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平成14年横審第14号
件名

プレジャーボートラブ−ドラゴンIIプレジャーボートクロバー3衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、長谷川峯清、甲斐賢一郎)

理事官
釜谷奬一、松浦数雄

指定海難関係人
A 職名:クロバー3操縦者
B 職名:クロバー3船舶所有者

損害
ラ号・・・外板に多数の凹損、亀裂、擦過傷等、のち廃船、船長が脳幹部損傷により死亡
ク号・・・船首端中央部防舷帯に亀裂、操縦者が顔面挫創、頭部挫傷

原因
ク号・・・無資格者運航、動静監視不十分

主文

 本件衝突は、ラブ−ドラゴンIIとクロバー3の両船が前後して並走した際、後続するクロバー3が、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、動静監視不十分で、先行したラブ−ドラゴンIIが減速後、急旋回してほぼ停止状態となったとき、同船の方向に針路を転じたことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月13日12時25分
 神奈川県逗子市葉山町沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートラブ−ドラゴンII
全長 3.15メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 55キロワット

船種船名 プレジャーボートクロバー3
全長 2.88メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 80キロワット

3 事実の経過
(1) ラブ−ドラゴンII(以下「ラ号」という。)及びクロバー3(以下「ク号」 という。)
 両船は、ともにヤマハ発動機株式会社が製造したウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで、ラ号の定員は3人、船体重量が240キログラム、最高速力37.6ノットで、ク号の定員は2人、船体重量が226キログラム、最高速力47.1ノットであった。
(2) A指定海難関係人
 A指定海難関係人は、海技免状を受有しておらず、これまでに2回ほど有資格者と同乗して水上オートバイを操縦した経験があったものの、単独の操縦経験はほとんどなく、運転技術も未熟であったが、仕事仲間であるB指定海難関係人から、平成13年8月の夏期休暇に催される同人主催の水上オートバイでの遊走や魚釣り等の遊びを楽しむ会(以下「レジャー」という。)に誘われ、初めて参加した。
(3) B指定海難関係人
 B指定海難関係人は、四級小型船舶操縦士の海技免状を受有し、水上オートバイの操縦経験も豊富であった。また、同人は、毎年、夏期休暇に、仕事仲間や水上オートバイの愛好者に呼びかけ、家族と共に神奈川県逗子市葉山町の葉山マリーナ南側の砂浜に集まり、レジャーを催していたが、平素からレジャーに参加する仲間に対し、水上オートバイに乗るのであれば海技免状を取得し、無資格であれば有資格者とともに乗船するよう指導していた。B指定海難関係人は、A指定海難関係人が無資格であることを知っていたが、仕事仲間であることからレジャーに初めて誘ったものであった。平成13年8月13日のレジャーには、A指定海難関係人、B指定海難関係人、同人の娘であるIを含め、16人が参加し、そのうち子供を含む9人が無資格者で、7人が有資格者であった。
(4) I
 Iは、平成5年ごろから、B指定海難関係人の指導のもと、水上オートバイの操縦を覚え、同11年に海技免状を取得してからは同人の所有するク号等に乗船して技術を磨き、高速走行中の急旋回等の上級技術を身につけるとともに、乗船中の周囲の見張り等についてもB指定海難関係人から厳しい指導を受けていた。また、Iは、レジャーの常連であり、同日のレジャーにも朝から参加していたが、A指定海難関係人については、以前、顔を合わせたことはあるものの、同人がレジャーに初参加であったため、無資格者であることも、水上オートバイの操縦が未熟なことも知らなかった。
(5) 集合場所
 集合場所の砂浜は、南北に延びる葉山町森戸海岸北部の、葉山港A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から145度(真方位、以下同じ。)960メートルばかりの地点に当たり、南西方向に延びた消波ブロック製の北側防波堤と、北西方向に延びたコンクリート製の南側防波堤とで囲まれた泊地(以下「泊地」という。)に面しており、両防波堤突端間が、幅約50メートルの出入口となっていた。レジャー当日、砂浜には、休憩場所となるテントが設営され、ク号、仲間が所有するラ号ほか1隻の水上オートバイが係留されていたが、有資格者の人数に対し、水上オートバイの数が少なかったことから、有資格者が自由に乗れるよう各船とも鍵を付けたままとなっていた。
(6) 本件発生に至る経緯
 ラ号は、遊走の目的で、Iが船長として1人で乗り組み、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日12時24分少し過ぎ泊地中央部を発し、防波堤出入口に向かった。
 これより先、12時14分ごろI船長は、レジャーに初めて参加したA指定海難関係人から一緒に航走しようとの誘いがあったことから、同人が無資格者で操縦が未熟であることを知らないまま砂浜に係留してあったラ号に乗船し、A指定海難関係人の乗ったク号とともに航走を開始して防波堤出入口に向かい、そこから自分が左側、A指定海難関係人が右側となって北西方に向けてしばらく並走し、まもなく両人が顔を合わせたのを合図に自分が左旋回、A指定海難関係人が右旋回をして方向転換し、泊地中央部に戻ったところ、同人からもう一度行こうとの誘いがあったため、再び発進したものであった。
 再発進時、砂浜のテントで休んでいたB指定海難関係人は、I船長と、無資格者のA指定海難関係人が、各自水上オートバイに乗って泊地から出ていくのを認めたが、声を掛けるには距離が遠すぎたため、A指定海難関係人に有資格者と乗り組むよう注意することが出来なかった。
 I船長は、先に防波堤出入口から北西方に向かったA指定海難関係人の後を追い、12時24分52秒A防波堤灯台から154度695メートルの地点に達し、ク号の左舷正横10メートルに並んだとき、同人と顔を合わせるとともに、針路を325度に定め、25.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)でク号と並走して進行し、同時24分55秒速力を35.5ノットに増速した。
 12時24分58秒I船長は、A防波堤灯台から155度600メートルの地点に至ったとき、右舷船尾34度18メートルとなったク号を見ながら、同船の邪魔にならないよう右舷側に急旋回して停止することとし、いったんスロットルレバーを放して減速したのち、同レバーを小刻みに作動させて小回りで右旋回したところ、同時24分59秒無難に航過する態勢にあったク号が突然自船の方向に向け左旋回を開始したが、どうすることも出来ず、12時25分A防波堤灯台から155度590メートルの地点において、ラ号は068度を向首してほぼ停止状態となったとき、その船首にク号の船首が前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、ク号は、遊走の目的で、A指定海難関係人が有資格者を乗せないまま1人で乗り組み、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日12時24分少し過ぎ泊地中央部を発し、防波堤出入口に向かった。
 ところで、A指定海難関係人は、午前中、レジャーの仲間とともにウェークボードや魚釣りをして遊んでいたが、砂浜に係留してあるク号を見るにつけ同船に乗ってみたい欲求に駆られ、平素からB指定海難関係人に有資格者と乗るよう注意されていたことも忘れて同人の許可を得ないまま、単独でク号に乗り、前示のようにI船長を誘って航走し、泊地中央部に戻ってきたが、少々物足りなかったこともあり、再度I船長を誘って発進したものであった。
 12時24分36秒A指定海難関係人は、A防波堤灯台から151度900メートルの防波堤出入口中央部に達したとき、針路を325度に定め、スロットルレバーを半開として25.6ノットの速力で進行し、同時24分52秒追いついたラ号を左舷正横10メートルに認めてI船長と顔を合わせ、3秒間ほどラ号と同速力で並走したが、その後、操縦の未熟さから周囲を見る余裕がなくなって正船首方直前の海面に目を移し、ラ号に対する動静監視を行わないまま続航した。
 このときA指定海難関係人は、先にI船長と航走したとき、互いに顔を合わせたのを合図に同人が左旋回、自分が右旋回して泊地に戻ったことを思い起こし、すでにラ号が前回と同様、左に旋回して方向転換を始めたものと臆断し、自分が正船首方海面に目を移した直後同船が同針路のまま増速して先行したことも、その3秒後の12時24分58秒左舷船首34度18メートルとなったラ号が急速に減速し、まもなく小回りで右旋回を開始したことにも気付かずに進行した。
 12時24分59秒A指定海難関係人は、A防波堤灯台から154度600メートルの地点に至ったとき、左舷船首41度13メートルのところに極低速力で小回りに右旋回しているラ号を認めることができ、同船を左舷側に8メートル離して無難に航過する態勢にあることが分かる状況であったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、自分もラ号の後を追って左旋回で方向転換をしようと速力を減じないまま操縦ハンドルを左にとり、左方への旋回を開始した直後、ク号は、258度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ラ号は右舷船首端の防舷帯から操縦ハンドルにかけての外板に多数の凹損、亀裂、擦過傷等を、ク号は船首端中央部防舷帯に亀裂を生じ、ラ号は廃船とされた。また、I船長(昭和54年2月21日生)は、衝突地点付近で漂泊していたプレジャーボート石城に救助され、病院に搬送されたが、脳幹部損傷により死亡し、A指定海難関係人は、5日間の加療を要する顔面挫創、頭部挫傷を負った。
(原因)
 本件衝突は、神奈川県逗子市葉山町沖合において、ラ号とク号の両船が前後して並走した際、後続するク号が、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、動静監視不十分で、先行したラ号が減速後、急旋回してほぼ停止状態となったとき、同船の方向に針路を転じたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、神奈川県逗子市葉山町沖合において、有資格者を乗せず、無資格のまま単独でク号の操縦に当たったばかりか、ラ号と前後して並走した際、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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