、同釣り場から行川アイランド沖合にかけて移動しながら遊漁を行わせたのち、11時30分同灯標から123度1.1海里の地点を発進し、機関を全速力前進より少し落とした回転数毎分2,000とし、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で帰途に就いた。
 11時37分少し過ぎA受審人は、小湊港灯標から187度940メートルの地点に至り、同じ速力で針路を寄浦地区の南側防波堤東端に向く342度に定めたとき、前方に多数の手漕ぎボートなどを認め、また海面状態も静穏であったこともあって、平素より早かったが、これらの手前で釣り客が使用したコマセ入れの清掃や防舷材を舷外に出す作業などの入港準備作業を行うこととし、同時39分半同灯標から238度400メートルの地点で、いったん機関を停止して停留し、同作業を始めた。
 ところで、小沢丸は、航行中は船首部が浮上し船首方に死角を生じ、前路の見通しが妨げられる状況にあり、周囲に他船が存在する状況下において、停留状態から発進する際には、前路の見張りを厳重に行う必要があった。
 A受審人は、入港準備作業を終えたところで、寄浦地区に向けて発進することとしたが、発進前に前路を確かめなくても大丈夫と思い、発進前の前路の見張りを十分に行うことなく、11時44分半機関をほぼ全速力前進にかけ、11.0ノットの速力として進行した。
 発進時、A受審人は、正船首210メートルのところに、船首を南西方に向け、投錨して遊漁中のプレジャーボート(船名なし)(以下「手漕ぎボート」という。)が存在したが、同船に気付かないまま続航し、11時45分小沢丸は、小湊港灯標から268度410メートルの地点において、原針路、原速力のまま、小沢丸の左舷船首部が手漕ぎボートの左舷中央部に前方から63度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、手漕ぎボートは、千葉県安房郡天津小湊町所在のT釣具店が所有するFRP製手漕ぎボートで、オール2本、グレーチング、同釣具店店主作製の、ペットボトルに針金を通して同ボトルの底部から4つめ状にこれを出し、同ボトルにコンクリートを充填させた錨などをそれぞれ備品として積み込んでいた。
 釣り人Sは、遊漁の目的で、T釣具店から手漕ぎボートを借り、自ら持参した救命胴衣を着用して1人で乗り組み、同日10時10分同釣具店前の砂浜を発し、同時32分小湊港灯標から253度330メートルばかりの地点に至って遊漁を始めた。
 11時30分ごろS釣り人は、前示衝突地点付近に移動して錨を投入し、船首端に設けたアイに結ばれた長さ25メートルの錨索を全て繰り出し、折からの風により船首を南西方に向け、右舷側から釣り竿を出して遊漁中、同時44分半小沢丸が自船に向首して発進するのを認めたものの、急速に迫る同船に恐怖感を覚え、慌てて右舷側から海中に飛び込んだ直後、船首が225度を向いているとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、小沢丸は、損傷がなかったが、手漕ぎボートは、船体中央部両舷にガンネルから船底に至る亀裂を生じた。また、S釣り人が頸椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、千葉県内浦湾において、小沢丸が、停留して行った入港準備作業を終えて発進する際、見張り不十分で、錨泊して遊漁中の手漕ぎボートを避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県内浦湾において、停留して行った入港準備作業を終えて小湊漁港寄浦地区に向けて発進する場合、航行中は、船首が浮上して船首方に死角を生じる状況であったから、正船首方で錨泊して遊漁中の手漕ぎボートを見落とすことのないよう、発進前に前路の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進前に前路を確かめなくても大丈夫と思い、発進前に前路の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊して遊漁中の手漕ぎボートに気付かず、同船に向首進行して衝突を招き、同船の船体中央部両舷にガンネルから船底に至る亀裂を生じさせ、釣り人に頸椎捻挫を負わせるに至った。


参考図
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