(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月24日17時00分
福岡湾口沖合の玄界灘
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第26臼杵丸 |
漁船金比羅丸 |
総トン数 |
103トン |
8.14トン |
全長 |
28.70メートル |
14.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
264キロワット |
船種船名 |
台船ゆたか17 |
総トン数 |
約972トン |
全長 |
51.00メートル |
幅 |
18.00メートル |
深さ |
3.00メートル |
3 事実の経過
第26臼杵丸は、鋼製引船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、船首1.65メートル船尾3.25メートルの喫水をもって、船首尾とも0.40メートルの喫水となった空船で無人の台船ゆたか17(以下「台船」という。)を、第26臼杵丸の曳航(えいこう)用フックに取った直径85ミリメートル長さ96メートルの合成繊維索と台船の船首部両端からV字型に取った直径28ミリメートル長さ28メートルのワイヤロープとを繋いで曳航し、第26臼杵丸の船尾から台船の後端までの距離を約170メートルの引船列(以下「臼杵丸引船列」という。)として、平成12年5月24日11時50分伊万里港を発し、関門港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び機関長とで、3時間交替の単独3直制とし、発航操船に引き続いて船橋当直に就き、佐賀県加唐島及び小川島南方を東行して唐津湾口の姫島北方に至り、15時40分灯台瀬灯標から234度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点において、B受審人に「異状はない。気を付けてやってくれ。」と引き継いで船橋当直を交替した。
B受審人は、第26臼杵丸の船橋上部マストに黒色ひし形形象物を掲げ、台船左舷中央部の甲板上高さ約2メートルのところに設置した橙色回転灯を点灯し、操舵装置の後方に立って見張りを行い、灯台瀬灯標の南東方1.0海里を通過して玄界島の北方に向け、16時40分玄界島灯台から310度1.6海里の、福岡湾口沖合に差しかかったところで、針路を049度に定め、機関を回転数毎分580のほぼ全速力前進にかけ、8.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により倉良瀬戸に向けて進行した。
16時50分半B受審人は、玄界島灯台から357度2.0海里の地点において、臼杵丸引船列の右舷船首79度2.0海里のところに、福岡湾口を北上中の金比羅丸を視認し得る状況となり、その後、金比羅丸が前路を左方に横切り、 衝突のおそれのある態勢で接近したが、それまで博多港に入港した経験がなかったことから、福岡湾に出入りする船舶にまで思い及ばず、前路の見張りを重点的に行い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、十分に余裕のある時期に速力を減じるなどして、同船の進路を避けずに続航した。
16時55分少し過ぎB受審人は、玄界島灯台から010度2.5海里の地点に達したとき、金比羅丸の方位に明確な変化がないまま距離が1.0海里となったが、依然として、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船が自船と台船との間に向け、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かずに進行した。
こうして、B受審人は、金比羅丸の進路を避けないまま続航中、17時00分少し前右舷後方を確認したところ、第26臼杵丸の右舷船尾30度150メートルにあたる、台船の右舷船首部から70メートルのところに、台船の船首方に向けて接近する金比羅丸を初めて視認し、衝突の危険を感じて、自動操舵から手動操舵に切り換え、汽笛で短音5回を2度にわたって吹鳴した後、機関を中立とし、更に汽笛を吹鳴したが、効なく、17時00分玄界島灯台から018度3.0海里の地点において、臼杵丸引船列は、原針路、原速力のまま、台船の右舷船首部が、金比羅丸の左舷中央部に後方から64度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
A受審人は、自室で休息中、汽笛の吹鳴音で目が覚め、直ちに昇橋して事故の発生を知り、海上保安庁に通報するとともに、金比羅丸乗組員の捜索に当たった。
また、金比羅丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長N(一級小型船舶操縦士免状受有)が1人で乗り組み、操業の目的で、同月18日16時00分福岡県博多漁港長浜船だまりを発し、同県沖ノ島南西方の漁場に向かった。
N船長は、能古島北方を通過して福岡湾口に向かい、16時41分半玄界島灯台から123度2.4海里の地点において、針路を345度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの速力で、自動操舵によって進行した。
16時48分半N船長は、玄界島灯台から081度1.6海里の、シタエ曽根西方灯浮標の西方280メートルの地点を通過し、同時50分半同灯台から064度1.65海里の地点に達したとき、左舷船首37度2.0海里のところに臼杵丸引船列を視認し得る状況となり、その後、同引船列が前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、見張りを十分に行っていなかったものか、警告信号を行うことも、 間近に接近して衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航し、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、臼杵丸引船列は、台船の右舷船首部に擦過傷を生じ、金比羅丸は、左舷中央部を損傷して転覆し、N船長(昭和24年3月21日生)が行方不明となり、1箇月後の6月24日福岡県宗像郡大島付近の海上において遺体で発見された。
(原因)
本件衝突は、福岡湾口沖合の玄界灘において、臼杵丸引船列と金比羅丸とが互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、臼杵丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、福岡湾口沖合の玄界灘において、台船を曳航して航行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、博多港に入港した経験がなかったことから、福岡湾に出入りする船舶にまで思い及ばず、前路の見張りを重点的に行い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する金比羅丸に気付かず、十分に余裕のある時期に速力を減じるなどして、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、台船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、金比羅丸の左舷中央部に損傷を生じさせて転覆させ、N船長を死亡させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。