(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月22日10時32分
伊予灘北東部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金比羅丸 |
貨物船ボゴ1 |
総トン数 |
4.65トン |
579.00トン |
全長 |
11.80メートル |
58.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
121キロワット |
478キロワット |
3 事実の経過
金比羅丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.40メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、漕ぎ釣り漁の目的で、平成13年10月22日05時00分愛媛県松山港を発し、同港西方の伊予灘北東部の漁場に向かった。
ところで、金比羅丸の漕ぎ釣り漁法は、長さ約150メートルのワイヤの先端に、仕掛けと称する多数の釣針を付けた長さ約150メートルのナイロン製ロープを連結し、その連結部分に錘を取り付けたものを漁具として使い、魚群を探索してこれを海中に投入し、機関を低速回転で約1時間曳いたところで、機関のクラッチを中立とし、右舷後部に備えられたローラーを使ってワイヤと錘の巻き上げに7分ばかり要し、引き続き仕掛けを手繰りにして釣針から魚を取り外すというものであった。
A受審人は、06時ごろ大水無瀬島付近に至って操業を続けていたところ、10時25分機関のクラッチを切って停留し、南西方に約300メートル延び水深約50メートルのところに投入した漁具の揚収作業に取り掛かり、ローラーを使用して右舷側からワイヤの巻き上げとともに、船体が南東方に向首したままわずかに漁具の方向に移動を始めた。
10時27分A受審人は、沖家室長瀬灯標から078.5度(真方位、以下同じ)3.85海里の地点で、船首が140度に向いていたとき、左舷船首68度1,100メートルのところにボゴ1を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれがある態勢のまま自船を避けずに接近していたが、漁具の揚収作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、ボゴ1に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず、さらに間近に接近したとき、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないままほぼ停留状態で作業中、10時32分沖家室長瀬灯標から079度3.8海里の地点において、金比羅丸は、140度に向首したその左舷船首部に、ボゴ1の右舷船首部が前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近海域には微弱な北東流があった。
また、ボゴ1は、鋼材や石材を輸送する船尾船橋型貨物船で、船長Jほか8人が乗り組み、鋼材約550トンを載せ、船首1.95メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月21日17時10分和歌山県和歌山下津港を発し、瀬戸内海経由で大韓民国釜山港に向かった。
翌22日06時ごろJ船長は、来島海峡に差し掛かったとき、二等航海士を伴って2人体制で船橋当直に就き、同海峡に続いて釣島水道を経て平郡水道に向かって西行した。
10時00分J船長は、平郡水道第4号灯浮標近くに至り、大石灯標から135度3.2海里の地点で、針路を250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、7.8ノットの対地速力で進行した。
10時15分J船長は、二等航海士が用便のため降橋したので単独で見張りにあたっていたところ、同時27分沖家室長瀬灯標から078度4.45海里の地点に達したとき、正船首わずか右1,100メートルのところに金比羅丸を初めて視認したものの、一見しただけで、止まっているので右舷側に替わるものと思い船位の測定に取り掛かり、引き続き同船に対する動静監視を行わなかったので、その後、金比羅丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど金比羅丸を避けないまま続航した。
こうして、J船長は、後部右舷側の海図台に向かって10時30分の船位を使用海図に記入していたとき、ボゴ1は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
10時32分少し過ぎJ船長は、船位の記入を終えて右舷正横方至近に金比羅丸を認め、無難に航過したものと思ってそのまま西行を続け、しばらくして数隻の漁船が追いかけてきたので同時55分機関を停止したところ、衝突の事実を知らされ、事後の措置にあたった。
衝突の結果、金比羅丸は、船首部を折損したが、のち修理され、ボゴ1は、右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであった。また、A受審人が、約3週間の通院加療を要する頸椎捻挫等を負った。
(原因)
本件衝突は、伊予灘北東部において、ボゴ1が、動静監視不十分で、前路で停留している金比羅丸を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、伊予灘北東部において、停留して漁具を揚収する場合、自船に向かって接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁具の揚収作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するボゴ1に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもしないまま停留を続けて同船との衝突を招き、金比羅丸の船首部を折損させ、ボゴ1の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるとともに、自身が頸椎捻挫等を負うに至った。