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平成14年横審第63号
件名

漁船第三十一山仙丸漁船第一山仙丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、原 清澄、甲斐賢一郎)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:第三十一山仙丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第一山仙丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
31号・・・右舷船首外板及び球状船首に凹損
1号・・・左舷後部に破口、浸水し、転覆沈没

原因
31号・・・船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、第三十一山仙丸が、操舵装置の操舵方式切り替えの確認が不十分で、第一山仙丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月15日10時02分
 犬吠埼東北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一山仙丸 漁船第一山仙丸
総トン数 266トン 80トン
全長 53.30メートル  
登録長   29.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 860キロワット  
漁船法馬力数   500

3 事実の経過
 第三十一山仙丸(以下「31号」という。)は、大中型まき網漁業の運搬船として船団操業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか10人が乗り組み、かたくちいわし漁の目的で、網船の第一山仙丸(以下「1号」という。)、レッコボート及び探索船の第十八山仙丸(総トン数91トン、登録長34.95メートル)(以下「18号」という。)とともに船団(以下「山仙丸船団」という。)を構成し、船首3.0メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成13年5月15日00時50分千葉県銚子港を発し、同県犬吠埼東方沖合約6海里の漁場に向かった。
 山仙丸船団は、漁場に至って他のまき網船団とともに魚群探索後、05時00分犬吠埼灯台から085度(真方位、以下同じ。)5.7海里の地点で第1回目の操業を始め、07時25分1号と31号の各船首尾を反方位にもやって漂泊し、両船間に挟まれた漁網の魚捕部に巻き寄せられたカタクチイワシ約100トンを31号に積み込み、その後微弱な北東流に乗じて漁場を北東方へ移動し、同時50分同灯台から066度8.8海里の地点で第2回目の操業を始め、09時50分船首を067度に向けた1号と反方位にもやった31号との間に挟まれた魚捕部から漁獲した同魚種約40トンを31号に積み込んだのち、次回の投網に支障がないよう網整理作業を始めた。
 ところで、網整理作業は、1号と31号とを反方位にもやった状態で、1号を18号に2.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で左舷横方向に引かせるとともに、31号の右舷側に魚捕部の浮子方を結びつけたまま、同船をレッコボートに18号と反方位に引かせ、1号が右舷舷側に取り込んだ同部の沈子方を長さ90メートルまでサイドローラーを使用して海中に繰り出したのち、31号が浮子方を放し、1号が18号と同じ船首方位に回頭して同船に同速力で曳航されながら、同部を1号の船尾網置き場に整理しながら巻き揚げるものであった。
 A受審人は、1号が左方に回頭して魚捕部の巻き揚げを始める直前に、自船に結びつけた同部の浮子方並びに1号及びレッコボートの各もやい綱を離す作業を行い、09時59分半船首を247度に向けて漂泊したまま、水揚げ港の銚子港に向かうため昇橋したとき、1号を右舷船首69度110メートルのところに認めた。
 10時00分A受審人は、犬吠埼灯台から064度10.0海里の地点で、右舷船首74度140メートルのところに、18号に曳航されながら針路337度、速力2.0ノットで徐々に離れていく1号を認めたとき、操舵室中央に装備した操舵スタンドの操舵方式切替スイッチを手動操舵のまま右舵10度にとり、ジャイロコンパスの指針を予定針路の270度に合わせたのち、同室右舷側に装備した主機遠隔操縦装置のところに移動し、クラッチを前進に入れて発進した。
 発進したときにA受審人は、出漁中の約20ケ統のまき網船団間で毎正時に行っている無線による船間連絡が丁度始まり、操舵室に装備したスピーカーからこの連絡開始の声を聞き、いつもの習慣になっていた同連絡を聴取して他船団の操業位置、水温、潮流、魚群の状況及び漁獲量などの情報を記録するため、針路、速力を早く整定して記録に取り掛かろうと、急いで機関回転数を上げ始めた。
 10時01分少し前A受審人は、発進地点から242度方向に55メートル進行した地点で、1号が右舷船首72度185メートルに離れ、機関回転数を全速力前進の毎分620まで上げ終え、徐々に増速して速力が4.0ノットになり、船首が予定針路に向いたので、操舵方式切替スイッチを手動から自動に切り替えようとしたとき、船首方約1海里のところに操業中の他の船団を認め、同船団を替わしてから西行することとし、手動操舵のまま、ジャイロコンパスの針路設定ノブを右方に10度ないし20度回したところ、船首が右方に回っていたことから、同ノブを回す操作を行ったことで自動操舵に切り替えたものと思い、船間連絡を聴取することに気を奪われていたこともあり、操舵装置の操舵方式切り替えの確認を十分に行うことなく、手動操舵のまま右舵10度にとられていることに気づかず、操舵スタンドの後ろに固定したいすに腰掛けて同連絡の情報を記録し始め、増速回頭しながら続航した。
 10時01分少し過ぎA受審人は、発進地点から269度140メートルの地点に達し、船首が1号と同じ337度に向いて8.0ノットの速力になったとき、同船を右舷船首31度185メートルに認めることができ、このまま増速回頭を続けると同船の前路に進出することになる状況であったが、依然、船間連絡の聴取に気を奪われていてこのことに気づかず、右舵10度がとられた手動操舵のまま、増速しながら進行した。
 10時02分少し前A受審人は、発進地点から310度230メートルの地点に至り、船首が030度に向いて12.0ノットの速力になったとき、山仙丸船団用の無線装置で1号のB受審人が危ないと叫んでいる声を聞き、顔を上げて前方を見たところ、前路至近に1号を認め、慌てて左舵一杯、機関を全速力後進にかけたが間に合わず、10時02分犬吠埼灯台から063度10.0海里の地点において、31号は、船首が047度に向き、10.0ノットの速力になったとき、その船首が、1号の左舷後部に後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南南東の風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には微弱な北東流があった。
 また、1号は、大中型まき網漁業の網船として船団操業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか24人が乗り組み、かたくちいわし漁の目的で、船首1.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同日00時40分銚子港を発し、犬吠埼東方沖合約6海里の漁場に山仙丸船団を構成して向かい、出漁する他のまき網船団との取り決めによる操業打ち切り時刻の午前10時までに2回の操業を行い、09時50分から網整理作業を始めた。
 09時59分半B受審人は、魚捕部が予定量の90メートル引き出されたとき、18号から伸出した長さ約300メートルの引き索に接続した長さ約20メートルの船首側ブライドルを巻き込み、針路を337度に定めて2.0ノットの速力で18号に曳航されながら、同部の巻き揚げを始めた。
 10時01分少し過ぎB受審人は、前示衝突地点から157度35メートルの地点で、操舵室から船尾方を向いて魚捕部の巻き揚げを監視しているとき、左舷船尾31度185メートルのところに、針路が自船と平行になった右転中の31号を認め、同船が左舷方約1海里のところで操業中の他船団を避けるため、18号の前方に出てから左転して銚子港に向かうものと思って見ていたところ、31号がその後も引き続き右転しており、このまま回頭を続けると、船尾に魚捕部を繰り出し、18号に曳航されていて身動きがとれない状態の自船の前路に進出することになると感じ、急いで山仙丸船団用の無線装置で危ないと叫び続けたがどうすることもできず、1号は、船首を337度に向けて2.0ノットの速力で18号に曳航されていたとき、魚捕部を約30メートル海中に残したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、31号は右舷船首外板及び球状船首に凹損をそれぞれ生じ、のち修理されたが、1号は船尾甲板に装備の網さばきローラーなど漁撈機械の破損、左舷後部外板に凹損及び同部水線下に破口を生じ、同破口部からの浸水により浮力を喪失し、10時30分衝突地点付近で、左舷側に転覆して沈没した。
 衝突後A受審人は、後進が効いて1号から離れたのち、左舷側に傾斜を始めた同船の右舷側に回って31号の左舷側を接舷し、1号の乗組員全員を31号に移乗させ、しばらく1号を保持していたが、更に傾斜が続いて保持しきれなくなり、1号から離舷して間もなく同船は前示のとおり沈没した。

