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平成14年仙審第20号
件名

漁船第八太成丸岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、亀井龍雄、上中拓治)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第八太成丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
太成丸・・・球状船首に凹損
岸 壁・・・損傷ない

原因
補機等(可変ビッチプロペラ遠隔操縦装置)の整備・点検不十分

主文

 本件岸壁衝突は、可変ピッチプロペラ遠隔操縦装置の修理が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月24日07時00分
 宮城県女川港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八太成丸
総トン数 161トン
全長 32.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 900

3 事実の経過
 第八太成丸(以下「太成丸」という。)は、中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか17人が乗り組み、さんま棒受け網漁の目的で、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成12年9月20日08時15分宮城県女川港を発し、北海道釧路港沖合漁場において操業を続け、さんま70トンを漁獲し、越えて22日23時30分帰途についた。
 太成丸は、操舵室の上に副操舵室、更にその上にさんま漁指揮所がそれぞれ設けられ、推進軸系にはクラッチ、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)などを装備していた。
 機関の遠隔操縦盤は、操舵室及び副操舵室に設けられ、主機のガバナレバー、クラッチ嵌(かん)脱用の押しボタンスイッチ、翼角操作用のCPP変節ダイヤルなどが組み込まれていた。
 A受審人は、平成12年8月1日太成丸に機関長として乗り組み、出入港時及び操業時には、さんま漁指揮所で操船指揮に就いていた船長の指示を受け、副操舵室で機関の遠隔操作に当たっていた。
 また、A受審人は、クラッチを嵌としたまま翼角を0度として、惰力で進行すると船尾が右に振れるので、これを防止するため、惰力で進行するときにはプロペラ軸に動力が伝わらないようクラッチを脱としていた。
 ところで、A受審人は、同年9月15日ごろ釧路港沖合において操業中、CPP変節ダイヤルにより後進操作をしたとき、時折翼角が後進に追従しないことを認めたが、その都度同ダイヤルを前後進に繰り返し操作すると追従可能となったことから、修理を次回の長期停泊の機会まで延ばしても大丈夫と思い、その後何回か入港する機会があったのに、専門業者に依頼して速やかにCPP遠隔操縦装置を修理しなかったので、後進用電磁弁のリレーの作動が不安定な状態となっていることに気付かなかった。
 9月24日06時51分少し過ぎ太成丸は、さんま漁指揮所に船長、副操舵室にA受審人、船首に錨と係船索の担当者を配置して、女川港の北防波堤と南防波堤の間の中央部を航過したとき、針路を315度(真方位、以下同じ。)に定め、翼角を18度として全速力前進の11.0ノット(対地速力、以下同じ。)で進行し、同時52分少し過ぎCPP後進テストを行ったのち、翼角を6度として微速力前進の5.0ノットに減速して航行した。
 06時55分半太成丸は、女川港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から310度840メートルの地点に達したとき、270度に転じて進行し、同時57分北防波堤灯台から302度1,030メートルの地点で翼角を0度、クラッチを脱として左転を始め、前進惰力で魚市場岸壁に向かった。
 06時59分A受審人は、北防波堤灯台から298度1,080メートルの地点で、船首が魚市場岸壁に直角に向首する189度を向き、船首から同岸壁までの距離が50メートルとなったとき、船長の後進発令を受けてクラッチを嵌とし、翼角を後進10度にとったが追従しないのを認め、CPP変節ダイヤルを前後進に繰り返し操作したものの、依然として翼角は後進に追従しなかった。
 太成丸は、翼角が追従不能状態となって行きあしを減殺できず、錨を投下する余裕もないまま同岸壁に接近し、07時00分北防波堤灯台から295度1,070メートルの地点において、1.0ノットの行きあしをもって、船首部が同岸壁に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 衝突の結果、球状船首に凹損を生じたが岸壁に損傷がなく、のち球状船首が修理された。

(原因)
 本件岸壁衝突は、CPPの翼角が時折後進に追従しないことがあった際、CPP遠隔操縦装置の修理が不十分で、宮城県女川港において着岸操船中、同装置の後進用電磁弁のリレーが作動せず、CPPの翼角が追従不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、CPPの翼角が時折後進に追従しないことがあるのを認めた場合、操船が安全に行えるよう、専門業者に依頼して速やかにCPP遠隔操縦装置を修理すべき注意義務があった。ところが、同人は、CPP変節ダイヤルを前後進に繰り返し操作すると追従可能となったことから、修理を次回の長期停泊の機会まで延ばしても大丈夫と思い、速やかに同装置を修理しなかった職務上の過失により、後進用電磁弁のリレーが作動不安定となっていることに気付かないまま機関の遠隔操作に当たり、着岸操船中にCPPの翼角が追従不能となって岸壁衝突を招き、球状船首に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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