(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月2日14時00分
新潟港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船栄伸丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
74.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
栄伸丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま海水バラスト800トンを張り、係留岸壁変更のため、船首1.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成13年2月2日13時45分新潟港西区北ふ頭を発し、同港内の南ふ頭に向かった。
ところで、栄伸丸は、前日08時45分北ふ頭に着岸し、その後荷役を開始して、同日午前中で荷役を終えたものの、冬型の気圧配置となって風雪、波浪などの注意報が発表されていたので、荒天待機していたところ、着岸予定の入港船があって、南ふ頭に係留岸壁を変更するよう代理店から指示を受けていた。また、A受審人は、新潟港西区への入港経験は7回ばかりあって港内の様子は承知しており、南ふ頭への着岸経験も2回あって同ふ頭周辺の底質は錨かきがよくないことも承知していた。
A受審人は、一等航海士及び甲板員を船首の、機関長及び一等機関士を船尾の各部署につけ、自ら操舵操船に当たり、離岸後一旦港内を北上して反転したのち南下し、13時56分に新潟信号所から179度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、針路を170度に定め、機関を極微速力前進にかけ、3.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、時折毎秒15メートル以上の突風を伴う北西からの強風が吹雪く状況下、13時58分新潟信号所から178度1,580メートルの地点に達したとき、出航時の操船を考え、左舷錨を投じて出船右舷付けにすることとし、針路を140度に転じ、錨鎖を6節まで伸出する予定で左舷錨投下を令し、機関を停止して着岸態勢に入ったが、機関を停止すれば速力が低下すると思い、船尾方からの強風による風圧に対して十分に配慮することなく、機関を適宜使用するなど岸壁への接近速力を制御しないまま、錨鎖を弛ませた状態で伸出しつつ、左舵一杯に取って左回頭をしながら惰力で続航した。
13時59分少し前A受審人は、岸壁の50メートル手前の新潟信号所から174.5度1,700メートルの地点で、船首配置の一等航海士から行きあしが強過ぎる旨の報告を受け、初めて速力が低下していないことに気付き、錨鎖の伸出を止めさせたものの岸壁への接近が続き、14時少し前岸壁の手前20メートルのところで機関を全速力後進にかけたが及ばず、14時00分新潟信号所から173.5度1,750メートルの地点において、074度に向いた船首が3.0ノットの対地速力で、南ふ頭の岸壁と後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は雪で風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
岸壁衝突の結果、岸壁に損傷はなく、栄伸丸は球状船首部に圧壊を生じ、のち修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は、新潟港において、冬季の突風を伴う北西の強風下、南ふ頭に出船右舷付けする際、風圧流に対する配慮が不十分で、同ふ頭岸壁への接近速力を制御しないまま強風に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新潟港において、冬季の突風を伴う北西の強風を船尾方から受けて圧流される状況で、南ふ頭に出船右舷付けする場合、岸壁への接近速力を制御するため機関を適宜使用するなど、風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、機関を停止すれば速力が低下すると思い、風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、風圧流で岸壁への接近速力が低下しないまま進行して岸壁との衝突を招き、球状船首部に圧壊を生じさせるに至った。