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平成14年横審第27号
件名

プレジャーボート彩プレジャーボートサンケイダッククラブII衝突事件
二審請求者〔補佐人田川俊一、補佐人村上 誠〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、森田秀彦、長谷川峯清)

理事官
釜谷獎一

受審人
A 職名:彩船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:サンケイダッククラブII船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
彩・・・船首部及び左舷後部船底外板に擦過傷、同乗者1人が右手関節打撲等
サンケイ・・・右舷側ブルワーク、操舵スタンド及び後部物入れを圧壊等、船長の長男が溺死、船長と同乗者1人が右肋骨骨折等

原因
彩・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
サンケイ・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、彩が、見張り不十分で、前路を左方に横切るサンケイダッククラブIIの進路を避けなかったことによって発生したが、サンケイダッククラブIIが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月15日06時15分
 京浜港川崎区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート彩 プレジャーボートサンケイダッククラブII
全長 8.17メートル  
登録長   6.9メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 154キロワット 47キロワット

3 事実の経過
 彩は、船体中央前部の操舵室上方にフライングブリッジを有し、船内外機2基を装備するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人4人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成13年4月15日04時50分東京都葛飾区奥戸の新中川左岸の係留場所を発し、旧江戸川河口から東京湾に出て、京浜港横浜区八景島東方沖合の釣り場に向かった。
 ところで、彩の前部甲板上の両舷側のハンドレールには、長さ59センチメートル直径19センチメートルの円筒型防舷物を、縦に2個格納できる防舷物格納用レールが各舷に1個ずつ取り付けられ、右舷側同格納用レールに2個の防舷物を格納すると、操舵室右舷側の操縦席からは、立ち上がっても、前示防舷物及び操舵室前面右舷側窓枠により右舷船首15度から35度にかけて死角が生じる状況となっており、同席に腰掛けて操船するときには、防舷物を船内に取り込んで身体を左右に動かすなど、その死角を補う見張りを行う必要があったが、A受審人は、購入してから3航海目であったので、このことに気付かなかった。
 発航後、A受審人は、フライングブリッジで操船に当たり、06時03分東京湾アクアライン風の塔灯(以下「風の塔灯」という。)から005度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点に至ったとき、寒気を感じ、周囲を一瞥(いちべつ)したところ他船を認めなかったので、一旦機関を中立として、フライングブリッジから降り、操舵室に移動して操縦席に腰を掛けたところ、右舷側防舷物格納用レールに入った防舷物等により、右舷前方に死角があることに初めて気付いたが、気に止めず、同時05分風の塔灯から004度2.8海里の地点で、再び機関を全速力前進にかけて針路を200度に定め、徐々に増速し、同時06分少し前風の塔灯から002.5度2.6海里の地点で、17.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操縦により進行した。
 06時12分少し過ぎA受審人は、風の塔灯から329度1.0海里の地点に達したとき、右舷船首23度1.2海里のところに前路を左方に横切る態勢のサンケイダッククラブII(以下「サンケイ」という。)を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で互いに接近するのを認め得る状況であったものの、フライングブリッジから降りる際、他船を認めなかったので、右舷前方から接近する船はいないものと思い、右舷側防舷物を船内に取り込んで身体を左右に動かすなど、右舷前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、サンケイに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
 06時15分わずか前A受審人は、右舷船首至近に迫ったサンケイの左舷船首を初めて認め、驚いて激右転としたが、間に合わず、06時15分風の塔灯から280度1,500メートルの地点において、彩は、右回頭中の船首が260度に向いたとき、原速力のまま、その船首がサンケイの右舷前部に前方から60度の角度で衝突して転覆させ、乗り切った。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、サンケイは、船体中央部に操舵スタンドを設け、船外機を装備するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、長男と友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.12メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日05時20分京浜港川崎区末広運河最奥部の係留場所を発し、大師運河及び川崎航路を南下して、東燃扇島シーバース付近の釣り場に向かった。
 B受審人は、05時40分東燃扇島シーバース付近に着き、漂泊して魚釣りを始めたが、釣果がなかったので、東京湾アクアライン風の塔付近の釣り場に移動することとした。
 06時07分B受審人は、風の塔灯から264度2.4海里の地点で、針路を風の塔灯の少し北方に向く076度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力で、操舵スタンドの後方に立って手動操縦により進行した。
 06時12分少し過ぎB受審人は、風の塔灯から270度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首33度1.2海里のところに南下中の彩を初めて認め、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で互いに接近することを知ったが、同船が避航船であるから、いずれ避航動作をとるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行わず、さらに間近に接近するに及んでも、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 06時15分わずか前B受審人は、彩の方位が変わらず、左舷船首至近に接近したとき、漸く衝突の危険を感じ、あわてて左転し、機関を微速力前進に、続いて後進に入れ、サンケイは、船首が020度に向き、速力が前進2.0ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、彩は、船首部及び左舷後部船底外板に擦過傷をそれぞれ生じ、両舷ドライブユニットを破損したが、のち修理され、サンケイは、右舷側ブルワーク、操舵スタンド及び後部物入れをそれぞれ圧壊し、船首から船体中央後部までの左舷外板に亀裂を生じ、左舷側に転覆後、海上保安庁の巡視艇により造船所に引き付けられたが、のち廃船とされた。また、彩同乗者Kが右手関節打撲等を負い、B受審人、その長男及びサンケイ同乗者Yは、衝突の衝撃で投げ出され、付近を航行中の遊漁船に救助されて病院に搬送されたが、長男C(昭和43年7月9日生)が溺死し、B受審人及びY同乗者がそれぞれ5日間及び8週間の入院加療を要する右肋骨骨折等及び右大腿骨骨折等を負った。

(原因)
 本件衝突は、京浜港川崎区浮島南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南下中の彩が、見張り不十分で、前路を左方に横切るサンケイの進路を避けなかったことによって発生したが、東行中のサンケイが、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、京浜港川崎区浮島南東方沖合において、同港横浜区八景島沖合の釣り場に向けて航行する場合、防舷物等により右舷前方に死角が生じる状況であったのであるから、右舷前方から接近するサンケイを見落とさないよう、防舷物を船内に取り込んで身体を左右に動かすなど、右舷前方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、フライングブリッジから操舵室に降りる際、他船を認めなかったので、右舷前方から接近する船はいないものと思い、右舷前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近しているサンケイに気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、彩の船首部及び左舷後部船底外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、両舷ドライブユニットを破損させ、サンケイの右舷側ブルワーク、操舵スタンド及び後部物入れをそれぞれ圧壊させ、船首から船体中央後部までの左舷外板に亀裂を生じさせるとともに転覆させ、また、彩のK同乗者に打撲等を負わせ、サンケイのC同乗者を溺死させ、B受審人及びY同乗者に骨折等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は、京浜港川崎区浮島南東方沖合を東行中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する彩を認めた場合、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が避航船であるからいずれ避航動作をとるものと思い、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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