(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月8日11時30分
山口県萩港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船祐勝丸 |
プレジャーボートくしやす丸 |
総トン数 |
3.02トン |
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全長 |
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6.05メートル |
登録長 |
9.85メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 電気点火機関 |
出力 |
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36キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
祐勝丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、さわら引き縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成12年12月8日05時00分山口県大井漁港を発し、06時00分同県鯖島北方の漁場に至り、操業を行ったのち、11時00分虎ケ埼灯台から245度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点を発進して帰途に就くと同時に、針路を同県萩港北方沖合の羽島と越ケ浜半島間のほぼ中間に向く062度に定め、機関を半速力前進にかけて6.8ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
ところで、祐勝丸は、航走を始めるとすぐに船首部が浮上し、操舵室中央に設置した舵輪後方に立って見張りに当たると正船首から左右各舷10度の範囲に死角を生じることから、A受審人は、平素船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを行っていた。
発進するときA受審人は、前路を見て他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、平素行っていた死角を補う見張りを行うことなく、舵輪後方に立った姿勢で操船に当たった。
A受審人は、11時28分虎ケ埼灯台から254度1,670メートルの地点に達したとき、正船首420メートルのところにくしやす丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後南南東方に向首したまま移動しない様子や船首方に張った錨索の状態などから、同船が錨泊中であることが分かり、同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないで続航中、11時30分虎ケ埼灯台から258度1,280メートルの地点において、祐勝丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、くしやす丸の右舷後部に前方から84度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、くしやす丸は、船体後部に操縦台を有し、船外機を取り付けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日09時30分萩港内の萩漁港中小畑浦地区を発し、羽島と越ケ浜半島間の釣り場に向かった。
09時40分B受審人は、前示衝突地点付近に至って船外機を停止し、船首から重さ6キログラムの錨を水深31メートルの海底に投じ、直径10ミリメートルの合成繊維製錨索を40メートル延出して船首部に止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、船首を風に立てて錨泊し、操縦台後方に置いたクーラーボックスに腰を掛けて左舷方を向いた姿勢で魚釣りを始めた。
B受審人は、11時28分船首が158度を向いていたとき、右舷船首84度420メートルのところに祐勝丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、魚釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、所持していた笛を吹くなど、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき船外機を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続け、同時30分少し前機関音を聞いて振り返り、右舷正横方を見たところ、至近に祐勝丸を認め、急いで船外機を始動したがクラッチを入れる間もなく、くしやす丸は、船首を158度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、祐勝丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、くしやす丸は、右舷後部外板に破口を生じて浸水し、祐勝丸によって萩港に引き付けられ、くしやす丸はのち修理された。また、B受審人は、衝突の衝撃で海中に転落し、付近を航行中のプレジャーボートに救助されたが、頸椎(けいつい)捻挫等を負った。
(原因)
本件衝突は、山口県萩港北方沖合において、東行中の祐勝丸が、見張り不十分で、錨泊中のくしやす丸を避けなかったことによって発生したが、くしやす丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県萩港北方沖合を同県大井漁港に向けて東行する場合、舵輪後方に立って見張りに当たると船首浮上により正船首方向に死角が生じる状況であったから、前路で錨泊中の他船を見落とすことがないよう、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、発進するとき前路を見て他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のくしやす丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、祐勝丸の船首部外板に擦過傷を、くしやす丸の右舷後部外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に頸椎捻挫等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
B受審人は、山口県萩港北方沖合において、錨泊して魚釣りを行う場合、自船に向けて接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、魚釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する祐勝丸に気付かず、笛を吹くなど、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき船外機を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。