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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年広審第12号
件名

貨物船黄金丸漁船計福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年7月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、伊東由人)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:黄金丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
黄金丸・・・船首のペイント剥離
計福丸・・・中央部左舷外板及び操舵室を大破、転覆し、全損、船長が溺死

原因
黄金丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
計福丸・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、黄金丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る計福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、計福丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月19日03時25分
 瀬戸内海 周防灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船黄金丸 漁船計福丸
総トン数 151トン 4.94トン
全長 47.40メートル  
登録長   10.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 黄金丸は、専ら山口県宇部港から大阪港にソーダ灰を運搬する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、ソーダ灰500トンを載せ、船首2.55メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、所定の灯火を表示し、平成13年9月19日00時30分宇部港を発し、大阪港に向かった。
 A受審人は、前日15時ごろ積荷終了後に休養をとり、離岸後、機関を微速力前進にかけて同港内を手動操舵で操船に当たり、港口を過ぎたころから機関回転数を徐々に上げ、特殊無線技士(レーダー)の免許を有する同人の妻の機関長が舵輪左側に置かれたレーダー後方の椅子に座ってレーダーを監視し、自らは舵輪後方の椅子に座って船橋当直に当たった。
 A受審人は、宇部港沖合の本山灯標を左舷側に航過したのち周防灘を東行し、19日02時25分少し過ぎ佐波島灯台から170度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点で、針路を山口県尾島に向く093度に定め、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵で進行した。
 03時13分半A受審人は、周防野島灯台(以下「野島灯台」という。)から198度3.1海里の地点に達したとき、レーダーを監視していた機関長から右舷前方に船がいることを知らされ、レーダー映像を見たところ、右舷船首25度2.5海里のところに計福丸の映像を認めたが、その映像が小さいので漁船と判断し、接近しても漁船の方で避けてくれるものと思い、目視でその灯火模様や方位変化を確認するなどして同船に対する動静監視を十分に行うことなく、機関長と雑談しながら続航した。
 03時20分半A受審人は、野島灯台から176度3.0海里の地点で、右舷船首25度1.0海里となった計福丸の白、紅2灯を視認することができ、その後同船がその方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然同船に対する動静監視を十分に行わなかったのでこのことに気付かず、右転するなどして計福丸の進路を避けずに進行した。
 03時25分少し前A受審人は、機関長が危ないと言ったので船首方を見たところ、右舷船首至近に計福丸の灯火を視認して衝突の危険を感じ、椅子から立ち上がり手動操舵に切り替えて右舵一杯、引き続き機関を全速力後進とし、機関長に電動サイレンを吹鳴させ、探照灯で自船の前部を照射させたが効なく、03時25分野島灯台から163度3.2海里の地点において、黄金丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、計福丸の左舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、計福丸は、小型機船底引き網漁に従事する木造漁船で、船長Iが1人で乗り組み、底引き網漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同月18日06時30分ごろ山口県野島漁港を発し、野島南方沖合の周防灘の漁場に向かった。
 I船長は、07時ごろ漁場に至って操業を始め、18時30分ごろ所定の灯火を点灯したのち、野島南南東方約9.0海里沖合に移動して投網し、西北西方に底引き網を曳いた後一旦網を揚げ、同島南西方約9.0海里の地点で再び投網して東南東方に曳網を続け、翌19日02時ごろから揚網を開始した。
 揚網を終えたI船長は、02時29分野島灯台から163度8.8海里の地点で、漁獲物を魚市場に水揚げするため、針路を同灯台に向く343度に定め、機関を全速力前進より少し下げ、速力を6.0ノットにして自動操舵とし、甲板上で漁獲物の選別をしながら進行し、新南陽市の魚市場に向かった。
 03時20分半I船長は、野島灯台から163度3.6海里の地点に達したとき、左舷船首45度1.0海里のところに、黄金丸の白、白、緑3灯を認めることができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢となり、間近になっても自船の進路を避けずに接近したが、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、計福丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、黄金丸は、船首にペイント剥離を生じただけであったが、計福丸は、中央部左舷外板及び操舵室を大破し、転覆して全損となり、I船長(昭和2年3月1日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が溺死した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、周防灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、東行する黄金丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る計福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する計福丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、周防灘を東行中、右舷前方に計福丸のレーダー映像を認めた場合、目視でその灯火模様や方位変化を確認するなどして同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった、しかるに、同人は、その映像を一瞥して漁船と判断し、接近しても計福丸の方で避けてくれるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、黄金丸の船首にペイント剥離を生じさせ、計福丸の中央部左舷外板及び操舵室を大破し、転覆して全損とさせ、I船長が溺死するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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