(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月11日03時55分
備讃瀬戸西部黒土瀬戸東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三喜代丸 |
漁船隆丸 |
総トン数 |
193トン |
4.8トン |
全長 |
54.00メートル |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
第三喜代丸(以下「喜代丸」という。)は、ベッカーラダーを装備した船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材614トンを積載し、船首2.6メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成13年8月10日20時30分兵庫県東播磨港を発し、広島県福山港に向かった。
A受審人は、翌11日00時半ごろ岡山県犬島付近で昇橋し、機関長と交替して単独の船橋当直に就き、航行中の動力船が掲げる灯火を表示し、下津井瀬戸を経由したのち、03時10分正頭港一文字防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から103度(真方位、以下同じ。)7.0海里の地点で、針路を黒土瀬戸に向け271度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
03時45分A受審人は、南灯台から133度2.15海里の地点に達したとき、左舷船首20度3.0海里のところに、隆丸の白灯数個を初めて視認し、操舵室の窓枠を利用してその動静監視を行っていたところ、その方位に明らかな変化が認められず、同時51分南灯台から155度1.6海里の地点に至って隆丸を同方位のまま1.2海里に見るようになり、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したものの、自船を右舷側に見ている隆丸が避航するものと考えて続航した。
A受審人は、隆丸の灯火模様などから小型の漁船であることが分かり、そのうち緑灯を視認するようになって、03時53分半少し前南灯台から167度1.46海里の地点に達し、1.5海里レンジとしたレーダーで隆丸を0.5海里に確認したとき、手動操舵に切り替えるとともに、避航を促すつもりで操舵室上部の信号灯を使い約5秒間点滅したにもかかわらず、同船に避航の気配が認められなかったが、小型船なので更に接近すれば自船を避けるものと思い、直ちに汽笛を使用して警告信号を行うことなく、隆丸の避航に期待しながら進行した。
A受審人は、その後、両船が更に間近に接近したとき、大角度の転針で替わせるものと判断し、03時54分半衝突を避けるための協力動作として右舵一杯をとったがわずかに及ばず、03時55分南灯台から177度1.43海里の地点において、喜代丸は、右転中の船首が023度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船尾部に、隆丸の船首が後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期にあたり、付近には微弱な東流があった。
また、隆丸は、えびこぎ網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、えびなど漁獲物約100キログラムを水揚げする目的で、船首0.15メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日03時35分岡山県白石島漁港を発し、同県寄島漁港に向かった。
B受審人は、航行中の動力船が掲げる灯火を表示したほか、船尾甲板に備えたデリックの頂部付近で、甲板上高さ約5メートルのところに取り付けた60ワットの作業灯2個を点灯したまま発航し、03時43分南灯台から210度3.05海里の地点で、針路を053度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
定針時、B受審人は、周囲を見渡したところ他船を見掛けなかったので、小魚やごみの選り分けなど漁獲物の選別作業を行うこととし、手元を照らすため操舵室の前方約3メートル甲板上高さ約1.3メートルのところに取り付けた傘付きの100ワットの作業灯1個を点灯した。そして、同人は、他船接近警報装置が組み込まれたレーダーを起動しないで、同装置を活用しないまま前部甲板に赴き、右舷前方に体を向け同灯の下にしゃがんだ姿勢で選別作業を始めた。
03時51分B受審人は、南灯台から194度1.9海里の地点に達したとき、右舷船首18度1.2海里のところに、喜代丸の白、白、紅3灯を視認することができ、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁獲物の選別作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、喜代丸の存在とその接近に気付かず、速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
その後も選別作業に没頭していたB受審人は、喜代丸の信号灯の点滅に気付かず、03時55分わずか前同作業を中断して周囲を見張ろうと立ち上がったとき、船首目前に右転中の喜代丸の左舷船尾部を初めて視認し、急ぎ操舵室に向かったが何の措置も取り得ず、隆丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜代丸は、左舷船尾部外板に凹損を生じただけで、隆丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸西部黒土瀬戸東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の隆丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る喜代丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の喜代丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、備讃瀬戸西部黒土瀬戸東方沖合を水揚げのため岡山県寄島漁港に向かって北上する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の選別作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する喜代丸に気付かず、速やかに右転するなどその進路を避けないまま進行して喜代丸との衝突を招き、同船の左舷船尾部外板に凹損を生じさせ、隆丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、備讃瀬戸西部黒土瀬戸東方沖合を同瀬戸に向かって西行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する隆丸に対し、信号灯による点滅を行っても避航の気配が認められなかった場合、直ちに汽笛を使用して警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型船なので更に接近すれば自船を避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、隆丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。