日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年広審第44号
件名

漁船第五十八金時丸漁船第二共栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄、西田克史、伊東由人)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第五十八金時丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二共栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第二共栄丸甲板員 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
金時丸・・・球状船首外板に亀裂を伴う凹損
共栄丸・・・左舷前部外板に破口、転覆し、のち廃船、甲板員が溺死

原因
金時丸・・・動静監視不十分、船員の常務(前路進出・新たな危険)不遵守(主因)
共栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、転岸する第五十八金時丸が、左舷を対して航過する態勢で入港する第二共栄丸の前路を横切る態勢で左転し新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二共栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月30日16時24分
 島根県浜田漁港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八金時丸 漁船第二共栄丸
総トン数 195.63トン 14.99トン
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 第五十八金時丸(以下「金時丸」という。)は、船尾船橋型鋼製漁船で、網船1隻灯船3隻から成る巻き網船団の付属運搬船としてA受審人ほか5人が乗り組み、夕方出港して翌朝帰港するパターンで沖合漁場で操業する自船団の漁獲物の運搬に従事していたところ、漁場に向かうに先立って漁獲物用製氷を積み込むため、空倉のまま、船首1.90メートル船尾3.64メートルの喫水をもって、平成13年10月30日16時20分島根県浜田港漁港区内の港奥東に位置する魚市場のある漁港ふ頭西側岸壁(通称「5号岸壁」と呼ぶ、以下同じ。)から同区製氷所前岸壁(通称「7号岸壁」と呼ぶ、以下同じ。)に向けて転岸を開始した。
 ところで、浜田港は、北西方に開いた湾の奥に位置し、港内は商港区(南部)と漁港区(北部)とに分かれ、漁港区内には同区北西入口部の北防波堤と沖防波堤との間から東方の港奥に向かって順に西内防波堤及び西防波堤が北西方に向いて築造されてその東に漁港ふ頭が位置しており、全長360メートルの西防波堤と5号岸壁との間は200メートルの卸売市場のある岸壁(通称「4号岸壁」と呼ぶ、以下同じ。)を挟んで北西方に開いたコ字型の水域を形成し、また西防波堤を介してその西側に7号岸壁が位置していた。そして港口から西内防波堤に続いて西防波堤の各背の高い防波堤北端を経て4号及び5号各岸壁に至るまでの狭い水域は、水揚げのためにこれらの岸壁に直航する漁船の通航路に相当するところであった。
 A受審人は、シフトを開始するにあたって、自船が空船状態でしかも大きい船尾脚状態のため船橋中央部の操船位置からでは船首左右舷各8度の範囲で前路の見通しが妨げられた状況であったが、特に見張り要員を配せずに乗組員を船首尾部に配置して転岸作業を行わせたまま、自らが単独で操舵操船にあたり、右舷付け状態から船首尾索を放つと機関を種々使って船体を岸壁から離した。
 16時22分少し前A受審人は、船体を岸壁から十分に離したところで、岸壁線に対して船首を約20度振った状態から機関を微速力前進にかけ7.0ノットの速力で移動を始めた。同時22分少し過ぎ船首が303度(真方位、以下同じ。)を向いた左舷船首9度730メートルのところに北防波堤付近を入港してくる第二共栄丸(以下「共栄丸」という。)を初めて視認し、続いて同時22分半左舷船首9度630メートルのところで同船のほぼ船橋正面を認めるようになって互いに左舷を対して航過する状況となり、それまでの地元船同志の出会い経験から同船が沖合漁場での操業を終えて水揚げのため前示通航路を西内防波堤及び西防波堤寄りに4号岸壁に向かうことを知った。
 ところが、A受審人は、7号岸壁に向けて左転するに際して共栄丸の前路を横切っても、互いに地元船であることから共栄丸の方で自船が運搬船で氷積込のために7号岸壁に向かうことを解し左舵をとって自船を右舷側に替わしてくれるものと思い、その航過を待ってから左転することなく、同速力のまま小舵角の左舵を取り始めた。同時23分少し前浜田漁港西内防波堤灯台(以下「西内防波堤灯台」という。)から109度460メートルの地点に達し、船首が300度に向いた左舷船首8度480メートルのところに共栄丸が自船の船首死角に入った状況となったころ、更に左舵を取って転進を続けた。その結果、共栄丸の前路を横切る態勢となり同船と新たな衝突のおそれがある関係を生じたが、西防波堤及び接岸しようとしていた7号岸壁の方に目が向いて同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、同じ針路のまま接近する同船に気付かず、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま左転を続け、16時24分西内防波堤灯台から113度210メートルの地点において、金時丸は、260度を向いたその船首が、原速力のまま、共栄丸の左舷側前部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、共栄丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B及びC両受審人(以下、受審人両名の姓を省略する。)ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同30日03時00分浜田港漁港区を発し、山口県高山岬沖の漁場に至って操業を行い、14時20分漁獲物約500キログラム(トロ箱約100ケース相当分)を獲て操業を止め、同港に向け帰途に就いた。
 ところで、本船は、C受審人ら親族が共有し乗り組んで操業の目的で運航され、船長資格を有するB受審人を名目上の船長としたうえで、叔父にあたるC受審人が船長資格の海技免状を受有しないながらも長年実質上の漁ろう長格として操業等運航の指揮を執っていた。そして、漁場から帰港まで約2時間の所要の間、C受審人が単独で帰途の操船にあたり、B受審人ら他の乗組員全員が漁獲物の選別作業そして港口に近づいたころから漁獲物の氷詰め作業にあたっていた。
 C受審人は、いつものとおり漁場を発進すると単独で操船に就き、機関を全速力前進にかけて帰航を開始した。一方B受審人は、長く運航に熟練した叔父が単独で操船にあたるとはいえ、入港に際しては狭い港内での不測の事態に速やかに対応できるよう、船橋等に見張り員を配するなどの入港配置体制を十分に採ることなく、それまでと同様に他の乗組員と共に甲板上での作業に就いた。
 こうして、16時22分少し前C受審人は、浜田漁港北防波堤灯台から270度190メートルの地点に達したところで、針路を浜田港漁港区の港口にあたる沖防波堤と北防波堤との間に向く102度に定め、機関を全速力前進にかけたまま10.0ノットの速力で港内に向かって進行し、同時22分少し過ぎ左舷側30メートルばかりに北防波堤を通過した。
 16時22分半C受審人は、西内防波堤灯台から317度110メートルの地点に至り、着岸予定の4号岸壁付近など港内に移動中の他船のほかいつも西防波堤北端東側付近に横付けされていた大型起重機船(総トン数1,800トン、長さ60メートル、幅22メートル)などいずれも見当らなかったので、4号岸壁に右舷付けし易いようにと考え、針路を西内防波堤に続き西防波堤にできるだけ寄せた予定接岸地点に向首する120度に転じたころ、左舷船首6度630メートルに金時丸を認めることができ、互いに左舷を対して航過する状況となった。
 ところが、C受審人は、休日と違ってプレジャーボートも見当らず更に巻き網船などの出漁時間帯でもなかったので、出漁船など港内を移動する船もいないと思い、前方に対する見張りを十分に行わなかったので、金時丸に気付かなかった。さらに、16時23分少し前西内防波堤灯台に並航したところで、自船の航走波で岸壁停泊船に動揺を与えないよう機関を微速力前進に減じて6ノットの速力としたとき、左舷船首8度480メートルのところに金時丸を認めることができ、引き続き互いに左舷を対して航過する状況であったところ、同船が左に転進して自船の前路を横切る態勢となり、新たな衝突のおそれがある関係を生じるようになったが、西防波堤北端を右舷側至近に通過することに注意するあまり、これに気を取られ、左前方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、警告信号を行うこともさらに速やかに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく進行中、同時24分少し前作業中の乗組員から左舷船首至近に迫った同船との衝突の危険を告げる叫び声を聞いて初めて金時丸を認め、急いで機関を全速力後進にかけたが及ばず、共栄丸は、ほぼ原針路のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、金時丸は球状船首外板に亀裂を伴った凹損を生じ、共栄丸は左舷前部外板に破口を生じ転覆しのち廃船され、更に共栄丸甲板員T(昭和42年11月8日生)が転覆した船内から救出されたものの溺死した。