(原因)
 本件衝突は、犬吠埼東北東方沖合において、まき網漁による漁獲物を積み込み後、銚子港に向けて発進した第三十一山仙丸が、操舵装置の操舵方式切り替えの確認が不十分で、無難に離れる態勢で探索船に曳航されて網整理作業中の第一山仙丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、犬吠埼東北東方沖合において、まき網漁による漁獲物を積み込み後、銚子港に向けて発進し、船首が予定針路に向いて手動操舵から自動操舵に切り替える場合、近くに探索船に曳航されて網整理作業中の第一山仙丸がいたのであるから、予定針路を自動操舵により保持して同船の前路に進出しないよう、操舵装置の操舵方式切り替えの確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、予定針路に向いて操舵装置の操舵方式切替スイッチを手動から自動に切り替えようとしたとき、船首方に操業中の他の船団を認め、同船団を替わしてから西行することとし、手動操舵のまま、ジャイロコンパスの針路設定ノブを右方に10度ないし20度回したところ、船首が右方に回っていたことから、同ノブを回す操作を行ったことで自動操舵に切り替えたものと思い、船間連絡を聴取することに気を奪われていたこともあり、操舵装置の操舵方式切り替えの確認を十分に行なわかった職務上の過失により、自動操舵に切り替えたつもりで、手動操舵のまま右舵10度にとられていることに気づかず、増速回頭しながら進行して第一山仙丸との衝突を招き、第三十一山仙丸の右舷船首外板及び球状船首に凹損をそれぞれ生じさせ、第一山仙丸の船尾甲板に装備の漁撈機械に破損、左舷後部外板に凹損及び同部水線下に破口をそれぞれ生じさせ、同破口部からの浸水により浮力を喪失させて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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