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平成14年横審第55号
件名

瀬渡船新成丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:新成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員

損害
新成丸・・・船首部外板に擦過傷
岡本号・・・転覆、のち沈没、プレジャーボート乗組員が胸椎骨折及び胸髄損傷等

原因
新成丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
岡本号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、新成丸が、見張り不十分で、前路で錨泊するプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月29日08時55分
 静岡県田子漁港

2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船新成丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 3.71トン  
全長 12.3メートル 3.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 114キロワット  

3 事実の経過
 新成丸は、船体中央後部に操舵スタンドを有するFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、瀬渡しした釣り客の安全の確認をする目的で、船首0.15メートル船尾1.29メートルの喫水をもって、平成13年4月29日08時40分静岡県田子漁港内の係留地を発し、同日早朝釣り客を瀬渡しした同漁港沖合の釣り場に向かった。
 ところで、同日、田子漁港内のメガネ岩西方には、4隻の内航船が錨泊し、10数隻の釣り船が釣りをしていたので、同漁港内を航行する際は、周囲の見張りを十分に行う必要があった。
 A受審人は、発航後、田子島西方の男島に瀬渡しした釣り客の安全の確認をしたあと、メガネ岩に瀬渡しした釣り客の安全の確認をするため、同岩に向かうこととし、08時52分少し過ぎ田子港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から309度(真方位、以下同じ)1,050メートルの地点で、針路を100度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 08時54分わずか過ぎA受審人は、東防波堤灯台から323度760メートルの地点に達し、速力を6.0ノットに減じたとき、正船首方160メートルのところに、プレジャーボート(船名なし)(以下「岡本号」という。)が釣りのため錨泊しているのを視認できる状況となったが、右舷船首方に錨泊していた4隻の内航船の間から高速のダイビングボートなどが出てくるかもしれないと思い、右舷方に注意を集中し、正船首方の見張りを十分に行っていなかったので、岡本号に気付かず、同船を避けないまま続航中、08時55分東防波堤灯台から333度650メートルの地点において、新成丸は、原針路、原速力のまま、その船首が岡本号の右舷中央部に90度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃を感じて、機関を中立にするとともに、船尾方に浮いていたB指定海難関係人を見つけ、事後の措置に当たった。
 また、岡本号は、FRP製手漕ぎボートで、B指定海難関係人が斉藤ボートと称する貸しボート店から借りて、1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.30メートルの喫水で、同日05時50分田子漁港の海岸を発し、同漁港内の釣り場に向かった。
 B指定海難関係人は、2箇所の釣り場で釣りを行ったが、釣果がなかったので釣り場を移動し、08時35分前示衝突地点付近で船首を南方に向けて投錨し、アンカーロープを45メートル伸出して釣りを開始した。
 錨泊後、B指定海難関係人は、2本のオールを右舷側船内にまとめて置き、投入した4つ目錨のアンカーロープを前部スウォートに一重に堅結びで固縛していたが、衝突のおそれが生じた場合、十分な見張りを行っていれば、短時間でアンカーロープを解き放ってオールを使用することは可能であった。
 こうして、B指定海難関係人は、救命胴衣とその上に合羽を着用し、左舷方を向いて船体中央スウォートにまたがって腰掛け、左舷側に長さ2.1メートルの竿を出し、釣り糸を33メートル伸出し、船首を190度に向けて釣りを続けた。
 08時54分わずか過ぎB指定海難関係人は、ほぼ右舷正横160メートルのところに、自船に向けて接近する新成丸を視認できる状況となったが、航行船は錨泊している自船を避けていくものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、新成丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊中、同時55分わずか前、新成丸のエンジン音に気付いて右舷方を見たとき、自船に向首接近する同船を初めて認め、衝突の危険を感じ、大声で叫んだが効なく、岡本号は、船首が190度に向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新成丸は船首部外板に擦過傷を生じ、岡本号は転覆したのち、沈没した。また、B指定海難関係人は、衝突の衝撃で海に投げ出され、胸椎骨折及び胸髄損傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県田子漁港において、瀬渡しした釣り客の安全の確認をするため航行中の新成丸が、見張りが不十分で、前路で錨泊して魚釣り中の岡本号を避けなかったことによって発生したが、岡本号が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人が、静岡県田子漁港において、瀬渡しした釣り客の安全の確認をするため航行する場合、前路で錨泊して魚釣り中の岡本号を見落とすことのないよう、正船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷船首方に錨泊していた4隻の内航船の間から高速のダイビングボートなどが出てくるかもしれないと思い、右舷方に注意を集中し、正船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、岡本号に向首進行して衝突を招き、新成丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、岡本号を転覆させたのち、沈没させ、B指定海難関係人に胸椎骨折及び胸髄損傷等を負わせるに至った。
 B指定海難関係人が、静岡県田子漁港において、錨泊して釣りを行う際、周囲の見張りを十分行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


参考図
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