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平成14年神審第28号
件名

油送船昭立丸貨物船第二明盛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒田 均、大本直宏、村松雅史)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:昭立丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第二明盛丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第二明盛丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
昭立丸・・・左舷船首部外板に破口、浸水
明盛丸・・・船首部を圧壊し、のち廃船

原因
明盛丸・・・見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守(主因)

主文

 本件衝突は、第二明盛丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の昭立丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Cの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月16日05時47分
 明石海峡

2 船舶の要目
船種船名 油送船昭立丸 貨物船第二明盛丸
総トン数 49,704.32トン 466トン
全長 237.65メートル 49.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 12,797キロワット 588キロワット

3 事実の経過
 昭立丸は、操船位置から船首端まで200メートルの油タンカーで、A受審人ほか20人が乗り組み、原油93,000キロリットルを積載し、船首12.63メートル船尾12.69メートルの喫水をもって、平成14年1月14日12時10分鹿児島県喜入港を発し、明石海峡経由で岡山県水島港に向かった。
 翌々16日A受審人は、友ケ島水道南方で昇橋して操船指揮に当たり、所定の航海灯のほか、巨大船及び危険物積載船の灯火が表示されているのを確認して同水道を通過し、04時から船橋当直に就いた一等航海士を補佐に、甲板手を見張りにそれぞれ当たらせ、明石海峡航路(以下「航路」という。)東方で待機中の進路警戒船(以下「警戒船」という。)に、VHF無線電話により、05時50分航路入航予定の旨を連絡し、霧模様となった大阪湾を北上した。
 A受審人は、05時25分所定の灯火を表示した警戒船と会合し、視程が1.5海里に狭められていたので同船を自船の前方5ケーブルに配備し、同時31分機関用意を命じ、明石海峡航路東方灯浮標を左舷側に見て左転し、同時38分平磯灯標から151度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、針路を航路の東口に向く303度に定め、機関を回転数毎分98にかけ、折からの潮流に抗し10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、甲板手を手動操舵に当たらせて進行した。
 05時43分少し前A受審人は、平磯灯標から164度1.8海里の地点に達したとき、レーダーを監視していた一等航海士と警戒船から、航路を出て左転した東航船がある旨の報告を受け、左舷船首22度1.3海里のところに、第二明盛丸(以下「明盛丸」という。)が表示した白、白、緑3灯を初めて視認したものの、自船の存在を示すための信号を行わないで続航した。
 05時45分A受審人は、一等航海士から明盛丸の方位が明確に右方に変わり、距離が7ケーブルに接近した旨の報告を受け、同船が自船の船首方を無難に航過する態勢と判断し、警戒船に対し早く横切らせるよう指示したところ、同時46分船首方4ケーブルに明盛丸の右舷灯を認めるようになり、念のため針路を302度に転じて進行した。
 05時46分半A受審人は、それまで右舷灯を見せていた明盛丸が、突然右転して左舷灯を見せるようになり、自船の前路に進出しているのを認め、衝突の危険を感じて右舵一杯を令したが、05時47分平磯灯標から187度1.3海里の地点において、昭立丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部に、明盛丸の左舷船首部が、前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は1.5海里で、付近には1ノットの東流があった。
 また、明盛丸は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、B及びC両受審人ほか2人が乗り組み、砕石1,100トンを積載し、船首3.5メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成14年1月16日03時00分兵庫県家島港を発し、神戸港第4区に向かった。
 B受審人は、船橋当直を航海士2人と自らによる単独の1時間半交替制としており、発航操船に当たったのち、航路通過予定の状況下、次席一等航海士に同当直を行わせることとしたが、慣れた海域なので任せておいても大丈夫と思い、船橋当直者に対し、自ら操船の指揮を執ることができるよう、航路に接近した際の報告について指示せず、同当直を交替して自室で休息した。
 C受審人は、04時50分霧模様となった航路の西方で昇橋し、船長報告について引継ぎのないまま前直者と交替して船橋当直に就き、所定の航海灯が表示されていることを確認し、間もなく航路に接近したが、船長に対し、その旨を報告しないで入航し、05時27分半平磯灯標から271度2.8海里の地点において、明石海峡航路中央第2号灯浮標に並んだとき、針路を128度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じ10.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 05時41分C受審人は、平磯灯標から216度1.7海里の地点に達したとき、左舷船首29度1.3海里のところに、警戒船が表示した緑色閃光灯を視認したものの、低速力の漁船が操業中で、その前方を横切れると判断し、航路を出た同時42分左転を始めたところ、警戒船からサーチライトによる照射を受け、右舷前方となった同船が更に接近してくるのを認めた。
 05時43分少し前C受審人は、平磯灯標から206度1.7海里の地点で、針路を055度に転じたとき、右舷船首46度1.3海里のところに、昭立丸が表示した灯火を視認することができる状況となったが、警戒船に気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、昭立丸の存在にも、その後、同船の船首方を無難に航過する態勢で接近していることにも気付かないで続航した。
 05時46分少し前C受審人は、警戒船が後方に移動したので安心し、レーダーを見たとき、右舷前方5ケーブルに大きな映像を認め、同方間近に昭立丸の左舷灯を初認し、とっさに右舵一杯としたところ、同船の前路に進出することとなり、その後、船首方至近に昭立丸の右舷灯を認めて左舵一杯とし、再び左舷灯を認めて右舵一杯としたとき、昇橋してきたB受審人に操舵を交替させられた。
 05時46分半B受審人は、就寝していたところ、転舵による船体の傾斜で目を覚まし、急ぎ昇橋して船首方至近に昭立丸の船体を認め、C受審人と操舵を交替し、機関を停止した直後、明盛丸は、132度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、昭立丸は、左舷船首部外板に破口を生じて浸水したが、のち修理され、明盛丸は、船首部を圧壊し、修理費用との関連で廃船とされた。

