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平成13年門審第79号
件名

瀬渡船剛丸瀬渡船第3瑞鳳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、千手末年、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:剛丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第3瑞鳳丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
剛丸・・・右舷側波よけ用のビニールシートに擦過傷、釣客1人が右肘打撲及び腰部捻挫
瑞鳳丸・・・左舷中央部に擦過傷

原因
瑞鳳丸・・・追い越しの航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、第3瑞鳳丸が、剛丸の右舷側至近に向けて針路を転じたことによって発生したものである。
 受審人Bの二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月20日23時25分
 福岡県宇島港

2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船剛丸 瀬渡船第3瑞鳳丸
総トン数   0.80トン
全長 11.25メートル 11.00メートル
登録長 7.91メートル 6.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 54キロワット 33キロワット

3 事実の経過
 剛丸は、船尾部に操舵室を設けた、最大搭載人員13人の和船型FRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客を迎えに行く目的で、船首0.25メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成12年7月20日23時00分福岡県宇島港2号物揚場を発し、同港西3号防波堤に向かった。
 ところで、宇島港には、九州電力株式会社豊前発電所が立地し、その東側に港湾施設が整備されており、南側から順に西1号から西3号までの各防波堤が、更に西3号防波堤の東方に東防波堤がそれぞれ築造され、西3号と東両防波堤との間が港口になっていて、東西約200メートルの幅員があり、 そこから水路が南北方向に延び、西1号防波堤北端付近で東方にくの字形に屈曲して港奥部に至っていた。また、西2号防波堤の東方には公共岸壁(以下「北公共岸壁」という。)があり、さらに、屈曲部から港奥部にかけては、南側に公共岸壁(以下「南公共岸壁」という。)があるほか、1号から3号までの各物揚場があり、南公共岸壁北側の水域は、同岸壁西端付近で対岸の1号物揚場までの距離が約300メートルあり、港奥部に向かうに従って徐々に狭まり、宇島港西3号防波堤灯台(以下「西3号防波堤灯台」という。)から148度(真方位、以下同じ。)970メートルの地点にあたる、港奥部の2号物揚場北端に浮桟橋が設置されていた。
 A受審人は、昭和57年から宇島港において瀬渡船業を営み、専ら同港内の各防波堤に釣客を輸送していたところ、平成7年にB受審人が新たに参入したことで競合状態となり、爾来(じらい)、両受審人の間に確執が生じていた。
 A受審人は、白色全周灯及び両色灯を表示したほか、釣客が自船を識別するための紫色回転灯を点灯して東防波堤に向け北上し、23時03分ごろ東防波堤西端付近に到着して自船の釣客がいないことを確認したうえで、西3号防波堤に移動し、同防波堤北端に船首を付けて釣客3人を乗せ、順次南下しながら西2号防波堤北端付近で1人及び同防波堤南端付近で4人を乗せた後、西1号防波堤に移動した。
 23時22分A受審人は、西3号防波堤灯台から187度560メートルの地点にあたる、西1号防波堤北端付近に船首を南東方に向けて付け、更に釣客3人の合計11人を乗せた後、同防波堤を発進するに当たり、港内の状況を確認したところ、左舷後方に第3瑞鳳丸(以下「瑞鳳丸」という。)の白、緑2灯を視認した。
 A受審人は、前部甲板に釣客全員を乗せ、自らは操舵室で立って手動操舵に当たり、23時23分半西1号防波堤を離れ、釣客の乗下船場所としていた前示浮桟橋に向かい、同防波堤北端を通過したところで、機関を回転数毎分2,000の10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、南公共岸壁北側水域のほぼ中央部に向けて進行した。
 23時24分A受審人は、西3号防波堤灯台から182度570メートルの地点において、左舷後方290メートルのところに瑞鳳丸が南下しているのを認め、同時24分少し過ぎ同灯台から176度630メートルの地点に達し、針路を112度に定めたとき、左舷船尾76度200メートルのところに接近した同船が、自船より速い速力で3号物揚場東端の定係地に向かっていることを知ったものの、自船の船尾方を通過する態勢であったので、特段気に留めることなく、着桟予定の浮桟橋を船首目標として、釣客に注意を払いながら続航した。
