(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月22日08時30分
広島県厳島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一桂栄丸 |
プレジャーボート第五美幸丸 |
総トン数 |
4.8トン |
|
登録長 |
13.20メートル |
6.57メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
|
26キロワット |
漁船法馬力数 |
90 |
|
3 事実の経過
第二十一桂栄丸(以下「桂栄丸」という。)は、漁を行わないときは交通船や運搬船として使用されることのあるFRP製漁船で、有資格者が乗り組むことなく、A指定海難関係人が操縦者として1人で乗り組み、7人を同乗させて、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成13年11月22日07時50分広島県佐伯郡鹿川港を発し、同郡大野町に向かった。
ところで、A指定海難関係人は、4年ほど前から鹿川港に所在する白地水産株式会社に陸上従業員として勤務しており、桂栄丸が漁以外の目的で使用されるときは、他の従業員が交替で操縦していたので、自分も乗らなければならないものと思い、同社の配乗担当者に海技免状を所持していないことを申告しないまま、同船に操縦者として乗り組んでいた。
一方、B指定海難関係人は、D水産株式会社の常務取締役として所有漁船の配乗を担当しており、A指定海難関係人が入社前にかき養殖会社に長く勤務していたと聞いて海技免状を所有しているものと思い、同人にそのことを確かめないまま、同月12日から大野町に所在するO水産株式会社に自社のパート従業員を派遣するため、同人とほか1人を指名して、交替で桂栄丸に操縦者として乗り組むよう指示していた。
こうして、A指定海難関係人は、発航後、大矢鼻を右舷方に替わしたのち、機関を回転数毎分2,000にかけて20.0ノットの速力で、能美島西方沖合を手動操舵によって北上し、08時28分広島県厳島聖埼20メートル山頂(以下「山頂」という。)から109度(真方位、以下同じ。)1,330メートルの地点で、針路を325度に定めたとき、正船首方わずか右1,680メートルのところに第五美幸丸(以下「美幸丸」という。)を視認することができ、さらに同時28分半同船が右転して左舷を対して航過する態勢で互いに接近する状況になったが、左舷側のかき筏に沿って航走し同北端を替わしたのち左転する予定であったため、左方のかき筏や転針方向を見ることに気をとられ、前方の見張りを十分に行っていなかったのでこれに気付かないまま、同じ針路と速力で進行した。
08時30分少し前A指定海難関係人は、かき筏の北端を替わして転針点に至ったとき、美幸丸が左舷前方120メートルとなり50メートル隔てて左舷を対し無難に航過できる態勢であったが、依然前方の見張り不十分でこれに気付かず、左舵を取ってその前路に向け進出し、08時30分山頂から046度750メートルの地点において、桂栄丸は、原速力のまま、260度に向いた船首が美幸丸の左舷中央部に前方から82度の角度で衝突して乗り越えた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、美幸丸は、FRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日08時15分広島県地御前漁港を発し、厳島南岸の釣り場に向かった。
C受審人は、操舵スタンドの後方に立って舵輪を操作し、地御前漁港の南方に設置されたかき筏の間の水路を右舷側のかき筏に沿って釣り餌となるからす貝の付着具合を見ながら低速で航行したのち、08時25分山頂から000度1,600メートルの地点で、針路を148度に定め、機関を港内全速力前進にかけて8.0ノットの速力で進行し、同時28分正船首方1,680メートルのところに桂栄丸を初めて認め、同時28分半同船と左舷を対して航過できるように針路を162度に転じて続航した。
08時29分半C受審人は、左舷船首18度310メートルのところに左舷を対して無難に航過する態勢の桂栄丸を確認したのち、前方のかき筏にあまり接近しないよう同筏を見ていたところ、同時30分少し前左舷船首方120メートルに接近したところで桂栄丸が急に左転して自船の前路に進出し、美幸丸は、同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、桂栄丸は、プロペラ及び同軸を曲損、キールなどを破損したが、のち修理された。美幸丸は、左舷中央部外板に破口を、横転して機関などに濡れ損を生じ、C受審人が、頚部捻挫、左肩及び右膝などに打撲傷を負うに至った。
(原因)
本件衝突は、広島県厳島北東方沖合において、北上する桂栄丸が、見張り不十分で、左舷を対して無難に航過する態勢で南下する美幸丸の前路に進出したことによって発生したものである。
桂栄丸の船舶所有者が、有資格者を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人の所為)
A指定海難関係人が、操縦者として無資格のまま操船にあたり、見張り不十分で、左舷を対して無難に航過する態勢で南下する美幸丸の前路に進出したことは本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、無資格で桂栄丸を操船したことについて十分に反省していることに徴し、勧告しない。
B指定海難関係人が、桂栄丸の配乗を行う際、有資格者を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件後、必ず免状の所持を確認して所有船舶に有資格者を乗り組ませていることに徴し、勧告しない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。