(航法の適用等)
 本件は、夜間、明石海峡において、航路に向け西航する昭立丸と、同航路を出て神戸港に向け左転して北上する明盛丸とが衝突したものであるが、以下適用する航法等について検討する。
 衝突地点は、明石海峡航路中央第3号灯浮標の東方1,300メートル付近で、港則法の適用はなく、海上交通安全法の適用海域であるが、同法に適用される航法の規定がないので、海上衝突予防法により律することになる。
 明盛丸は、見張り不十分で、昭立丸の存在にも、その船首方4ケーブルのところを無難に航過する態勢で接近していることにも気付かないまま北上していたところ、衝突の約1分前、同船の左舷灯を間近に初認して急右転したもので、事実認定の根拠で述べたとおり、昭立丸には時間的にも距離的にも衝突回避可能性はない。したがって、定型航法を適用できないので、船員の常務を適用し、明盛丸が昭立丸の前路に進出したとするのが相当である。
 なお、巨大船であり危険物積載船である昭立丸は、視程が1.5海里に狭められていたうえ、航路に接近している状況下、航路を出て左転した明盛丸の白、白、緑3灯を視認した際、結果的に無難に航過する態勢であったとはいえ、警戒船にサーチライトによる照射を行わせても極めて接近することとなったのであるから、原因とはならないものの、海上の経験則に照らすと、念のため、注意を喚起する目的で、自船の存在を示すための信号を行っておくことが望ましい。

(原因)
 本件衝突は、夜間、明石海峡において、航路を出て神戸港に向け左転した明盛丸が、見張り不十分で、同航路に向け西航する昭立丸の船首方を無難に航過する態勢で北上中、同船の左舷灯を間近に初認して急右転し、昭立丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 明盛丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、自ら操船の指揮を執ることができるよう、航路に接近した際の報告について指示しなかったことと、船橋当直者が、船長に対し、同航路に接近したことを報告しなかったばかりか、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、夜間、明石海峡において、航路を出て神戸港に向け左転して北上する場合、同航路に向け西航する昭立丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船に配備されていた警戒船に気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、昭立丸の存在にも、同船の船首方を無難に航過する態勢で接近していることにも気付かないまま、昭立丸の左舷灯を間近に初認して急右転し、同船の前路に進出して衝突を招き、昭立丸の左舷船首部外板に破口を生じて浸水させ、明盛丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、航路通過予定の状況下、部下に船橋当直を行わせる場合、船橋当直者に対し、自ら操船の指揮を執ることができるよう、同航路に接近した際の報告について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れた海域なので任せておいても大丈夫と思い、同航路に接近した際の報告について指示しなかった職務上の過失により、自ら操船の指揮を執ることができず、昭立丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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