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平成13年函審第53号
件名

漁船第31海光丸貨物船アファナシーボガチャーレフ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年8月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:第31海光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海光丸・・・船首部を圧壊、右舷側船首部外板に亀裂
ア号・・・左舷側船首部から中央部の船側外板に擦過傷

原因
海光丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ア号・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第31海光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るアファナシーボガチャーレフの進路を避けなかったことによって発生したが、アファナシーボガチャーレフが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月4日06時46分
 北海道茂津多岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第31海光丸 貨物船アファナシーボガチャーレフ
総トン数 19.23トン 3,736.0トン
全長 19.70メートル 123.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 132キロワット 1,470キロワット

3 事実の経過
 第31海光丸(以下「海光丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年8月3日14時30分北海道瀬棚港を発し、同港北西方約24海里の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、同年2月中旬九州沖合でいか漁を開始したのち日本海の漁場を北上し、7月中旬から連日14時ごろ瀬棚港を出港して北海道奥尻島や茂津多岬沖合などの漁場で夜間操業を行い、翌朝07時ごろ帰港して水揚げ後、引き続き次の出漁準備を整えて出漁する形態を続け、同港に入港して自宅で4時間ばかり休息をとる状態を繰り返し疲労していた。
 A受審人は、17時45分前示漁場に至って操業を開始したのち約2時間の仮眠をとり、翌4日04時05分いか約780キログラムを獲て操業を打ち切り、同時15分同漁場を発進して帰航の途につき、茂津多岬灯台から309度(真方位、以下同じ。)23.4海里の地点において、針路を瀬棚港に向く143度に定め、機関を全速力前進にかけて8.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、発進時から単独で船橋当直に就き、操舵室内を移動して見張りに当たっていたが、06時20分ごろから同室前部左舷側に設置している高さ約1.2メートルの魚群探知器の後方で同器の上に両肘をのせ、これにもたれかかって見張りを続けた。
 06時30分A受審人は、茂津多岬灯台から270度7.1海里の地点に達したとき、右舷船首22度4.4海里のところにアファナシーボガチャーレフ(以下「ア号」という。)を初めて認め、自船がア号の前方をかわっていくものと気を許して依然、魚群探知器の上に両肘をのせた楽な姿勢をとっていたところ、疲労していてそのままの姿勢で当直を続けると居眠りするおそれがあったが、漁場で仮眠をとったので大丈夫と思い、立って手動操舵に切り替え操舵に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、同じ姿勢をとり続けているうちいつしか居眠りに陥った。
 A受審人は、06時38分茂津多岬灯台から263度6.5海里の地点に達したとき、右舷船首22度2.2海里にア号が近付き、その後同船が前路を左方に横切り方位が変わらずに衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、06時46分茂津多岬灯台から254度6.1海里の地点において、海光丸は、原針路、原速力のまま、その船首がア号の左舷船首部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃で目覚め、機関を中立にして事後の措置に当たった。
 また、ア号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長Gほか22人が乗り組み、材木を揚荷したのち空倉のまま、船首2.8メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同月2日19時00分釧路港を発し、ロシア連邦ハバロフスク地区ワニノ港に向かった。
 ア号は、翌々4日05時00分水垂岬灯台から244度5.7海里の地点に達し、当直中の一等航海士が針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.4ノットの速力で北上した。
 06時00分G船長は、瀬棚港西方沖合で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、三等航海士を見張りに、甲板員を手動操舵にそれぞれ当たらせて同一針路、速力で進行した。
 G船長は、06時30分茂津多岬灯台から235度7.4海里の地点で、左舷船首20度4.4海里に海光丸を初めて認め、同時38分同灯台から244度6.5海里の地点に達したとき、左舷船首20度2.2海里に接近した海光丸が前路を右方に横切る状況であり、同船に対する動静監視を行っていたところ、同船の方位が変わらずに衝突のおそれのある態勢で接近することを知ったが、漁船はいつも間近で避けていくことからそのうち海光丸が避けるものと思い、警告信号を行わず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、06時46分わずか前左舷船首至近に迫り、危険を感じ、右舵一杯を令したが効なく、ア号は、船首が008度を向いているとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海光丸は、船首部を圧壊して右舷側船首部外板に亀裂などを生じたが自力で瀬棚港に入港し、のち修理され、ア号は左舷側船首部から中央部の船側外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、茂津多岬西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近した際、南東進中の海光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るア号の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中のア号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に就いて茂津多岬西方沖合を瀬棚港に向け帰航する場合、魚群探知器に両肘をのせた楽な姿勢のまま当直を続けると疲労により居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、立って手動操舵に切り替え操舵に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、漁場で仮眠をとったので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路を左方に横切るア号の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、海光丸の船首部に圧壊などを、ア号の左舷側船首部から中央部の船側外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:24KB)





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