(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月7日05時30分
山口県角島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十五長福丸 |
漁船宝浩丸 |
総トン数 |
19.33トン |
8.22トン |
全長 |
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14.32メートル |
登録長 |
16.77メートル |
12.17メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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323キロワット |
漁船法馬力数 |
180 |
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3 事実の経過
第三十五長福丸(以下「長福丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設けたいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、平成13年1月24日09時00分北海道岩内港を発して山口県沖の漁場に向かい、途中で荒天避難したのち、越えて2月5日15時00分同県見島西方沖合の漁場に至り、同日及び翌日の夜間操業で、いか約900キログラムを漁獲し、水揚げの目的で、船首1.0メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、2月7日04時38分見島北灯台から278度(真方位、以下同じ。)17.5海里の漁場を発し、同県特牛(こっとい)港に向かった。
漁場を発したときA受審人は、法定灯火を表示し、針路を175度に定め、機関を全速力前進に掛け、11.5ノットの対地速力で、自動操舵によって進行し、付近に他船がいなかったことから、間もなく、操舵室後部右舷側のベッドで横になり、同部左舷側の2段棚の下段棚に置いたテレビで録画ビデオを観賞し始めた。
A受審人は、時折、テレビ真上の上段棚に置いたレーダーを横になったままで監視していたところ、05時14分ごろ正船首方に認めていた曳網(えいこう)中の小型漁船と思われる映像の方位が左方に変わったことを知ってビデオを見入るようになり、このころ正船首方3海里ばかりにあった宝浩丸の映像を見落としたまま進行し、同時22分少し過ぎ長門川尻岬灯台から330度17.5海里の地点に達したとき、正船首方1.5海里のところに宝浩丸の表示する白灯1灯ほか黄色回転灯や作業灯を視認できる状況となったが、レーダーで認めていた小型漁船が左方に替わったことから、もはや前路に他船はいないものと思い、ビデオ観賞に熱中し、ベッドから出て周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
05時28分半少し過ぎA受審人は、宝浩丸を正船首方500メートルに認め得るようになり、同船が白灯1灯を表示していることや動きがないことから、錨泊中であることが分かり、その後同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然としてビデオ観賞に熱中して周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、05時30分長門川尻岬灯台から327.5度16.2海里の地点において、長福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が宝浩丸の左舷中央前部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、視界は良好であった。
また、宝浩丸は、船尾部に操舵室を設けたはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同月6日01時00分山口県萩漁港(越ケ浜地区)を発し、04時30分同県角島北方沖合の漁場に至り、夜明けを待ってあまだいのはえ縄漁を開始し、18時少し前操業を終え、翌朝の操業開始まで錨泊待機することにした。
18時00分B受審人は、水深約120メートルの衝突地点付近で、船首から直径30ミリメートルの合成繊維製の錨索に繋いだ重量60キログラムの錨を投入し、錨索を180メートルばかり延出して機関を停止し、船体中央部のマストに錨泊中を示す白色全周灯を表示したほか、同灯の上方に設けた紅色回転灯及び操舵室上のマストに設けた黄色回転灯をそれぞれ点灯して就寝した。
翌7日04時30分B受審人は、起床して紅色回転灯を消灯し、船首部及び船尾部の作業灯各1灯をそれぞれ点灯したのち、船尾部甲板に赴き、操業前の準備作業を行っていたところ、05時19分半船首が東北東を向いていたとき、左舷正横少し前方2海里のところに来航する長福丸の白、紅、緑3灯を初認し、同時22分少し過ぎ船首が075度を向いたとき、同3灯を左舷正横前方10度1.5海里に認めるようになり、その後その方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、僚船が漁模様を聞きに来ているのであろうから近づけば行きあしを止めるものと思い、汽笛として備えていた電子ホーンを使用するなどして注意喚起信号を行うことなく、同作業を続けた。
05時30分少し前B受審人は、避航の様子なく接近する長福丸に危険を感じ、機関を始動して全速力後進に掛けたものの効なく、船首が075度を向いたままわずかに後退したところで、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長福丸は船首部外板に破口を伴う亀裂(きれつ)を生じ、宝浩丸は左舷中央前部の外板及び甲板を圧壊して魚倉に浸水したほか、マストの折損及び操舵機の損傷を生じたが、長福丸によって萩漁港に引き付けられ、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県角島北方沖合において、南下する長福丸が、見張り不十分で、錨泊中の宝浩丸を避けなかったことによって発生したが、宝浩丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県角島北方沖合において、漁場から特牛港に向けて南下する場合、前路で錨泊中の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーで正船首方に認めていた小型漁船が左方に替わったことから、もはや前路に他船はいないものと思い、ベッドに横になってビデオ観賞に熱中し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、白色全周灯を表示して錨泊している宝浩丸に気付かず、同船に向首進行して衝突を招き、長福丸の船首部外板に破口を伴う亀裂を、宝浩丸の左舷中央前部の外板及び甲板を圧壊して魚倉を浸水させたほか、マストの折損及び操舵機の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、山口県角島北方沖合において、操業準備作業を行いながら錨泊中、長福丸が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、同船に対して汽笛として備えていた電子ホーンを使用するなどして注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、僚船が漁模様を聞きに来ているのであろうから近づけば行きあしを止めるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、長福丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。