(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月11日14時44分
宮城県歌津埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船神永丸 |
貨物船やえ丸3 |
総トン数 |
4,405トン |
499トン |
全長 |
141.75メートル |
76.16メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
6,619キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
神永丸は、専ら釧路、苫小牧、仙台及び大阪間を航行するロールオン・ロールオフ貨物船で、A及びB両受審人ほか11人が乗り組み、車両等約846トンを積載し、船首5.2メートル船尾6.4メートルの喫水をもって、平成13年4月11日10時15分塩釜港仙台区を発し、苫小牧港に向かった。
A受審人は、船橋当直を航海士と甲板手の2人による4時間3交替制としていたが、出港時から霧のために視界制限状態となっていたので、在橋して自ら操船指揮にあたり、霧中信号を自動吹鳴し、機関を航海全速力の範囲内の最低回転数とし、12時45分金華山灯台から113度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を023度に定め、14.5ノットの対地速力で進行し、13時05分B受審人に当直を任せて降橋した。
B受審人は、甲板手と2人で当直に従事し、1号及び2号レーダーを作動して見張りにあたり、14時00分歌津埼灯台から132度14.4海里の地点を通過し、同じ針路及び速力で続航した。
14時15分B受審人は、12海里レンジで作動中の1号レーダーにより、船首輝線のやや左側12.5海里付近に反航船らしき3隻の映像を初認し、同レーダーに組み込まれている自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)により各映像の相対ベクトルを表示させたところ、外側の2隻は左舷側をほぼ反方位の針路で通過するように表示されたが、最も船首輝線寄りにあったやえ丸3(以下「やえ丸」という。)のベクトルが、ほぼ反方位ではあるものの左右のふらつきがあったことから、同時17分歌津埼灯台から115度13.5海里の地点で、同映像の数値データを表示させたところ、左舷船首3度11.0海里のところにあって、自船の左舷側を最接近距離0.7海里ばかりで通過する旨の情報を得た。
B受審人は、やえ丸と著しく接近する可能性があると思い、14時23分半最接近距離をもう少し開けるために針路を028度に転じ、船長に状況を知らせようとしたが、A受審人が昇橋してきたので、このことを報告した。
A受審人は、報告を聞いて自ら操船の指揮をとることとし、B受審人を相対方位表示とした1号レーダーにつけ、自分は真方位表示とした2号レーダーを使用して監視にあたり、14時25分やえ丸の映像を左舷船首9度7.6海里に認めたあと、2号レーダープロット面にマーキング・ペンで映像のプロットマークを付ける方法により、プロッティングを行いながら同船の接近状況を観察した。
A受審人は、2号レーダー画面上のプロットマークの移動状況を見ているうちに、やえ丸の映像が少しずつ船首輝線に近づいているように見えたことから、沖出しのために自船の右舷側に向けるものと思い、B受審人にアルパデータを逐一報告させて確認するなど、同船の動静を正確に把握するよう努めなかったので、実際には方位がほとんど変化しないまま接近し、自船が大きく右転することにより著しく接近することを回避すべき状況であったが、同船と右舷対右舷で通過しようと考え、14時30分歌津埼灯台から102度14.0海里の地点で、同船との距離が5.6海里となったとき、針路を10度左に転じて018度とした。
左転後A受審人は、2号レーダーを6海里レンジに切り換えてプロットマークを消し、あらためてやえ丸の映像のプロッティングを行っていたところ、同映像が船首輝線のわずか左のまま接近を続け、いつまでも右舷側に替わる様子がないので、同船の意図を聞くためにVHF電話で呼び出したが応答がなく、14時37分2号レーダーに戻り、同映像が左舷船首7度2.8海里となっているのを認めた。
A受審人は、このときすでにやえ丸と著しく接近することを避けることができない状況であったが、依然として、互いに右舷側を対して航過するつもりでいたので、直ちに速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて停止することもせず、原速力のまま、14時39分同船が2海里に接近したとき、再び左転して針路を000度とした。
A受審人は、転針によって右舷側に替わったやえ丸の映像が、一旦船首輝線から離れたものの間もなく同線に近寄り始めたので、針路をさらに350度に転じて進行したところ、14時43分右舷前方に迫っている同船の船影を視認し、急いで左舵一杯をとったが及ばず、14時44分歌津埼灯台から089度14.0海里の地点において、神永丸は、290度を向いたとき、その右舷後部にやえ丸の船首部左舷側が後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力2の東北東風が吹き、視程は約300メートルであった。
また、やえ丸は、専ら袋入り精製塩を輸送する船尾船橋型貨物船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか3人が乗り組み、荷役用パレット約150トンを載せ、船首2.6メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同月10日16時10分苫小牧港を発し、坂出港に向かった。
C受審人は、船橋当直を自身、一等航海士及びD指定海難関係人の3人による4時間3交替制の単独当直とし、翌11日08時00分自ら当直に立ち、霧のために視界制限状態となっているなか、霧中信号を行わず、機関を全速力前進としたまま航行し、12時00分尾埼灯台から138度6.5海里の地点で、次直のD指定海難関係人に引き継いだが、海技資格を有しない同人に対し、単に危険を感じたときは自分に知らせるよう伝えただけで、他船と接近するときには報告するようなどの具体的な指示をしなかった。
単独で当直に就いたD指定海難関係人は、作動中の2台のレーダーを12海里レンジ及び6海里レンジとして見張りにあたり、引き継がれた200度の針路及び10.8ノットの対地速力で自動操舵により航行し、14時00分歌津埼灯台から066度18.2海里の地点を通過したのち、右舷側の同航船との距離を空けるため、同時12分から5分間、一時的に針路を170度に転じ、同時17分再び200度に戻して進行した。
14時20分D指定海難関係人は、歌津埼灯台から076度16.5海里の地点に達したとき、相対方位表示としたレーダーにより、正船首10.0海里のところに神永丸の映像を初めて認めた。
D指定海難関係人は、レーダー画面上に映像の残像を残す機能を利用して航跡を表示させ、神永丸の動静を監視したところ、ほとんど方位変化がないまま急速に接近するのを認め、14時30分同映像を左舷船首2度5.6海里に見るようになったとき、左舷対左舷で通過するために十分な航過距離を確保しておこうと思い、右舷側の同航船との間隔を考え、10度右転して210度の針路とした。
右転後D指定海難関係人は、神永丸の映像を左舷船首11度ばかりに見るようになり、2台のレーダーを6海里レンジ及び3海里レンジに切り換えて監視を続けたところ、方位がわずかに左方に替わるようになったことから、左舷対左舷で無難に通過できるものと思い、著しく接近する可能性があることに気付かず、その状況をC受審人に報告しなかった。
14時39分D指定海難関係人は、神永丸の映像を左舷船首21度2.0海里に見るようになったことから、すでに十分な航過距離を確保できているものと思い、実際には同船が左転したために著しく接近することを避けられない状況であったが、直ちに速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて停止することもないまま、針路を200度に戻して続航した。
その後D指定海難関係人は、神永丸の映像が少しずつ船首輝線に近寄るのを認めたが、いずれ同船が右転するものと思い、同じ針路及び速力で続航したところ、14時43分同船の汽笛を聞くと同時に左舷前方にその船影を初めて視認し、急いで汽笛を鳴らし、右舵一杯をとって機関を停止したが及ばず、260度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
C受審人は、自室で休息中、自船の汽笛を聞いて昇橋したが、間に合わず事後の措置にあたった。
衝突の結果、神永丸は右舷後部外板に破口を伴う凹損を生じ、やえ丸は左舷船首部のブルワークを圧壊した。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された三陸沖合において、北上中の神永丸が、安全な速力とせず、反航するやえ丸のレーダー映像を左舷船首方向に探知したのち、小刻みに左転を繰り返したばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことによって発生したが、南下中のやえ丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、反航する神永丸のレーダー映像をほぼ正船首に探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことも一因をなすものである。
やえ丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界制限時に他船と接近する状況となったときは報告するよう指示していなかったことと、船橋当直者が、同状況となった際、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、視界制限状態の三陸沖合を北上中、左舷船首方向に反航するやえ丸のレーダー映像を探知し、同船と著しく接近する状況が生じつつあるのを認め、針路の変更によって同状況を回避する場合、同船と十分な航過距離をとることができるよう、大角度の右転などによって著しく接近する状況を回避すべき注意義務があった。しかるに、同人は、やえ丸が自船の右舷側に向けて沖出しするものと思い、小刻みな左転を繰り返し、大角度の右転などによって著しく接近する状況を回避しなかった職務上の過失により、同船との間に著しく接近する状況を生じさせて衝突を招き、自船の右舷後部外板に破口を伴う凹損を生じさせ、やえ丸の左舷船首部ブルワークを圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、視界制限状態の三陸沖合を南下中、部下に船橋当直を行わせる場合、他船と接近する可能性があるときは自分に報告するよう具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、改めて指示しなくとも当直者が不安になれば報告するものと思い、他船と接近するときには自分に報告するよう具体的に指示しなかった職務上の過失により、神永丸と接近する状況が生じていながら報告を受けられず、自ら操船の指揮をとることができないまま同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船橋当直に従事して視界制限状態の三陸沖合を航行中、操船の指揮をとる船長を補佐するにあたり、レーダーで探知したやえ丸の動静に関して、アルパデータを適時に報告しなかったことなど、レーダー情報の報告が不十分であったことは、本件発生の原因となるが、船長が自分でアルパデータを見ることができることを勘案し、職務上の過失とするまでもない。
D指定海難関係人が、視界制限状態の三陸沖合を航行中、単独で船橋当直にあたり、正船首方向に反航する神永丸のレーダー映像を探知し、同船と接近する状況が生じつつあるのを認めた際、その状況を船長に報告して昇橋を求めなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、船長も当直に入るので起こしづらかったなどの事情に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。