(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月29日21時40分
佐渡島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八金吾丸 |
漁船さち丸 |
総トン数 |
29トン |
19.41トン |
全長 |
20.75メートル |
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登録長 |
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17.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
529キロワット |
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漁船法馬力数 |
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130 |
3 事実の経過
第八金吾丸(以下「金吾丸」という。)は、沖合底曳網漁業に従事する軽合金製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、船首0.9メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成12年5月29日03時15分新潟港を発し、佐渡島弾埼北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、09時00分漁場に至って操業を開始し、何度かポイントを変えてほっけ7トンを漁獲し、20時30分弾埼灯台から347度(真方位、以下同じ。)9.3海里の地点を発進し、新潟港に向けて帰途に就いた。
発進時A受審人は、所定の灯火を表示し、自ら船橋当直に当たり、針路を新潟港に向首する140度に定めて自動操舵とし、対地速力9.0ノットの全速力で進行した。
21時00分A受審人は、弾埼灯台から008度5.6海里の地点に達したとき、操業後の片付けを終えて昇橋したB指定海難関係人に当直を引き継いだが、船橋当直については、平素注意しているからことさら注意するまでもないと思い、操舵室を離れる必要がある場合には自分に連絡するよう十分に指示しなかった。
B指定海難関係人は、操舵室前部中央の舵輪後方の椅子に腰かけて見張りにあたり、同じ針路及び速力で進行していたところ、次第に眠気を感じ、眠気覚ましのコーヒーを操舵室下方の賄い室で入れることとし、21時25分弾埼灯台から049度4.2海里の地点で、船長に連絡しないまま降橋した。
操舵室を離れるときB指定海難関係人は、前路6海里付近で集魚灯を点灯しているいか釣り漁船の存在を確認したが、右舷船首36度4.3海里のさち丸の白灯、紅灯に気付かなかった。
21時33分金吾丸は、弾埼灯台から065度4.3海里の地点に達したとき、さち丸の方位が変わらないまま同船との距離が2.0海里となり、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、船橋当直者がいなかったので、速やかに右転するなど同船の進路を避ける措置がとられることなく続航した。
B指定海難関係人は、前路に存在したいか釣り漁船まではまだ距離があるはずと思って賄い室でしばらくテレビを見たのち、コーヒーの入ったカップを持ちながら右舷側甲板通路に出て階段を昇り、21時40分少し前操舵室に戻って外を見回したところ、右舷正横至近にさち丸の船体を認めたが、何らの措置もとることができず、21時40分弾埼灯台から078度4.7海里の地点において、金吾丸の右舷側前部にさち丸の船首が前方から64度の角度で衝突した。
A受審人は、操舵室後方の寝台で休息中、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置に当たった。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、さち丸は、えびかご漁業に従事する木製漁船で、C受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日20時00分新潟県両津港を発し、弾埼北東方沖合の漁場に向かった。
C受審人は、所定の灯火を表示し、自ら船橋当直に当たり、20時44分弾埼灯台から177度8.5海里の地点で、針路を024度に定めて自動操舵とし、舵輪後方の椅子に腰をかけて見張りに当たり、対地速力11.0ノットの全速力で進行した。
21時23分C受審人は、弾埼灯台から119度3.8海里の地点で、左舷船首28度4.8海里のところに、金吾丸の白灯、緑灯を初認したが、そのまま進行しても無難に替わると思い、同船の動静監視を十分に行わず、同時25分同業船から無線が入ったので、操業日誌を見るため操舵室天井の60ワットの照明灯を点灯し、外が見えない状況で同業船と予定漁場について連絡を取り合っていた。
21時33分C受審人は、弾埼灯台から093度4.1海里の地点で、金吾丸の方位が変わらないまま距離が2.0海里に接近し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、照明灯の明かりで外が見えない状況のため、同船の接近に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもないまま進行していたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金吾丸は右舷側前部外板に破口を伴う凹損を生じ、さち丸は船首部を圧壊脱落して浸水し、沈没して全損となった。
(原因)
本件衝突は、夜間、佐渡島弾埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、金吾丸が、船橋当直を維持する措置が不十分で、前路を左方に横切るさち丸の進路を避けなかったことによって発生したが、さち丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
金吾丸の船橋当直を維持する措置が不十分であったのは、船長が、船橋当直者に対し、操舵室を離れるとき連絡するように十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、船長に連絡しないまま操舵室を離れたこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、佐渡島弾埼東方沖合を新潟港に向けて自動操舵で航行中、部下に船橋当直を任せて休息する場合、当直者に対し、操舵室を離れるときは自分に連絡するよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、平素注意しているからことさら注意するまでもないと思い、当直者に対し、操舵室を離れるときは自分に連絡するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、当直者が操舵室を離れ、船橋当直を維持する措置がとられずにさち丸との衝突を招き、金吾丸の右舷側前部に破口を伴う凹損を生じさせ、さち丸の船首部を圧壊して沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、佐渡島弾埼東方沖合を漁場に向けて自動操舵で航行中、前路を右方に横切る態勢で接近する金吾丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、そのまま進行しても無難に替わると思い、操舵室内の照明灯を点灯して外が見えない状態で同業船と無線電話による交信をし、金吾丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船の進路を避けずに接近する同船に対して、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人は、夜間、単独で船橋当直中、操舵室を離れる必要が生じた際、船長に連絡しないまま操舵室を離れたことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後反省して船橋当直に努めている点に徴し、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。