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平成14年仙審第25号
件名

漁船春日丸漁船第二早田丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月6日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上中拓治)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:春日丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二早田丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
春日丸・・・船首部に擦過傷
早田丸・・・右舷後部外板に亀裂及び破口

原因
春日丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
早田丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、春日丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の第二早田丸を避けなかったことによって発生したが、第二早田丸が、見張り不十分で、避航を促すための音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月5日04時55分
 新潟県粟島北北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船春日丸 漁船第二早田丸
総トン数 8.49トン 4.28トン
登録長 14.07メートル 10.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 257キロワット  
漁船法馬力数   35

3 事実の経過
 春日丸は、底引き網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人がほか1人と乗り組み、カニ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成12年10月5日01時00分新潟県寝屋漁港を発し、同県粟島の北北西方の漁場に至り、03時ごろ操業を開始した。
 A受審人は、04時30分ごろ第1回目の揚網を終えてカニ約40キログラムを漁獲したのち、漁場を移動することとし、04時44分粟島灯台から344度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点を発進し、航行中の動力船の灯火のほかトロールにより漁ろう中であることを示す緑色全周灯及び白色全周灯も点灯したまま、212度の針路及び5.0ノットの対地速力で進行するうち、まもなく網の一部に損傷があることを知り、同時50分粟島灯台から341度9.2海里の地点に達したとき、第2回目操業予定地点に向くよう針路を192度に転じて自動操舵とし、操舵室を離れて後部甲板に行き、網の補修作業にとりかかった。
 転針したときA受審人は、前方右舷側に紅色灯及び白色灯を連掲した船舶が数隻いるのを認め、漂泊している様子から漁具の設置を終えたはえ縄漁船が時間待ちをしているものと思ったが、自船の船首方向をよく見ないまま操舵室を離れたので、そのころ、正船首750メートルのところに、紅色全周灯、白色全周灯のほか両色灯及び船尾灯を点灯した第二早田丸(以下「早田丸」という。)が存在していることに気付かなかった。
 A受審人は、早田丸がはえ縄漁船群の1隻で、同じように漂泊していることを認め得る状況であったが、網の補修作業に没頭し、前路の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、同船を避けることなく続航し、04時55分少し前ようやく前方40メートルばかりに早田丸を認め、急いで機関を後進にかけたが、間に合わず、04時55分粟島灯台から340度8.9海里の地点において、原針路のままの春日丸の船首が、早田丸の右舷後部に後方から78度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、早田丸は、はえ縄漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、むつ漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、10月4日23時00分山形県鼠ヶ関港を発し、翌5日01時ごろ粟島北北西方7海里ばかりの漁場に至り、02時30分ごろ操業を開始した。
 B受審人は、長さ約3,000メートルのはえ縄を東西方向に3列平行に設置し、04時30分ごろ同作業を完了し、揚げ縄に取りかかる日出ごろまで近くで待機するため、はえ縄の北側にあたる前示衝突地点付近に行き、機関を中立運転とし、両色灯、船尾灯のほかトロール以外の方法により漁ろうに従事していることを示す紅色全周灯及び白色全周灯を点灯したまま、漂泊を開始した。
 04時50分B受審人は、北東からの風浪によって船首が270度を向いていたとき、右舷船首57度750メートルのところに、自船に向首する態勢で接近する春日丸の、緑色全周灯、白色全周灯、両舷灯及び後部甲板の作業灯の余光を視認することができたが、漂泊を開始したときから操舵室の床に寝転んでおり、周囲の見張りを行っていなかったので、同船に気付かなかった。
 B受審人は、その後も早田丸の接近に気付かず、避航を促すための音響信号を発することも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもできないまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、春日丸は船首部に擦過傷を生じ、早田丸は右舷後部外板に亀裂及び破口を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、新潟県粟島沖合において、漁場移動のために航行中の春日丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の早田丸を避けなかったことによって発生したが、早田丸が、見張り不十分で、避航を促すための音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、粟島沖合において底引き網漁の操業中、漁場移動のために航行する場合、漂泊中のはえ縄漁船が散在する海域であったから、それらの船舶を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室を離れて後部甲板で漁具の補修作業に没頭し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の早田丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じ、早田丸の右舷後部外板に亀裂及び破口を生じさせるに至った。
 B受審人は、夜間、粟島沖合において、はえ縄を設置したのち、漂泊して時間待ちをする場合、自船に向首する態勢で接近する船舶を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する船舶があっても漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、操舵室の床に寝転んでいて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、春日丸の接近に気付かず、避航を促すための音響信号を発することも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもできないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図
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