(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月20日13時23分
茨城県川尻港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第2千代丸 |
漁船弘栄丸 |
総トン数 |
|
0.96トン |
全長 |
|
5.72メートル |
登録長 |
5.90メートル |
|
機関の種類 |
電気点火機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
44キロワット |
17キロワット |
3 事実の経過
第2千代丸(以下「千代丸」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、たこ釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、平成13年12月20日07時07分茨城県川尻港を発し、同港の北東方8海里付近の釣り場に至って釣りを行ったのち、12時49分同釣り場を発進して帰途に就いた。
発進後A受審人は、川尻埼に向け南西進し、13時20分少し前川尻灯台から046度(真方位、以下同じ。)1,070メートルの地点に達したとき、針路を218度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵として進行したところ、海上が穏やかで、舵中央の状態で放置しても船首が振れることが少なかったため、舵輪から手を離して釣り道具の後片づけを始め、ときどき前方を見て舵輪に手を添えて針路の修正をしながら続航した。
13時21分少し過ぎA受審人は、川尻灯台から059度440メートルの地点に至ったとき、左舷船首8度450メートルのところに川尻港に向け低速力で航行中の弘栄丸を認め、いずれ自船が弘栄丸に追いつくものと判断し、同時21分半同灯台から061度380メートルの地点で針路を陸岸に沿う224度に転じて進行した。
13時22分半A受審人は、川尻灯台から150度130メートルの地点に達し、針路を川尻港に向く236度に転じたところ、弘栄丸を左舷船首26度160メートルに認めるようになり、まもなく同船を左舷側50メートル以上離して無難に航過する態勢にあることを知ったことから、しばらくの間舵輪から手を離しても大丈夫と思い、同船を航過するまで針路を十分に保持することなく、再び舵中央として舵輪を放置し、釣り道具の後片づけを開始した。
A受審人は、まもなく自船が弘栄丸の航走波による影響を受けて船首が左に振れ、その後も針路が不安定なまま徐々に弘栄丸に接近するようになり、同船に対し新たな衝突のおそれを生じさせることとなったが、このことに気付かないまま続航中、13時23分川尻灯台から198度300メートルの地点において、227度を向首した千代丸の船首が、弘栄丸の右舷船尾に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、弘栄丸は、一本釣り漁業に従事する汽笛信号設備を有しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.17メートル船尾0.83メートルの喫水をもって、同日06時15分川尻港を発し、同港の北北東方5海里付近の漁場に至って操業したのち、12時20分同漁場を発進して帰途に就いた。
B受審人は、両手を機関室ケーシングの縁にかけて船尾甲板に立ち、舵柄を両足の間に挟んだ姿勢で操舵、操船に従事し、13時15分少し前川尻灯台から054度1,000メートルの地点に達したとき、針路を222度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの速力で進行した。
13時21分少し過ぎB受審人は、川尻灯台から138度210メートルの地点で針路を川尻港に向く242度に転じたが、このころ右舷船尾32度450メートルのところに自船より高速力で陸岸寄りを南西進する千代丸を認めることができ、まもなく自船を航過することが分かる状況であった。しかしながら同人は、後方から接近する他船は自船を替わしてくれるものと思い、前方のみを見張り、周囲の見張りを怠っていたため、この状況を見落としていた。
13時22分半B受審人は、右舷船尾32度160メートルに接近した千代丸が、一旦針路を川尻港に向け、自船を無難に航過する態勢となったものの、その後針路が不安定となって徐々に自船に接近するようになり、新たな衝突のおそれが生じることとなったが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、左転するなど衝突を避けるための措置をとることもなく続航中、弘栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弘栄丸には損傷がなく、千代丸は、弘栄丸の船尾のたつが左舷船首部に突き刺さり、破口を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、茨城県川尻港北東方沖合において、両船が相前後して同港に帰港中、後続する千代丸が、保針不十分で、無難に航過する態勢にあった先行する弘栄丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、弘栄丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、茨城県川尻港北東方沖合を同港に向け帰港中、先行する弘栄丸を認め、同船を無難に航過する態勢にあることを知った場合、同船を航過するまで、針路を十分に保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、しばらくの間舵輪から手を離しても大丈夫と思い、釣り道具の後片づけに気を取られ、針路を十分に保持しなかった職務上の過失により、針路が不安定となったまま弘栄丸に接近して衝突を招き、自船の左舷船首部に破口を生じさせるに至った。
B受審人は、茨城県川尻港北東方沖合を同港に向け帰港する場合、後方から接近する千代丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から接近する他船は自船を替わしてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する千代丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、左転するなど衝突を避けるための措置をとることもなく進行して同船との衝突を招き、千代丸に前示の損傷を生じさせるに至った。