(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月10日03時15分
岩手県宮古湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三貴丸 |
漁船第八幸進丸 |
総トン数 |
4.9トン |
3.3トン |
登録長 |
11.93メートル |
|
全長 |
|
10.29メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
|
出力 |
|
117キロワット |
3 事実の経過
第三
貴丸(以下「
貴丸」という。)は、はえ縄漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、たこ篭(かご)漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年7月10日03時00分岩手県宮古市白浜漁港を発し、宮古湾外の漁場に向かった。
A受審人は、自身がレーダーやGPSの取り扱いに慣れていないため、以前から
貴丸の操船をB指定海難関係人に任せていたところ、この日は発航時より濃霧のために視界制限状態となっており、レーダーによる見張りをB指定海難関係人に行わせたうえで、自ら操船の指揮をとる必要があったが、従来通りB指定海難関係人に当直を委ねたまま船橋を離れ、自ら操船の指揮をとらなかった。
B指定海難関係人は、出港操船に引き続き船橋当直に従事し、マスト灯、両舷灯、船尾灯のほか赤色回転灯を表示し、電気ホーンを装備していたが霧中信号を行わずに航行し、宮古港神林北防波堤灯台から120度(真方位、以下同じ。)340メートルの地点で、針路を宮古湾口に向く035度に定めて自動操舵とし、機関を約9ノットの半速力前進にかけ、1海里レンジで作動したレーダー画面を見ながら進行した。
03時11分B指定海難関係人は、宮古港防波堤灯台から155度1,280メートルの地点で、レーダーで前路に探知していた検疫錨地の錨泊船を避けるために、針路を022度に転じて続航したところ、同時12分レーダー画面上、右舷船首8度850メートルのところに、はえ縄の揚収作業中の第八幸進丸(以下「幸進丸」という。)の映像を認め得るようになったが、ほかにも港湾工事用の標識など幾つかの映像が映っており、それらの映像と識別できるよう、レンジを切り換えて見るなどの方法で確認しなかったので、同船の映像に気付かなかった。
B指定海難関係人は、幸進丸が霧中信号を行っていなかったこともあって、その後も同船の存在に気付かずに続航し、03時14分宮古港防波堤灯台から105度930メートルの地点に達したとき、船首方向100メートルばかりに工事用標識灯のひとつを視認し、これを替わすために針路を039度に転じたところ、250メートルの先の幸進丸に向首することとなったが、レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、依然として同船の存在に気付かなかった。
貴丸は、幸進丸に向首したまま進行し、B指定海難関係人が至近距離に同船の灯火を視認して右舵一杯を取ったが、間に合わず、同じ針路及び速力のまま、03時15分宮古港防波堤灯台から098度1,070メートルの地点において、その船首が幸進丸の右舷船尾に後方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は濃霧で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視程は約200メートルであった。
A受審人は、船員室で着替えをしているときに衝撃を感じ、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
また、幸進丸は、はえ縄漁業等に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、はも胴漁のために仕掛けたはえ縄を揚収する目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、7月10日02時30分白浜漁港を発し、宮古湾中部の漁場に向かった。
ところで、C受審人は、前日夕方、宮古港検疫錨地の北端に当たる宮古港防波堤灯台から112度930メートルの地点を始点として、043度の方向へ約3,000メートルの長さのはえ縄を設置しておいたもので、10日当日は濃霧で視界が制限されている状況下、汽笛の装備がないために霧中信号を行うことができなかったが、はえ縄の揚収作業中に他船が接近するようなときは、備え付けの信号灯などによって合図を送ればよいと思い、はえ縄の揚収作業を行うこととした。
C受審人は、02時50分前示の設置始点に到着し、レーダーを作動し、機関を停め、甲板に出てはえ縄の揚収作業を開始したが、作業に没頭してレーダーの画面をほとんど見ていなかったので、03時12分検疫錨地の錨泊船の西側に
貴丸の映像が現れ、その後宮古湾口に向けて北上して来ることに気付かなかった。
03時14分C受審人は、はも胴を25個ばかり揚収して前示衝突地点に至り、船首を040度に向けて作業中、正船尾方250メートルのところに
貴丸のレーダー映像を探知することができ、その後同船が自船に急速に接近していることを認め得る状況であったが、レーダーから目を離していたので、依然として同船の存在に気付かなかった。
幸進丸は、ほぼ同じ態勢ではえ縄の揚収作業を続行中、C受審人が船尾方至近距離に
貴丸の赤色回転灯及び航海灯を視認し、急いで機関を前進にかけて左舵を取ったが、及ばず、船首が014度を向いたところで前示のとおり衝突した。
衝突の結果、
貴丸は船首ハンドレール及びローラーを損傷し、幸進丸は船尾甲板及びブルワークを損傷し、C受審人が頚部に軽度の負傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、霧のために視界制限状態となった宮古湾において、湾外に向けて航行中の
貴丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、前路ではえ縄の揚収作業を行っていた幸進丸を避けなかったことによって発生したが、幸進丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
貴丸の運航が適切でなかったのは、船長が、視界が著しく制限されている状況下、無資格の当直者に船橋当直を委ね、自ら操船の指揮をとらなかったことと、当直者が、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宮古湾を通航するにあたり、霧のために視界が著しく制限される状況となった場合、自身がレーダーの取り扱いに慣れていなかったから、B指定海難関係人をレーダー見張りにあてて自分を補佐させ、在橋して自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、B指定海難関係人の方が機器類の取り扱いに慣れているので操船を同人に任せておこうと思い、在橋して自ら操船指揮にあたらなかった職務上の過失により、前路ではえ縄の揚収作業を行っていた幸進丸を避けずに進行して衝突を招き、自船の船首ハンドレール及びローラー、幸進丸の船尾甲板及びブルワークを損傷し、C受審人に軽度の頚部負傷を負わせるに至った。
C受審人は、夜間、霧のために視界制限状態となった宮古湾において、はえ縄の揚収作業を行う場合、汽笛の装備がなく霧中信号を行うことができなかったから、接近する他船をレーダーにより発見し、自らの動作で衝突を回避できるよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、はえ縄の揚収作業に没頭して、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、
貴丸の接近に気付かず、衝突を避けるための有効な措置をとることができずに衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じるに至った。
B指定海難関係人が、夜間、霧のために視界制限状態となった宮古湾において、単独で船橋当直にあたり、レーダーにより前路に幾つかの映像を認めた際、レンジを切り換えて見るなどして船舶の映像かどうかを確認しなかったことは、本件発生の原因となる。