(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年5月11日18時20分
関門港門司区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十八長門丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
61.73メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十八長門丸(以下「長門丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油タンカーで、A受審人ほか4人が乗り組み、A重油1,000キロリットルを積載し、船首3.1メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成12年5月11日11時30分大分県大分港を発し、福岡県博多港に向かった。
ところで、長門丸の操舵装置は、株式会社トキメックが製造したPR−2023−SS−040型電動油圧式で、操舵コンソール、リモートコントローラー、バルブユニット、パワーユニット、手動ポンプユニット及び操舵機ユニットで構成され、同コンソールに設けられた操舵切替スイッチにより、自動、手動、遠隔及びレバー(ノンフォローアップ)操舵の各操舵方法が選択できるようになっており、自動、手動及び遠隔の各方法で操舵を行うときには操舵コンソールに内蔵されている増幅器を介して、レバー操舵のときには同増幅器の電気回路を介さずに、それぞれバルブユニット内の電磁弁に電気信号を送り、同弁を作動させて油圧回路を構成し、必要な舵角を得るもので、これら操舵コンソールでの各操舵方法で作動できない場合には、非常操舵として、操舵機室において電磁弁の非常用作動レバーを直接操作することにより、操舵することができるようになっていた。
発航後A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び甲板長の単独4時間3交代制とし、16時00分周防灘航路第1号灯浮標南方で一等航海士と交代して当直に就き、機関当直の操機長を主機遠隔操縦コンソールに配し、17時53分関門航路に入ったのち、18時04分半門司埼灯台から271度(真方位、以下同じ。)530メートルの地点で、針路を220度に定め、機関を全速力前進に掛け、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
18時12分半A受審人は、巌流島灯台から031度1,790メートルの地点に達し、針路を航路に沿った199度に転じたのち、同時13分舵を中央に戻して自動操舵に切り替えたところ、船首が徐々に左転し始めたので舵角指示器を見ると、左舵5度となっていることを認めた。
A受審人は、操舵切替スイッチを手動操舵に切り替え、舵輪を舵中央の位置にしたものの、舵は中央に戻らず、次いで、使用していた1号系列の電磁弁から2号系列の電磁弁に切り替えたが正常な状態に復旧することができなかったので、同スイッチをレバー(ノンフォローアップ)操舵に切り替え、レバーを右に倒して右舵としても、操舵装置の故障で、左舵5度をとったままの状況となった。
A受審人は、長門丸が操舵装置の故障のため、左舵5度をとったまま、左転を続ける状況となったが、左舷前方0.7海里付近のところに、接近する2隻の反航船を認め、その動向に気をとられ、速やかに操舵機室に乗組員を配し、非常操舵に切り替えて応急操舵に当たるとともに、機関を後進に掛けて行きあしを止めるなどの操舵装置故障時の緊急措置をとらないで続航した。
18時15分半A受審人は、機関を半速力前進に減じ、同時16分少し過ぎ反航船が替わったところで、更に微速力前進に減じたものの、約4.5ノットの速力で左転を続け、同時18分関門港門司区西海岸ふ頭の岸壁に200メートルまで接近して、衝突の危険を感じ、機関を全速力後進に掛け、乗組員を船首に配置して左舷錨を投下したが、長門丸は、徐々に速力を減じながら進行し、18時20分巌流島灯台から079度1,200メートルの地点において、船首を116度に向け、約1ノットの前進惰力をもって、西海岸ふ頭の岸壁に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には約1.5ノットの北東流があった。
衝突の結果、長門丸は球状船首部に凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は、関門海峡を西行中、操舵装置の故障で左舵がとられたままの状況になった際、緊急措置が不十分で、関門港門司区西海岸ふ頭の岸壁に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大分港から博多港に向けて、関門海峡を西行中、操舵装置が故障して左舵がとられたままの状況となった場合、速やかに非常操舵に切り替えて応急操舵に当たるとともに、機関を後進に掛けて行きあしを止めるなどの操舵装置故障時の緊急措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷前方から接近する反航船の動向に気をとられ、速やかに操舵装置故障時の緊急措置をとらなかった職務上の過失により、行きあしを止めることなく岸壁に向け進行して衝突を招き、長門丸の球状船首部に凹損を生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。