(原因)
 本件衝突は、浜田港漁港区において、両船が互いに左舷を対して航過する態勢で接近する際、5号岸壁から7号岸壁に向け転岸する金時丸が、入港する共栄丸の前路を横切る態勢で左転し新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、共栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 共栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が入港配置体制を十分に採らなかったことと、船橋当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、浜田港漁港区において、出漁に先立ち5号岸壁から出入港船の通航路を横切り7号岸壁に転岸する際、左前方近距離に入港する共栄丸と互いに左舷を対して航過する態勢で接近する場合、入港する同船の航過を待って転針すべき注意義務があった。しかし、同人は、入港する共栄丸の前路を横切っても同船が自船を右舷側に替わすものと思い、その航過を待って転針しなかった職務上の過失により、共栄丸の前路を横切る態勢で左転し新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたうえ、その後の動静監視を十分に行わないまま進行して、同船との衝突を招き、金時丸の球状船首外板に亀裂を伴った凹損を生じさせ、また共栄丸の左舷前部外板に破口を生じ同船を転覆のち廃船させ、更に共栄丸甲板員Tが転覆した船内から救出されたものの溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、沖合漁場での操業を終えて浜田港漁港区4号岸壁に入港着岸する場合、それまで長らく操業等運航の指揮を執ってきた叔父が単独で入港操船にあたるとはいえ、狭い港内で入航時の不測の事態に速やかに対処できるよう、見張り員を船橋等に配するなどの入港配置体制を十分に採るべき注意義務があった。しかし、同人は、それまで叔父1人に入航操船を任せて支障なかったので、他の者と共に甲板上で漁獲物の氷詰め作業にあたり、船橋等に見張り員を配するなどの入港配置体制を十分に採らなかった職務上の過失により、転岸する金時丸が新たな衝突のおそれを生じさせたまま接近する状況に気付かず進行して、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの船体損傷及び乗組員死亡を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、沖合漁場での操業を終えて浜田港漁港区に入航する際、それまでどおり単独で操船にあたる場合、慣れた港とはいえ不測の事態に備え狭い港内を移動する同業船などを見落とすことのないよう、港内特に前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、港口付近で港内に移動する他船など入港に支障となるものを目にしなかったので、その後接岸予定の4号岸壁に右舷付けの操船を容易にすべく右舷側に通過する予定の西内防波堤及び西防波堤にできるだけ寄せることに注視し、港奥等の左前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、港奥の5号岸壁から離岸した金時丸が船首至近距離で自船の前路を横切るように左転し新たな衝突のおそれを生じさせたまま接近する状況に気付かず、速やかに警告信号を行うこともさらに衝突を避けるための措置もとらないまま進行して、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの船体損傷及び乗組員死亡を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:31KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION