(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月24日18時49分
千葉県洲埼北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船エバーリーチ |
総トン数 |
53,359.00トン |
長さ |
294.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
34,421キロワット |
船種船名 |
貨物船ユニバーサルスピリット |
総トン数 |
39,948トン |
長さ |
173.53メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
8,421キロワット |
3 事実の経過
エバー リーチ(以下「エ号」という。)は、船尾船橋型コンテナ船で、台湾籍の船長Hほか同籍の11人とパナマ共和国籍の3人が乗り組み、約35,308トンのコンテナ貨物を積載し、船首11.95メートル船尾12.10メートルの喫水をもって、平成12年3月23日19時54分名古屋港を発し、京浜港東京区に向かった。
翌24日08時48分H船長は、洲埼北西方沖合付近海域に至り、荒天で浦賀水道パイロット業務が停止されていたことから同海域で漂泊したが、18時00分天候が回復して同業務が再開されたので漂泊を終え、船橋で自ら操船指揮を執り、一等航海士及び見習い三等航海士に補佐させ、甲板手を操舵に当てて、同時11分洲埼灯台から261度(真方位、以下同じ。)8.6海里の地点から発し、針路を045度に定め、機関を微速力前進に掛け、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で浦賀水道パイロット乗船場所に向かって進行した。
18時20分半H船長は、洲埼灯台から267度7.6海里の地点に達したとき、ユニバーサル スピリット(以下「ユ号」という。)を船首方に初めて視認し、同時31分同灯台から276度6.6海里の地点に差しかかったとき、11.4ノットに増速し、右舷船首3度2.4海里のところを北北東方に航行するユ号の近距離を追い越す態勢で続航した。
18時45分H船長は、洲埼灯台から299度5.3海里の地点に達したとき、左舷船首6度1,000メートルのところのユ号が、その前路に船首を西方に向けて漂泊中の総トン数5,000トンばかりの貨物船(以下「第三船」という。)を避航するために右転し、ユ号と著しく接近して追い越す態勢となり、衝突のおそれのある状況になったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、その進路を避けることなく進行した。
18時48分半H船長は、左舷船首に迫ったユ号との衝突の危険を感じ、左舵一杯としたが舵効が得られず、急遽(きゅうきょ)右舵一杯、汽笛による短音3回を吹鳴して機関を全速力後進に掛けたが及ばず、18時49分洲埼灯台から308度5.1海里の地点において、エ号は、057度に向首したとき、原速力のまま、その船首がユ号の右舷中央後部に後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日没は17時56分であった。
また、ユ号は、専ら日本と欧州諸港間の自動車輸送に従事する船首船橋型自動車専用船で、A指定海難関係人ほか日本国籍の3人及びフィリピン共和国籍の18人が乗り組み、自動車177台約226トンを積載し、船首6.50メートル船尾7.31メートルの喫水をもって、同月23日13時35分名古屋港を発し、京浜港川崎区に向かった。
翌24日01時00分A指定海難関係人は、野島埼灯台南西方沖合で、昇橋し、浦賀水道パイロットの乗船予定時刻が05時00分であったので、速力を調整しながら航行していたところ、浦賀水道パイロット業務が停止されたことから、洲埼北西方沖合を低速で東西に航行しながら同業務再開を待ち、18時00分浦賀水道パイロット業務が再開されたので同パイロット乗船場所に向かうこととし、船橋で自ら操船指揮を執り、一等航海士をレーダーによる見張り、機関長を機関制御操作及び甲板手を操舵にそれぞれ当たらせ、同時25分洲埼灯台から291度5.3海里の地点で、針路を030度に定め、機関を極微速力前進に掛け、4.0ノットの速力で進行した。
定針したとき、A指定海難関係人は、一等航海士から自船の左舷船尾方に同航するエ号を認める旨の報告を受けたが、後方から接近する他船が自船を避けるものと思い、その後動静監視を十分に行うことなく、18時31分洲埼灯台から295度5.3海里の地点に達したとき、エ号が左舷船尾18度2.4海里のところに追い越す態勢で接近する状況となっていたが、このことを認めないまま続航した。
18時44分A指定海難関係人は、洲埼灯台から305度5.3海里の地点に差しかかったとき、正船首方約1.0海里のところに第三船を認め、同船の船尾方を十分に離して航行しようと、操船信号を行わないで、針路を058度に転じたところ、右舷船尾20度1,200メートルのところに接近しているエ号と衝突のおそれのある状況となったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このこと気付かず、警告信号を行わないで進行した。
18時47分A指定海難関係人は、一等航海士から右舷船尾至近にエ号を認めた旨の報告を受け、衝突の危険を感じ、汽笛による短音2回を吹鳴し、左舵一杯にしたが十分な舵効が得られず、機関を港内全速力前進に掛け、短音1回を吹鳴して右舵一杯としたが及ばず、ユ号は、右回頭中、船首が107度に向き、6.1ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、エ号は左舷船首ブルワークを損傷し、ユ号は右舷中央後部外板に破口を生じ、のちユ号は修理された。
(原因に対する考察)
本件衝突は、海上交通安全法適用外の千葉県洲埼北西方沖合において、エ号、ユ号両船が、浦賀水道パイロット業務一時停止後の再開時にパイロット乗船場所に向けてそれぞれ北上中、エ号がユ号の後方から追い越す態勢で接近する状況下、ユ号が前路で西方に向いて漂泊中の第三船を避ける際に衝突した事件で、ユ号が第三船を避航するため右転したことが、原因となるかを検討する。
全長173メートルのユ号が1海里前方の全長約100メートルの第三船を避航するため、同船の船尾を十分に離して航過することは、追越し船のエ号にも十分に予見可能であり、ユ号が第三船と船間距離約1,000メートルで航過しようとして右転したころは、衝突5分前で、エ号がユ号の避航動作に伴って同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまで同船の進路を避けることが、時間的及び距離的にも可能であるから、ユ号の右転は、衝突の原因とするまでもない。
(原因)
本件衝突は、日没後の薄明時、千葉県洲埼北西方沖合において、ユ号を追い越すエ号が、動静監視不十分で、ユ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ユ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、日没後の薄明時、千葉県洲埼北西方沖合において、浦賀水道パイロット乗船場所に向かって北上中、後方から追い越す態勢で接近するエ号の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。