(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月19日04時38分
福岡県博多漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海漁丸 |
漁船聖進丸 |
総トン数 |
7.3トン |
4.92トン |
登録長 |
13.00メートル |
11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
50 |
3 事実の経過
海漁丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成13年3月19日04時30分ごろ福岡県博多漁港の魚市場前の岸壁に右舷付け係留で漁獲物の水揚げを終え、船首0.20メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同時35分同岸壁の、荒津大橋橋梁灯(L1灯)(以下「橋梁灯(L1灯)」という。)から122度(真方位、以下同じ。)760メートルの地点を発し、同県玄界漁港に向けて帰途に就いた。
A受審人は、法定灯火を表示して離岸後左転し、04時36分半橋梁灯(L1灯)から122.5度720メートルの地点で、針路を296度に定め、機関を微速力前進に掛け、5.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首わずか右方500メートルのところに聖進丸の紅、緑2灯を初認し、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを知ったが、入港中の同船の方で避けてくれるものと思い、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じることなく、そのまま続航した。
04時37分半A受審人は、橋梁灯(L1灯)から125度540メートルの地点に達したとき、聖進丸を同方位170メートルに認めるようになったが、依然、相手船の避航を期待し、針路を右に転じないまま進行中、同時38分わずか前同船が間近に迫って危険を感じ、右舵15度をとり機関を停止したが及ばず、04時38分橋梁灯(L1灯)から127度450メートルの地点において、海漁丸は、原針路、原速力のまま、その船首が聖進丸の船首に前方から3度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、聖進丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、便乗者1人を乗せ、あさり貝など約40キログラムを水揚げする目的で、船首0.30メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日04時00分福岡市西区能古島の東町船だまりを発し、法定灯火を表示して博多漁港に向かった。
04時33分ごろB受審人は、博多港西防波堤南側の入口を航過したのち、博多漁港の入口にあたる荒津大橋下の水路の右側に向けて南下し、同時35分半少し前橋梁灯(L1灯)から260度95メートルの地点で、針路を同漁港魚市場前の岸壁に向く119度に定め、機関を半速力前進に掛け、8.0ノットの速力で進行した。
B受審人は、04時36分少し過ぎ機関を微速力前進に減じ、5.0ノットの速力で続航し、同時36分半橋梁灯(L1灯)から136度220メートルの地点に達したとき、正船首わずか左方500メートルのところに海漁丸の紅、緑2灯を初認し、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを知ったが、少し前に、海漁丸に先航して同市場前岸壁から発した漁船が自船の右舷側を替わったことから、海漁丸も自船の右舷側を替わすものと思い、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じることなく、そのまま進行した。
04時37分半B受審人は、橋梁灯(L1灯)から128度370メートルの地点に達したとき、海漁丸を同方位170メートルに認めるようになったが、依然、同船の避航を期待し、針路を右に転じないまま続航中、同時38分わずか前同船が間近に迫って危険を感じ、右舵をとって機関を後進に掛けたが及ばず、聖進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海漁丸及び聖進丸は、船首外板に亀裂をそれぞれ生じたが、のち両船とも修理された。
(航法の適用)
本件は、港則法が適用される博多港で発生したが、同法には本件に適用すべき航法がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することになる。
本件の発生海域は、魚市場側の中央突堤北端と那の津側のふ頭屈曲部との間隔が約160メートルで、予防法第9条に規定する狭い水道等にあたることも考えられる。しかしながら、博多漁港は、西端部にある福岡船だまりと、中央突堤で分断された魚市場前の2つの水域とで、3つの水域にわかれており、これらの水域を出入航する船舶の進路が、中央突堤の北西方で交差する水路状況となっており、1本の航路筋あるいはそれと同義の水道とは言えず、同9条に規定する狭い水道等にはあたらない。
本件の場合、両船が、衝突の1分半前、距離500メートルのところから、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近しており、予防法第14条に規定する行会いの態勢にあったと認められ、両船の船体長さ、操縦性能などからすれば、同条の見合関係が成立したときから衝突に至るまでに、動静監視及び針路を右に転ずるのに必要な時間的、距離的、また、水域的余裕は十分にあり、同法第14条の行会いの航法を適用するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、夜間、福岡県博多漁港において、西行する海漁丸と東行する聖進丸とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあった際、海漁丸が、聖進丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったことと、聖進丸が、海漁丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福岡県博多漁港を出港中、ほとんど真向かいに行き会う聖進丸の紅、緑2灯を視認し、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った場合、聖進丸の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港中の同船の方で避けてくれるものと思い、針路を右に転じなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、海漁丸及び聖進丸の船首外板に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、福岡県博多漁港において、ほとんど真向かいに行き会う海漁丸の紅、緑2灯を視認し、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った場合、海漁丸の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、海漁丸に先航する漁船が自船の右舷側を替わったことから、海漁丸も自船の右舷側を替わすものと思い、針路を右に転じなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。