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平成13年門審第115号
件名

プレジャーボート大栄丸漁船以津丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、西村敏和、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:大栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:以津丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大栄丸・・・船首部に擦過傷
以津丸・・・船体後部外板を圧壊、のち廃船、船長が右下腹鼠径部裂創等

原因
大栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
以津丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の以津丸を避けなかったことによって発生したが、以津丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月5日13時30分
 山口県油谷湾

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート大栄丸 漁船以津丸
総トン数 1.5トン 0.92トン
登録長 7.30メートル 4.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 77キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 大栄丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成12年11月5日09時00分山口県油谷湾南東部の伊上漁港を発し、同県角島北西方沖合5海里の釣り場に向かった。
 ところで、大栄丸は、速力が17ノットを超えると船首部が浮上し、操舵室右舷側の舵輪後方に立って操船に当たると、正船首から左舷15度及び右舷10度の範囲に死角を生じるので、A受審人は、平素、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は、10時00分目的の釣り場に至って魚釣りを行ったのち、12時30分同釣り場の南方2海里の釣り場に移動して魚釣りを再開したところ、自宅から、子供の具合が悪いのですぐ帰宅するようにとの連絡があり、13時00分同釣り場を発進して帰途に就いた。
 13時21分少し前A受審人は、油谷湾口に至り、油谷港俵島灯台から198度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、針路を082度に定め、機関を全速力前進に掛けて17.0ノットの対地速力で、舵輪後方に立って手動操舵により進行した。
 A受審人は、13時29分粟野港沖防波堤灯台から350度1,580メートルの地点に達したとき、正船首520メートルのところに以津丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後北方に向首したまま移動しないことや前方に張った錨索などから、同船が錨泊中であることが分かり、同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、子供のことに気を奪われ、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、以津丸の存在に気付かないまま進行中、13時30分粟野港沖防波堤灯台から008度1,650メートルの地点において、大栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、以津丸の左舷後部に後方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、以津丸は、船外機を取り付けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日09時00分伊上漁港を発し、前示衝突地点付近に至り、同時35分船外機を停止して船首から重さ約10キログラムの錨を水深17メートルの海底に下ろし、直径16ミリメートルの合成繊維製錨索を30メートル延出して船首部のクリートに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、船首を北風に立てて錨泊したのち、左舷船尾に置いたいすに腰を掛け、左舷方を向いて操業を始めた。
 13時29分B受審人は、船首が000度を向いていたとき、左舷船尾82度520メートルのところに自船に向首した大栄丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、接近する他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、操業に専念し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき船外機を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けた。
 B受審人は、13時30分少し前至近に迫った大栄丸に初めて気付いて立ち上がり、両手を振りながら大声で叫んだものの、効なく、海中に飛び込んだ直後、以津丸は、船首を000度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、以津丸は、船体後部外板を圧壊したが、以津丸は修理費の関係で廃船処理された。また、B受審人は、大栄丸に救助されたが、約1箇月の入院加療を要する右下腹鼠径部裂創等を負った。

(原因)
 本件衝突は、山口県油谷湾において、東行中の大栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の以津丸を避けなかったことによって発生したが、以津丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県油谷湾を伊上漁港に向けて東行中、船首部の浮上により死角を生じ、船首方を見通すことができない状態で進行する場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことがないよう、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、子供のことに気を奪われ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の以津丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、大栄丸の船首部に擦過傷を、以津丸の船体後部外板に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に右下腹鼠径部裂創等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、山口県油谷湾において、錨泊して一本釣り漁に従事する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、接近する他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、操業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する大栄丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき船外機を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:30KB)





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