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平成14年広審第46号
件名

貨物船第二日興丸漁船福寿丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、西林 眞、佐野映一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第二日興丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二日興丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:福寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
日興丸・・・船首部外板に擦過傷
福寿丸・・・船首部を圧壊

原因
福寿丸・・・見張り不十分、狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
日興丸・・・警告信号不履行、狭い水道の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、福寿丸が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二日興丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月22日21時55分
 音戸瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二日興丸 漁船福寿丸
総トン数 198トン 4.40トン
全長 45.80メートル  
登録長   11.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第二日興丸(以下「日興丸」という。)は、主に瀬戸内海において引火性液体物質及び液体化学薬品のばら積み輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、無水酢酸約300トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成13年12月22日10時40分兵庫県姫路港網干区を発し、音戸瀬戸を通航して広島県倉橋町に立ち寄る予定で、大分県大分港に向かった。
 ところで、音戸瀬戸は、広島県呉市南部と倉橋島北部との間にあり、呉市側の鼻埼を南口とし、同島側の三軒屋ノ鼻を北口とするほぼ南北に延びる狭い水道で、鼻埼から北方約100メートルのところに架かっている音戸大橋とその南側付近が可航幅約60メートルの最狭部となっていた。
 発航したA受審人は、船橋当直を同人、B受審人及び操機長の順による単独4時間交替制として瀬戸内海を西行し、20時50分広島県女猫島東方2海里付近に至って昇橋してきたB受審人に船橋当直を引き継ぐ際、しばらくすると同人の当直中に音戸瀬戸を通航することとなるのを分かっていたものの、自分と同じ海技免状を受有し、単独当直による同瀬戸の通航経験も豊富なので任せておいても大丈夫と思い、昇橋して操船の指揮がとれるよう、同瀬戸の手前での報告を指示することなく降橋した。
 B受審人は、所定の灯火を表示して音戸瀬戸に向けて西行を続け、21時49分倉橋島双見ノ鼻北方沖の、音戸瀬戸南口灯浮標から085度(真方位、以下同じ。)920メートルの地点に達し、同瀬戸の南口に差し掛かっていたが、A受審人に報告して昇橋を求めることなく、針路を同灯浮標に向く265度に定め、機関を全速力前進から半速力前進の270回転とし、7.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 21時52分B受審人は、音戸瀬戸南口灯浮標が正船首250メートルになったとき、210回転に下げて5.7ノットの速力とし、その後間もなくして南口に向かって同灯浮標を左舷側に50メートルばかり離して右転していたとき、北口付近に福寿丸の紅灯1灯を初めて視認し、双眼鏡により同船が小型漁船で水道の右側端に沿って南下していることを確かめ、ほぼ右転を終わった同時53分半音戸灯台から179度800メートルの地点で、水道の右側端に沿って航行することとし、針路を音戸大橋橋梁灯の中央灯であるC1灯の少し右に向く010度に転じ、少しばかり舵効きをよくするつもりで240回転に上げ、6.5ノットの速力で続航した。
 転針したとき、B受審人は、左舷船首3度595メートルのところに福寿丸を見るようになり、同船と最狭部付近で出会うものの、両船の大きさなどからこのまま互いに右側端に寄って航行すれば左舷を対して航過できると判断して北上を続けた。
 21時54分半少し前B受審人は、音戸灯台から176度640メートルの地点で、鼻埼寄りの南口に達したとき、福寿丸が左舷船首10度265メートルのところから左転し緑灯1灯を見せるようになり、その後自船の進路上に向かって衝突のおそれがある態勢で直進してきたが、自船が水道の右側端を航行しているので、そのうち福寿丸が右転して替わしてくれるものと思い、空気元弁が閉まっていたのでエアホーンによる警告信号を行わず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
 21時55分少し前B受審人は、福寿丸に避ける様子が見られなかったので危険を感じ、機関を中立に操作したが及ばず、21時55分音戸灯台から172度510メートルの地点において、日興丸は、原針路のまま、5ノットの行きあしとなったとき、その左舷船首部に、福寿丸の船首が前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候はほぼ低潮時にあたり、付近にはわずかな北流があった。
 また、福寿丸は、広島県草津漁港を基地とし、広島湾においてはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、地元に戻って漁具の手入れをする目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日20時50分同漁港を発し、同県豊島漁港に向かった。
 C受審人は、両舷灯を点灯しただけで所定の灯火を表示しないまま発航し、音戸瀬戸に向けて南下を続け、21時52分半音戸灯台から097度145メートルの地点で、三軒屋ノ鼻寄りの北口に至ったとき、針路を同瀬戸の右側端に沿う195度に定め、機関を全速力前進から微速力前進の回転数毎分900とし、6.5ノットの速力で手動操舵により進行した。
 定針する際、C受審人は、音戸瀬戸を航行する他船を見掛けなかったので、専ら右舷側の陸岸に留意しながら南下を続け、21時53分半音戸灯台から157度230メートルの地点に達したとき、左舷船首8度595メートルのところに、日興丸の白、白、紅3灯を視認することができ、最狭部付近で出会うものの、両船の大きさなどからこのまま互いに右側端に寄って航行すれば左舷を対して航過できる状況であったが、水道内に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、日興丸の存在もその状況にも気付かず、そのころ右舷前方の渡船場に着桟している渡船が発航するかどうか見守りながら続航した。
 間もなく、C受審人は、渡船場を右舷正横に見て航過したとき、正船首約100メートルに音戸大橋西端側の岸壁とその後方至近に石垣で囲まれた清盛塚を認め、折からの干潮で石垣がかなり露出していたのが気になり、21時54分半少し前音戸灯台から173度375メートルの地点に至ったとき、同塚を大きく離すつもりで針路を170度に転じたが、小角度の転針によりできるかぎり水道の右側端に寄せることなく、水道の右側から左側に向かう進路とした。
 このとき、C受審人は、右舷船首10度265メートルに日興丸が存在し、その後同船の進路上に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然として前路の見張り不十分のまま、清盛塚との航過距離に注意を払っていて、このことに気付かず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行し、21時55分わずか前ふと船首至近に日興丸の船首部を初めて視認したが、驚いて何らの措置もとることができず、福寿丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日興丸は、船首部外板に擦過傷を生じただけで、福寿丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、音戸瀬戸の狭い水道において、南下中の福寿丸が、同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北上中の日興丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 日興丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し音戸瀬戸の手前での報告を指示しなかったことと、船橋当直者が、同瀬戸に差し掛かったことを船長に報告しなかったうえ、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、夜間、音戸瀬戸の狭い水道を南下する場合、反航してくる日興丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、水道内に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、水道の右側端に寄って北上する日興丸の進路上に向かって衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して日興丸との衝突を招き、同船の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、福寿丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、船橋当直を次直に引き継ぐ場合、しばらくすると音戸瀬戸の狭い水道を通航することとなるのを分かっていたのであるから、昇橋して操船の指揮がとれるよう、同瀬戸の手前での報告を指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者が自分と同じ海技免状を受有し、単独当直による音戸瀬戸の通航経験も豊富なので任せておいても大丈夫と思い、同瀬戸の手前での報告を指示しなかった職務上の過失により、福寿丸が自船の進路上に向かって衝突のおそれがある態勢で接近した際に衝突を避けるための措置をとることができず、福寿丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、音戸瀬戸の狭い水道の右側端に寄って北上中、反航してくる福寿丸が水道の右側から自船の進路上に向かって衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、空気元弁が閉まっていてエアホーンが使えなかったのであるから、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が水道の右側端を航行しているので、そのうち福寿丸が右転して替わしてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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