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平成14年広審第32号
件名

油送船第十八勢福丸油送船ノルカ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、伊東由人、佐野映一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第十八勢福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
勢福丸・・・船首ブルワークに凹損
ノルカ・・・船尾外板に凹損

原因
勢福丸・・・操船(主機の操縦ハンドル操作位置の確認)不適切

主文

 本件衝突は、第十八勢福丸が、主機の操縦ハンドル操作位置の確認が不十分で、投錨配置が解かれたのち、同ハンドルが前進状態でドレッジングしながら桟橋係留中のノルカに向かって進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月7日11時15分
 岡山県水島港

2 船舶の要目
船種船名 油送船第十八勢福丸 油送船ノルカ
総トン数 199トン 25,877トン
全長 49.18メートル 181メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 6,545キロワット

3 事実の経過
 第十八勢福丸(以下「勢福丸」という。)は、専ら、灯油、軽油、ジェット燃料を運送する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、岡山県水島港ジャパンエナジー第2号出荷桟橋においてジェット燃料500キロリットルを積載し、大分県大分港への航行に先立ち、代理店から積荷の成分分析表が届くまでの間待機する目的で、船首2.00メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、平成13年3月7日10時50分同桟橋を発し、その南方沖合の港長指定の錨地に向かった。
 ところで、勢福丸は、船橋に主機の遠隔操縦装置を備え、同装置に前後進切換と速度調整とを兼用する、長さ約13センチメートルの棒形操縦ハンドルが設備され、主機を前後進にかける際にはこれを中立位置から所定の位置まで前後に倒すもので、同ハンドル左隣には前後進及び中立の各位置の範囲を示す指示目盛が打たれていた。また、同目盛の左横には前後進及び中立の各状態を示す3個の表示ランプが設けられていたが、昼間はその光度を絞っていた。
 A受審人は、単独で操船にあたり、一等航海士及び機関長を船首配置に就けて錨地に至り、20分ないし30分の予定で仮泊することとし、ストックレスの右舷錨を投入のうえ、約10メートルの水深に合わせ錨鎖を少しだけ出し、機関を後進にかけて間もなく船首が風上を向いたので錨が海底をかいたと判断し、操縦ハンドルを中立位置に戻すつもりで後進の位置からこれを操作した。ところが、同人は、操縦ハンドルを中立位置に戻したものと思い、その操作位置を十分に確認しなかったので、操縦ハンドルがわずかに前進側に入っていることに気付かず、11時00分水島信号所から312度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点で、機関を運転状態のまま仮泊した。
 そして、A受審人は、自身が食事当番であったので降橋することとしたが、短時間の仮泊なので問題あるまいと考え、一等航海士に昇橋を命ずるなど当直体制を確保しないまま炊事場に赴き、船橋を無人とした。
 こうして、A受審人は、昼食の支度に追われていたところ、錨のアームが上方に向いたまま海底に落ちて海底をかかなかったものか、錨かきが十分でなかったためかやがて錨を引きずり始め、2.5ノット前後の行きあしをもって、北西方向からやや右方に偏位しながら桟橋係留中のノルカに向かって進行する状況に気付かなかった。
 11時15分少し前A受審人は、自室で休息中の一等航海士から自船が動いている旨の報告を受けて急ぎ昇橋し、操縦ハンドルが前進位置にあるのを認め、船首至近に迫ったノルカとの衝突を避けようと同ハンドルを後進側に操作したが及ばず、11時15分水島信号所から323度2,050メートルの地点において、勢福丸は、348度に向いた船首が、わずかな行きあしで、ノルカの船尾に後方から9度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、ノルカは、船尾船橋型油送船で、ジャパンエナジー第1号原油桟橋に沿って船首を339度に向け右舷付けで係留中のところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勢福丸は、船首ブルワークに凹損を生じたが、のち修理され、ノルカは、船尾外板に凹損を生じた。

(原因)
 本件衝突は、岡山県水島港において、勢福丸が、短時間仮泊するにあたり、右舷錨を少し投入し、主機の操縦ハンドルを後進位置から中立位置に操作した際、同ハンドル操作位置の確認が不十分で、投錨配置が解かれたのち、同ハンドルが前進状態でドレッジングしながら桟橋係留中のノルカに向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、岡山県水島港において、短時間仮泊するにあたり、右舷錨を少し投入し、主機の操縦ハンドルを中立位置に戻すつもりで後進位置からこれを操作した場合、同ハンドルの操作位置を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、操縦ハンドルを中立位置に戻したものと思い、同ハンドルの操作位置を十分に確認しなかった職務上の過失により、操縦ハンドルがわずかに前進側に入っていることに気付かず、投錨配置が解かれたのち、ドレッジングしながら桟橋係留中のノルカに向かって進行して同船との衝突を招き、勢福丸の船首ブルワーク及びノルカの船尾外板にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:25KB)





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