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平成14年長審第3号
件名

漁船第七大吉丸貨物船ユニーバイタル衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、半間俊士、道前洋志)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第七大吉丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第一大吉丸漁労長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
ユ号・・・船首部に小破口
第七大吉丸・・・左舷側後部外板に凹損、乗組員3人が打撲傷

原因
ユ号・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第七大吉丸・・・各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ユニーバイタルが、見張り不十分で、停留して漁ろうに従事している第七大吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七大吉丸が、速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月23日06時20分
 東シナ海南方

2 船舶の要目
船種船名 漁船第七大吉丸
総トン数 85トン
全長 42.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 500

船種船名 貨物船ユニーバイタル
総トン数 16,584トン
全長 186.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 14,783キロワット

3 事実の経過
 第七大吉丸(以下「七号」という。)は、網船第一大吉丸(総トン数135トン、以下「一号」という。)ほか3隻によって編成される大中型まき網船団所属の可変ピッチプロペラを装備した鋼製灯船兼裏こぎ船で、A受審人が操業中の七号責任者の船頭としてほか5人と乗り組み、船首3.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成13年6月10日07時00分僚船とともに長崎県奈良尾漁港を発して東シナ海の漁場に至り、操業を繰り返した。
 同月22日18時00分船団責任者の漁労長で一号に乗船中のB受審人は、全般を指揮して農林漁区506において魚群探索を開始し、翌23日02時49分長さ1,000メートルの網を円形に投入したのち、可変ピッチプロペラの翼角を0度として停留し、03時40分網の環締めを終え、船首を北西に向けた一号の左舷側を250メートルの引索で七号に裏こぎさせて右舷側から揚網を開始し、04時50分網が50メートルばかりに狭められたところで、包囲した魚が食べたえさを消化させるために泳がす目的で、09時まで網をそのままの状態として待機することとし、ほかの3隻にも待機を命じて通信長を船橋当直に当たらせて自室で休息した。
 05時50分A受審人は、船長と船橋当直を交代し、漁ろうに従事している船舶であることを示す形象物を表示することなく、マスト灯、舷灯、船尾灯、白色全周灯及び紅色全周灯4個を点灯したまま、機関を毎分回転数450にかけて翼角前進6度とし、船首を南西に向けて停留状態で裏こぎを続けた。
 06時00分A受審人は、右舷船首11度5海里のところにユニーバイタル(以下「ユ号」という。)を視認し、その後その動静監視をしていたところ、同時15分同方位のまま1.3海里ばかりに接近したので危険を感じて警告信号を断続的に行い、同信号を聞いて昇橋してきた通信長に探照灯を照射させたものの、ユ号が避航の気配がないまま同時18分ころ1,000メートルばかりに接近したが、自船は漁ろう中であり、警告信号を連吹したのでユ号が避航するものと思い、速やかに前進翼角を上げたうえ右舵一杯をとるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく、更に警告信号を続けた。
 06時18分B受審人は、当直中の通信長からの非常ベルを聞いて直ちに昇橋し、七号に向けて進行するユ号を視認し、同船に避航を促すために警告信号を行った。
 A受審人は、06時19分半ころまで警告信号を行ったが、ユ号に避航の気配がなかったことから衝突は避けられないものと思い、全員に救命胴衣を着用させ、船首部に避難するよう命じ、前進翼角を上げて右舵一杯として自らも船首部に避難するため降橋中、06時20分北緯27度05.5分東経124度51.1分の地点において、右回頭して266度(真方位、以下同じ。)に向首した七号の左舷側後部にユ号の船首が前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、視界は良好で、日出は05時47分であった。
 また、ユ号は、船尾船橋型の鋼製コンテナ船で、船長Cほか19人が乗り組み、コンテナ貨物11,413トンを載せ、船首9.30メートル船尾10.45メートルの喫水をもって、同月22日16時36分台湾基隆港を発し、京浜港に向かった。
 翌23日05時00分一等航海士Iは、北緯26度53.8分東経124度31.2分の地点から船橋当直に当たり、針路を056度に定め、機関を全速力前進にかけて15.5ノットの対地速力で、甲板手を操舵につけて自動操舵により進行し、06時15分ころにはほぼ船首1.3海里ばかりのところに停留して漁ろうに従事している七号及び一号が存在したが、見張りを十分に行っていなかったのでこれらに気付かず、七号の進路を避けないまま続航し、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
 I一等航海士は、衝撃を感じなかったところからそのまま続航し、のち海上保安部から連絡を受けて那覇港に入港した。
 衝突の結果、七号は左舷側後部外板に凹損などを生じ、ユ号は船首部に小破口などを生じたが、いずれも修理され、七号から乗組員3人が落水してそれぞれ打撲傷などを負った。

(ユ号の見張りについての事実認定)
 I一等航海士に対する質問調書中、「衝突20分前ころ右舷船首20度6海里のところに相手船を含む3隻のレーダー映像を、左舷前方7海里のところにも3隻の映像を見た。相手船のコースは不定で、速力は2〜3ノットであった。衝突10分前ころ左舷前方の3隻の映像は左方にかわって行き、右舷前方の相手船とその左方の1隻の映像は前路を左方に移動し、他の1隻の映像は右舷後方にかわる状況であった。」旨の供述記載があるが、七号及び一号の操業状況と一致しないところから、同人は見張りを十分に行っていなかったものと認定する。

(原因)
 本件衝突は、日出直後、東シナ海において、ユ号が、見張り不十分で、停留して漁ろうに従事している七号の進路を避けなかったことによって発生したが、七号が、速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出直後、東シナ海において、停留してまき網漁業の裏こぎ作業により漁ろうに従事中、自船に向首接近するユ号に避航の気配がないのを認めた場合、速やかに前進翼角を上げたうえ右舵一杯とするなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は漁ろう中であり、警告信号を連吹したのでユ号が自船を避航するものと思い、速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、自船の左舷側後部外板に凹損を、ユ号の船首部外板に小破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:14KB)





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