 こうして、A受審人は、右舷側の南公共岸壁西端を約130メートル隔てて進行し、23時25分少し前西3号防波堤灯台から165度700メートルの地点において、瑞鳳丸が船尾方約50メートルのところを右舷方に替わったことを認め、同船が自船の右舷側を十分に隔てた針路で追い越すものと思って続航していたところ、同船が左転して右舷側至近に針路を転じて衝突の危険を生じさせ、同時25分極わずか前右舷側至近に迫った同船を認めたが、衝突を避けるための措置をとる暇もなく、23時25分西3号防波堤灯台から160度750メートルの地点において、剛丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部に、瑞鳳丸の左舷前部が、後方から12度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
 また、瑞鳳丸は、船内外機を備え、船尾部に操縦席を設けた、最大搭載人員8人の和船型FRP製瀬渡船で、B受審人が1人で乗り組み、東防波堤に渡した釣客を迎えに行く目的で、船首0.10メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同日23時00分宇島港3号物揚場東端の定係地を発し、東防波堤に向かった。
 B受審人は、白色全周灯及び両色灯を表示したほか、船体中央部の天幕の枠に取り付けた電球2個を点灯し、8.0ノットの速力で手動操舵によって北上していたところ、西2号防波堤に渡した釣客のことが気に掛かり、23時05分同防波堤北端付近に立ち寄り、同釣客が翌朝まで釣ることを確認したうえで、再度東防波堤に向かった。
 23時10分B受審人は、西3号防波堤灯台から075度230メートルの地点にあたる、東防波堤の北端付近に到着し、船首を同防波堤に付けて釣客を乗船させようとしたところ、同釣客も翌朝まで釣りたいとの意向であったことから、翌朝迎えに来ることを伝え、定係地に向けて帰途に就いた。
 23時22分少し過ぎB受審人は、東防波堤を発進し、船尾付近にある機関室出入口の上蓋に腰を掛け、左手でアウトドライブ装置のハンドルに取り付けた舵棒を、右手でクラッチ及び燃料ハンドルをそれぞれ操作して操船に当たり、針路を188度に定め、8.0ノットの速力で、北公共岸壁寄りをこれに沿って南下した。
 B受審人は、北公共岸壁の中央付近に差し掛かったころ、自宅に電話が掛かってくる予定があることを思い出し、急いで帰宅しようとして、23時24分西3号防波堤灯台から155度400メートルの地点において、機関回転数毎分2,200の15.0ノットに増速したとき、右舷船首33度290メートルのところに剛丸の白灯及び紫色回転灯を視認し、同船が定係地に向けて東行していることを知った。
 B受審人は、剛丸の動静を監視しながら南下を続けるうち、釣客を乗せた同船の右舷側近距離のところを追い越してA受審人を驚かせようと考え、同船が正船首を左方に通過した後、23時24分半わずか過ぎ西3号防波堤灯台から168度640メートルの地点において、舵棒を引いて針路を左に転じ、同時25分少し前同船の船尾方50メートルのところを通過して更に左転を続けた。
 こうして、B受審人は、23時25分わずか前西3号防波堤灯台から165度730メートルの地点に達し、剛丸を左舷船首30メートルに見るようになったとき、同船の右舷側を約5メートルの近距離で追い越すつもりで、針路を100度に転じたところ、同船の右舷側至近に向けることになり、衝突の危険を生じさせて急速に接近し、瑞鳳丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突後、B受審人は、A受審人に対して謝罪することを躊躇い、そのまま現場を離れて定係地に向かった。
 衝突の結果、剛丸は、右舷側波よけ用のビニールシートに擦過傷を、瑞鳳丸は、左舷中央部に擦過傷をそれぞれ生じ、剛丸の右舷側に立っていた釣客1人が、1週間の加療を要する右肘打撲及び腰部捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡県宇島港において、両船がそれぞれ定係地に向けて帰航中、第3瑞鳳丸が、剛丸を追い越そうとして針路を転じる際、剛丸の右舷側至近に向けて針路を転じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、福岡県宇島港において、定係地に向けて帰航中、剛丸を追い越そうとして針路を転じる場合、剛丸と安全な距離を隔てることができる針路に転じるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、以前から同業者であるA受審人との間に確執があったことから、同受審人を驚かせようと考え、釣客を乗せた剛丸の右舷側近距離のところを追い越すつもりで、同船の右舷側至近に向けて針路を転じた職務上の過失により、剛丸と進路が交差して衝突の危険を生じさせ、同船に急速に接近して衝突を招き、剛丸の右舷側波よけ用のビニールシートに擦過傷を、第3瑞鳳丸の左舷中央部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、剛丸の釣客1人に1週間の加療を要する右肘打撲及び腰部捻挫を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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