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平成14年広審第26号
件名

貨物船千津川丸貨物船第一千代丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、竹内伸二、西田克史)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:千津川丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:千津川丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第一千代丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
千津川丸・・・右舷船首外板に亀裂を伴う凹損
千代丸・・・船首部を圧壊

原因
千津川丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
千代丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、千津川丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第一千代丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月24日13時53分
 速吸瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船千津川丸 貨物船第一千代丸
総トン数 3,487トン 199トン
全長 105.54メートル 55.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,463キロワット 625キロワット

3 事実の経過
 千津川丸は、石灰石輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A及びB両受審人ほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首2.38メートル船尾4.15メートルの喫水をもって、平成13年6月24日05時00分岡山県水島港を発し、大分県津久見港に向かった。
 A受審人は、出航配置を解き航海士と操舵手各1名による4時間3直制に移行して自ら操船指揮をとり、霧模様で時々視程が2海里に狭められる状況下、法定灯火を表示し、備讃瀬戸北航路を経由して来島海峡西水道を航過したのち、09時15分ごろ三等航海士に船橋当直を委ねて下橋し、11時45分三等航海士とB受審人との当直交替時に昇橋して周囲の状況を確認したが、平素視界が悪化したときは報告するよう言っているので大丈夫だと思い、視程が1海里以下となったときは周囲の状況にかかわらず必ず報告させるよう、視程を明示して視界制限時の報告についての指示を十分に行わないまま、下橋して自室で休息した。
 11時50分B受審人は、愛媛県長浜港北西沖合8海里の地点で、全速力前進12.5ノットの対水速力で当直を引き継ぎ、霧模様で視程2海里前後となった伊予灘南部を西行し、13時37分佐田岬灯台から006度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点で、針路を225度に定めたとき、6海里レンジとしたアルパ装備のレーダーで左舷船首27度4.9海里のところに第一千代丸(以下「千代丸」という。)の映像を探知してそのベクトルが北方に向いているのを認め、このころ霧により左舷方1.5海里の陸岸が視認できず視程が1海里に狭められていたが、周囲に支障となるような他船もいないので船長を呼ぶまでもないと思い、視界悪化状態について船長に報告せず、操舵手に手動操舵とするよう命じ、折からの潮流に乗じて14.0ノットの対地速力で、霧中信号を行うことなく進行した。
 13時42分B受審人は、千代丸のレーダー映像ベクトルが北方に向いたまま変わらないのでそのまま北上すると判断し、視界が急速に悪化する状況下、最短停止距離など考慮して安全な速力とすることなく、操舵手に命じてゆっくりと左転し、同時48分半佐田岬灯台から293度1.1海里の地点で、針路を180度に転じたとき、視程150メートルばかりとなった状況のもと、千代丸の映像を右舷船首7度1.2海里に認めるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、針路を転じたので同船は右方に替わると思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったのでこのことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせず14.0ノットの対地速力のまま続航した。
 13時51分少し前B受審人は、千代丸のレーダー映像が少し船首方に移動し接近しているように感じ、針路を175度に転じ、左舷船尾方から潮流を受けて169度の実効針路で進行し、同時53分わずか前右舷船首方至近に千代丸を視認して左舵一杯を命じたが効なく、13時53分佐田岬灯台から237度1.1海里の地点において、千津川丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首に千代丸の船首が前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は150メートルで、付近海域には2ノット弱の南東流があった。
 A受審人は、自室で休息していたところ衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
 また、千代丸は、船尾船橋型貨物船で、C受審人ほか3人が乗り組み、木材チップ530トンを積載し、船首2.8メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、6月23日15時10分鹿児島県鹿児島港を発し、愛媛県三島川之江港に向かった。
 翌24日12時00分C受審人は、高甲岩灯台の東方2海里の地点で、全速力前進10.0ノットの対水速力で単独の船橋当直を機関長から引き継ぎ、霧模様の豊後水道西部を北上し、13時00分佐田岬灯台から178度5.2海里の地点で、針路を345度に定めたとき、霧により視程0.2海里の視界制限状態となったので、法定灯火を表示して手動で霧中信号を行い、折からの潮流に抗し9.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
 13時37分C受審人は、佐田岬灯台から213度2.3海里の地点で、2ノット弱の南東流を左舷船首方に受けて実効針路352度、8.0ノットの対地速力で続航し、同時43分3海里レンジとしたレーダーで右舷船首29度2.9海里のところに、千津川丸の映像を探知し、アルパを使用してその動向を監視していたところ、南西方に向かうベクトルが現れたので、同船を左方に替わすつもりで、同時45分機関を微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力とし、針路を026度に転じて実効針路056度で進行し、針路を転じたので同船は左方に替わると思い、その後の動静監視を行わなかった。
 13時48分半C受審人は、佐田岬灯台から237度1.4海里の地点で、千津川丸の映像を左舷船首19度1.2海里に認めるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然動静監視不十分で、このことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力とすることも、必要に応じて行きあしを止めることもせず、同じ針路、速力で続航し、同時53分少し前間近に接近した千津川丸のレーダー映像に気付き、右舵一杯をとって機関を全速力後進にかけたが及ばず、千代丸は、040度に向首して、2ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、千津川丸は、右舷船首外板に亀裂を伴う凹損を生じ、千代丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、両船が霧のため視界が著しく制限された速吸瀬戸を航行中、南下する千津川丸が、安全な速力とせず、レーダーにより前方に探知した千代丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、動静監視不十分で、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上する千代丸が、レーダーにより前方に探知した千津川丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、動静監視不十分で、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 千津川丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、船橋当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧模様の瀬戸内海を航行中、航海士に船橋当直を委ねる場合、視程が1海里以下となったときは周囲の状況にかかわらず必ず報告させるよう、視程を明示して視界制限時の報告についての指示を十分に行うべき注意義務があった、しかるに、同人は、平素視界が悪化したときは報告するよう言っているので大丈夫だと思い、視界制限時の報告についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、船橋当直者から霧で視界が悪化した旨の報告が得られず、自ら操船指揮をとることができずに衝突を招き、千津川丸の右舷船首外板に亀裂を伴う凹損を、千代丸の船首部を圧壊するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界が著しく制限された速吸瀬戸を南下中、レーダーにより前方に千代丸を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を転じたので千代丸は右方に替わると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、霧のため視界が著しく制限された速吸瀬戸を北上中、レーダーにより前方に千津川丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を転じたので千津川丸は左方に替わると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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