日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第24号
件名

遊漁船福神丸プレジャーボートかず丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月12日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:福神丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:かず丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
福神丸・・・右舷船首部に擦過傷
かず丸・・・左舷船尾部に破口等、船長が頭部打撲傷等

原因
福神丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
かず丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、福神丸が、見張り不十分で、漂泊しているかず丸を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、かず丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月2日16時20分
 長崎県野母埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船福神丸 プレジャーボートかず丸
総トン数 4.72トン 2.70トン
登録長 10.74メートル 6.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 180キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 福神丸は、最大搭載人員7人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成13年6月2日04時30分長崎港を発し、06時30分ごろ同港西南西方26海里ばかりの釣り場に至って釣りを行った。
 ところで、福神丸は、船体中央部から後方に客室及びその後部に一段高くなった操舵室とが一体となった船室を有し、船室の前面囲壁の前方で、操舵室前面から前方約1.5メートルの船体横方向中央部のところにオーニング用支柱があり、支柱と客室屋根の間に木材が取り付けられ、たも網を立てかけておく一時置き場となっていた。
 16時00分A受審人は、樺島灯台から279度(真方位、以下同じ。)22.5海里の地点の釣り場を発進して帰航の途に就き、このとき網の直径約45センチメートルのたも網4本が一時置き場に立てかけられ、たも網の網によって操舵室から前方の見通しが左右各10度妨げられた状態であったものの、前方を見たところ他船がいなかったことから、操舵室右舷側の椅子に腰掛け、GPSに入力した長崎県西彼杵郡高島の北側沖合の地点に向け、針路を079度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、16時19分樺島灯台から283.5度18.2海里の地点に達したとき、正船首500メートルのところにかず丸を認め得る状況であったが、他船はいないものと思い、操舵室の窓から顔を出してたも網の網によって妨げられた前方の見通しを補うなど、見張りを十分に行わなかったので同船に気付かず、右転するなど同船を避けるための措置をとらないまま続航し、同時20分わずか前船首至近にかず丸を初めて認め、急いで左舵をとったが及ばず、16時20分樺島灯台から284度17.9海里の地点において、原速力のまま069度に向首した福神丸の右舷船首がかず丸の左舷船尾に真後ろから衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、かず丸は、船内外機を装備した、最大搭載人員6人のFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎港を発し、同時30分ごろ同港西南西方9海里ばかりの釣り場に至って釣りを行った。
 B受審人は、釣果がなかったことから釣り場を移動し、13時00分前示衝突地点付近に至り、直径約4メートルのパラシュート型シーアンカーを船尾から投入したのち、ロープ端が輪となった直径20ミリメートルの合成繊維製アンカーロープを約30メートル延出して推進器部を揚げないまま機関を止め、高島に向首した態勢で漂泊をして手釣りを始めた。
 16時19分B受審人は、前示衝突地点で、折からの南南西風を受け、アンカーロープを右舷船尾端のクリートにかけていたので、同ロープが右舷船尾45度方向に伸びて069度に向首し、漂泊したまま右舷船尾部で前方を向いて手釣りを行っていたとき、左舷船尾10度500メートルのところに、福神丸が自船に向かって接近していたが、釣果が上がり始めていたので釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行うことなく釣りを続けて同船に気付かず、機関を始動して移動するなど同船を避けるための措置をとらずに漂泊中、同時20分少し前福神丸の機関音を聞き、後方を見て船尾至近に同船を初めて認め、何もできないまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福神丸は右舷船首部に擦過傷を、かず丸は左舷船尾部に破口及び亀裂並びにオーニング用支柱の曲損及びコックピット上部構造物の損壊をそれぞれ生じ、B受審人が頭部打撲傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は、長崎県野母埼西方沖合において、長崎港に向けて東行中の福神丸が、見張り不十分で、前路で漂泊しているかず丸を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、かず丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県野母埼西方沖合において、長崎港に向けて東行する場合、操舵室の前方に立てかけられていたたも網の網により、前方の見通しを妨げられていたから、操舵室の窓から顔を出して船首方の見通しを補うなど、前路で漂泊中のかず丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、かず丸を見落とし、右転をするなどかず丸を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、福神丸の右舷船首部に擦過傷を、かず丸の左舷船尾部に破口及び亀裂、並びにオーニング用支柱の曲損及びコックピット上部構造物の損壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に頭部打撲傷等を負わせるに至った。
 B受審人は、長崎県野母埼西方沖合において、パラシュート型シーアンカーを投入し、漂泊して手釣りを行う場合、自船に向かって接近してくる福神丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、福神丸を見落とし、機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、前示の損傷を生じさせるとともに、自身も頭部打撲傷等を負うに至った。


参考図
(拡大画面:21KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION