日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年広審第36号
件名

貨物船光陽丸漁船和吉丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:光陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:和吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
光陽丸・・・右舷船首部外板に凹損
和吉丸・・・船首部を圧壊

原因
光陽丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
和吉丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、光陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る和吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、和吉丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月6日07時20分
 山口県徳山下松港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船光陽丸 漁船和吉丸
総トン数 490トン 4.92トン
全長   14.87メートル
登録長 54.16メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット 40キロワット

3 事実の経過
 光陽丸は、船尾船橋型の液化ガスばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、塩化ビニールモノマー500トンを積載し、船首2.8メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成13年9月5日11時10分兵庫県東播磨港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 翌6日07時08分A受審人は、代理店との連絡準備及び入航操船にあたるために昇橋し、同時11分岩島灯台から147度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、当直中の一等航海士と交代し、針路を洲島に向首する312度に定め、機関を回転数毎分320の全速力前進として9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 そのころA受審人は、粭島西岸沖合に和吉丸が南下中であったが、折から洲島北方に認めた499トン型と思われる徳山湾からの出航船の動向に留意し、和吉丸に気付かず、着桟予定の09時00分まで余裕があったので時間調整をどうするか思案しながら続航した。
 07時16分半A受審人は、3海里レンジにしたレーダーで洲島までの距離を確かめたあと、大津島及び馬島の西方を迂回して揚荷桟橋に向かうとどのくらい航程が増えるか調べようと思い、操舵室後部左舷側の海図台に赴き、使用中の海図で距離を測っていたところ、同時17分岩島灯台から155度1.7海里の地点で、右舷船首15度1,350メートルに和吉丸を認めることができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、海図台の前で後方を向いて立ち、着桟時刻までの時間調整に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
 07時20分少し前A受審人は、前示出航船を左舷側に替わし、予定通り徳山湾内に向かうことを決め、手動操舵に切り替えるべく操舵スタンドの後ろに移動したところ、右舷船首方至近に前路を左方に横切る態勢で波を切って接近する和吉丸を認め、衝突の危険を感じたので、直ちに手動操舵に切り替え左舵一杯をとったが及ばず、07時20分岩島灯台から163度1.3海里の地点において、光陽丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その右舷船首部に和吉丸の船首が、前方から35度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力1の南東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、和吉丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月6日07時00分粭大島漁港を発し、伊予灘の漁場に向かった。
 発航後B受審人は、粭島の宮ノ鼻から200メートルほど沖合を経て、07時10分半三ツ石鼻と火振岬の見通し線上にあたる岩島灯台から148度550メートルの地点に達したとき、GPSプロッターの画面を見て針路を伊予灘航路第1号灯浮標に向く167度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分2,400の半速力前進として6.4ノットの速力で進行し、そのとき左舷船首20度2.4海里に西行する光陽丸のオレンジ色の船体を初認したが、まだ距離があったので、船尾甲板で船首方を向いて立ち、漁網を両手で広げて破れ箇所の点検作業を開始した。
 07時17分B受審人は、岩島灯台から162度1.0海里の地点に達したとき、左舷船首20度1,350メートルに、前路を右方に横切る態勢の光陽丸を認めたが、いちべつしただけで同船が自船の前路を替わるものと思い、漁網の点検に専念し、その動静を十分に監視しなかったので、その後光陽丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船が避航動作をとらないまま間近に接近しても、備え付けのモーターホーンを使用して警告信号を行わず、さらに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 07時20分わずか前B受審人は、ふと前方を見たとき、間近に接近した光陽丸を認めて衝突の危険を感じ、後部甲板に設備された遠隔操舵装置に飛び付き左舵一杯をとったが効なく、和吉丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、光陽丸は右舷船首部外板に凹損を生じ、和吉丸は船首部を圧壊したが、のち和吉丸は修理された。

(原因)
 本件衝突は、山口県徳山下松港南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、光陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る和吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、和吉丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、徳山下松港南方沖合において、徳山湾入口に向け航行する場合、粭島西岸を南下する和吉丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海図で距離を測るなどして着桟予定時刻までの時間調整に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する和吉丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、光陽丸の右舷船首部外板に凹損を、和吉丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、粭島西岸沖合において、伊予灘の漁場に向け南下中、前路を右方に横切る態勢の光陽丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで光陽丸が自船の前路を替わるものと思い、船尾甲板において漁網の点検に専念し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、さらに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:31KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION