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平成13年門審第42号
件名

貨物船たかとり貨物船菱秀丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、西村敏和、島 友二郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:たかとり船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:たかとり次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:菱秀丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
たかとり・・・右舷後部外板及びブルワークに破口を伴う凹損
菱秀丸・・・左舷船首部外板及びブルワークに破口を伴う凹損

原因
たかとり・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
菱秀丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、たかとりが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、菱秀丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月23日03時00分
 瀬戸内海祝島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船たかとり 貨物船菱秀丸
総トン数 499トン 199トン
全長 76.68メートル 54.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 625キロワット

3 事実の経過
 たかとりは、主として神戸港と松山港、高松港、関門港及び博多港各港間のコンテナ輸送に従事する、船尾船橋型のコンテナ船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、コンテナ30個を積載し、船首2.30メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成12年8月22日11時50分神戸港を発し、関門港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、神戸港出航時から15時まで、22時から03時まで及び05時から関門港入港時までを自らが、15時から17時まで及び03時から05時までをB受審人が、17時から22時までを一等航海士がそれぞれ単独で行う輪番制とし、平素は各当直航海士に対し、視界制限状態になったとき、船舶交通が輻輳したとき及び不安を感じたときなどには直ちに報告するように指示していたが、同年8月17日に乗船したB受審人が、同じ会社のコンテナ船で船長経験を有していたことから、船舶交通が輻輳したり、視界が制限されたりすれば報告があるものと思い、同人に対しては視界制限状態になったときの報告についての指示をしていなかった。
 こうして、翌23日02時30分祝島南東方沖合で昇橋したB受審人は、A受審人と当直を交代し、同時46分半祝島南西方灯浮標に並航する、小祝島島頂(以下「小祝島」という。)から171度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、針路を282度に定め、機関を全速力前進に掛けて12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、法定の灯火の表示を確認し、自動操舵によって進行した。
 定針したころB受審人は、急に霧がかかり、視程が50メートルばかりとなったことから、6海里レンジとしたレーダーで周囲を確認したところ、前路の3海里から5海里付近に8隻ほどの漁船群を認め、同漁船群を避けるため、02時47分針路を272度に転じたが、A受審人に報告することも、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、全速力のまま進行した。
 自室で休息していたA受審人は、視界制限状態となった旨の報告を受けられず、自ら操船指揮をとることができなかった。
 02時54分半B受審人は、小祝島から212度2.4海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首9度2.0海里に菱秀丸の映像を初めて探知し、同時57分同映像が右舷船首11度1.0海里となったが、同映像の変化を目視しただけで、同船と右舷を対して無難に航過できるものと思い、その後、レーダープロッティングその他の系統的な観察など、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、著しく接近することを避けることができない状況になったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、他船に対して自船の存在を知らせる目的で船橋両ウイングに備えられた作業灯を点灯して続航した。
 03時00分少し前B受審人は、右舷後方至近に菱秀丸の紅灯を視認し、衝突の危険を感じて左舵10度をとったが及ばず、03時00分小祝島から230度3.1海里の地点において、たかとりは、262度に向首したとき、原速力のまま、その右舷後部に、菱秀丸の左舷船首部が後方から42度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約400メートルであった。
 また、菱秀丸は、内地各港間の貨物の輸送に従事する、鋼製貨物船で、C受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.00メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、同月22日18時10分博多港を発し、呉港に向かった。
 C受審人は、船橋当直を03時から07時までと15時から19時までを自らが、07時から11時までと19時から23時までを一等航海士が、11時から15時までと23時から03時までを機関長がそれぞれ担当する単独3直制とし、翌23日02時30分姫島灯台から053度4.9海里の地点で、機関長から当直を引き継ぎ、針路を102度に定め、機関を全速力前進に掛けて11.6ノットの速力とし、法定の灯火を表示して、自動操舵によって進行した。
 02時40分C受審人は、姫島灯台から066度6.3海里の地点に達したとき、霧で視界が制限され、視程が900メートルばかりになったが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減ずることもなく、全速力のまま続航した。
 02時52分C受審人は、小祝島から247度4.0海里の地点に差し掛かったとき、3海里レンジとして、オフセンターにより中心を後方に移動したレーダーで、左舷船首2度3.0海里のところに、たかとりの映像を初めて探知し、同時54分半小祝島から242度3.6海里の地点に達したとき、同映像が左舷船首1度2.0海里となり、その後、その方位が右方に変化しながら著しく接近することを避けることができない状況になったが、同映像の変化を目視しただけで、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったのでこのことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、針路を107度に転じて続航した。
 02時57分C受審人は、小祝島から237度3.3海里の地点に至ったとき、たかとりの映像が左舷船首4度1.0海里となったが、相手船も自船に気付いて右舵をとり、左舷を対して航過できるものと思い、手動操舵に切り替え右舵20度とし、右方への回頭惰力がついたところで舵中央に戻し、右回頭を続けながら進行した。
 02時59分C受審人は、小祝島から231度3.1海里の地点に達したとき、左舷前方にたかとりの作業灯の明かりを視認し、衝突の危険を感じ、機関を全速力後進に掛け、右舵一杯をとったが及ばず、菱秀丸は、220度を向いたとき、わずかな前進行きあしで、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、たかとりは右舷後部外板及びブルワークに破口を伴う凹損を、菱秀丸は左舷船首部外板及びブルワークに破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧で視界制限状態となった瀬戸内海祝島西方沖合において、西行するたかとりが、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、前方に探知した菱秀丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行する菱秀丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、前方に探知したたかとりと著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 たかとりの運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界制限状態になったときの報告について指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が、視界制限状態となったことを船長に報告しなかったばかりか、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船橋当直を自らと航海士の輪番制として運航に従事する場合、各当直者に対し、視界制限状態となったときの報告について指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B受審人が、同じ会社のコンテナ船で船長経験を有していたので、船舶交通が輻輳したり、視界が制限されたりすれば報告があるものと思い、同人に対しては視界制限状態になったときの報告についての指示をしていなかった職務上の過失により、視界制限状態になったときに報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま進行して菱秀丸との衝突を招き、自船の右舷後部外板及びブルワークに破口を伴う凹損を、菱秀丸の左舷船首部外板及びブルワークに破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B受審人は、霧で視界制限状態となった祝島西方沖合を西行中、レーダーで前方に菱秀丸の映像を探知した場合、その後著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、菱秀丸の映像の変化を目視しただけで、同船と右舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせた。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 C受審人は、霧で視界制限状態となった祝島西方沖合を東行中、レーダーで前方にたかとりの映像を探知した場合、その後著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダープロッティングその他の系統的な観察を行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、たかとりの映像の変化を目視しただけで、同船も自船に気付いて右舵をとり、左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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